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静岡村は避難してきた東京村のエルフで今までにない賑わいを見せていた。それには富士山の入場制限が緩和されるのも一役買っている。
特に日用雑貨や生活用品が売れに売れる。食料や贅沢品の需要が増えて静岡村の住民は嬉しい悲鳴を上げている。
全国でも同様な光景が見られた。今回の大気圏輸送結界で何度も宇宙に物資を運んでいたのでエルフの森の位置が超大陸の人々に見つかったのは疑いようのない事実だ。
そのうえ、ジェルセ結界への魔力供給でエルフは使える魔力の大半を失った。エルフ達は目の前に迫る危機に対処しようと慌てて動き出した。
特に東樹海岸線沿いの村人は一大事である。超大陸はエルフの森の東に位置するので次に彼らが訪れるとしたら自分達の村の可能性が高い。各々の村人が自分からゴーレムの生産を始めようとしている。
エルフは今までの魔力量なら多くの事が実行できた。逃げる事も戦う事も魔力が必要なのだ。力の源泉たる魔力の喪失はエルフの防衛力に大きな痛手を与えた。今までは気軽に魔法が撃てたが今後はそうも行かない。
エルフは戦い方を変えなくてはならない。エルフの魔力が増えた事で弓の使用頻度が低くなっていたが現在では弓への回帰が始まっている。エルフの森全体で弓を必修項目とする決定がなされた。
強化魔法は元々推奨されていたが今後はより重要になる。強化魔法は効果の割に魔力効率が良い。まずは弓を撃って近づかれたら武器を持って戦う。エルフ古来の戦い方に回帰していくようだ。
それと同時にゴーレムの増産が決定された。ゴーレムの核となる物資は前回の戦いでほとんど使い切ってしまった。核が見つかり次第、ゴーレムの大量生産に踏み込む予定だ。
各地では今までよりも盛んに資源回収がされている。お陰で鉱石等の需要も上がっていて出島村で取れた魔鉄は普段の数倍の価格で売れた。
現在出島村では開拓村方式の経済活動が実施されている。村が得た利益を村人全員に分配する方式だ。開拓村では開拓作業の為に利益を上げられない作業に従事しなければならない人が出てくる。
人の適正によってはそういう仕事ばかりをしなければならないので開拓村が一段落するまでは村長が村であがった利益を差配する。村長の腕の見せ所だがマサモリはサビマルに全部任せて自分は自由に行動している。
最初から出島村の運営はそうするつもりだったので問題はない。マサモリは出島村からの式神で物資の購入を代行して出島村に転送陣で送り届けているので一応何もしていないという訳ではない。
転送陣を他人に任せると魔力の消費分の輸送費がかかる。出島村を作るに当たってエルフの森の全村から援助金が出たのだが節約するに越したことはないのだ。
「超大陸に行ってみたいな」
「私もー!」
「おいおい、マサモリ。またなのか。父さん、心臓が止まるんだけど」
「いけるって大丈夫大丈夫。やばくなったらすぐ逃げるって」
「お前が活動的過ぎて心配になってきた……。シラギクも親父さんに止められるんじゃないのか?」
「親父なら行ってこいって言うね」
「言いそうだ。今回はさすがに親父さんに報告するよ」
「べっつに大丈夫なのにー。ねー」
「ねー」
ヒデヤスは頭を抱えた。
「駄目駄目駄目! まだ未熟者な二人は連れてけん。ただでさえ危険なのに、そのうえ長老族が二人死んだら魔力の負担がとんでもない事になる」
「ぶーぶー!」
「横暴だ!」
「お前らは無謀だ。元気が有り余っているようなので二人には修行を申し付ける。しっかり鍛えて強くなったら超大陸に行けるかもしれないぞ」
「ふーん、どんなの?」
「資源が底をついたので富士山で魔石採取をしてもらう」
「面白そうじゃん! すぐ近くにあるのに私はまだ富士山行った事ないなー」
「よし、じゃあ富士山へ行こう」
「待てぇい! ただの魔石採取じゃ遊びになってしまう。お前達のは修行だからな。しゅ、ぎょ、う。ちゃんと課題を考えておくからそれをきっちり守って行動するように」
「はーい」
「明日までに考えておくから今日は解散! マサモリは残れ」
「富士霊樹には登っていいの?」
「駄目だ! お前達が死んだらどうするんだ。と言いたい所だが実力さえ付けば下層なら入ってもいいぞ」
