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認めたくはないが、実はこの二人のやり