「さんきゅー! 父さん! 話しが分かるぅ」
シラギクはスキップしながら自分の部屋へと向かった。
シラギクが部屋を出て離れるのを待つとヒデヤスの空気が変わった。
「超大陸の人間の残留を認めたそうだな。何故だ、マサモリ」
「可哀想だったから。後、また出島村を利用する事になるんじゃないの?」
「軍師の指示があればな。だが我々エルフはジェルセ結界との契約でほとんどの魔力を失った。前回の様な余裕は我々にはない。次に超大陸から人が攻めてきたら皆殺しにする。前回皆殺しにしなかったのは軍師がそう判断したからだ。黒船と同等の船があるならそれを拿捕するが乗組員はもう不要なはずだ」
「まあ、しょうがないよね。なら、超大陸にいるエルフを保護したらどうするの? ハーフエルフは?」
「超大陸に居るエルフとは親交が途絶えて長すぎる年月が経った。多くのエルフはもう彼らと自分達は別物だと考えているだろう。エルフとはいえ、スパイである可能性が否定できない。それが超大陸なのだ。我々は、はっきり言って平和に過ごしてきた甘ちゃんだ。これまで戦い続けて生き抜いてきた彼らに知恵や悪意で勝てるとは到底思わない。我々は長く平和すぎた。悪意の世界に我々は生き残れない。当代村長達の腑抜けっぷりを見せてやりたい。私は超大陸のエルフを受け入れる事も反対だ」
マサモリは動揺した。最終的には超大陸のエルフを出島村で受け入れるのだと思っていたからだ。
「俺は出島村に超大陸のエルフを受け入れると思ってた。受け入れないとなると出島村ってほとんど意味がないよね」
出島村の再建を否定されたように感じてマサモリは腹が立った。マサモリはヒデヤスの引いたレールを上を行っただけだが仲間がやり遂げた事を否定されるのは面白くない。
「出島村には役割がしっかりある。超大陸、つまり東側の監視と資源の回収だ。私はな、マサモリ。最初から超大陸の人間は恐るべき敵だと思っていた。魔力が減る前からだ。いくら今はエルフの方が強くても彼らはそれ覆す程の数と経験がある。彼らは超大陸という大きな檻に入れられて生き残ってきた獣ばかりだ。生存競争に勝ち残って来た猛者しか居ない。エルフは捕虜を殺せなかった。その時点でエルフの負けが確定している。弱体化したエルフが攫われたら全ての情報が流れ、数年もしたら万全の体制で襲い掛かってくるだろう。マサモリ、奴らはエルフ最大の敵だ。見つけ次第殺せ」
ヒデヤスの目には殺気が滲み出ている。しかしマサモリは敵対した場合は殺すにしても敵対していない場合は殺したくないと思った。
「そうだ。そこがエルフの良い点でもあり、悪い点でもある。超大陸に行くなら彼らは滅ぼすべき強敵だと常に心してかかれ、いいな?」
マサモリの考えている事はヒデヤスにとっては見え見えだったようだ。
「そもそも俺が出島村の村長に立候補したのは出島村をみんなにとって良い物にしたかったからだ。折角村を再建するのに嫌々やったら手伝ってくれる人に申し訳ないし、出島村自体にも良くない。経緯はどうであれ出島村はみんなに求められて望まれて生まれ、エルフを幸せにする為の村だ。まあ、父ちゃんの言う事はもっともだけど、どうするかは俺が決める。俺は仮でも村長だからね」
マサモリは甘い考えをしているという自覚はあったがそこまで割り切れなかった。出島村での超大陸の人達の様子を見たら対話が困難なのは分かる。確かに殺した方が確実とは思う。
しかし奴隷にされていた人達のような人までも殺したいとは思わない。ただ客観的にはヒデヤスの意見は正しいとマサモリも納得はしていた。
極端な意見だが超大陸の人間を滅ぼす事が可能か不可能か聴かれたら可能だろう。今のうちに滅ぼしてしまった方がエルフにとっては有益だ。マサモリも大切な人が出来たらそう思うようになるのかもしれない。
マサモリは今悩んでも考えはまとまりそうもないので後回しにすることにした。それよりも明日からの課題が楽しみだ。マサモリは軽い足取りで部屋を出た。
ヒデヤスはマサモリに反論されて少し落ち込んだ。そして切り替えの早すぎるマサモリを見て、もう少しだけでいいから悩んでほしいと切に願った。ヒデヤスは息子を守る為に自分がしっかりしなければと強く心に刻み込んだのだった。




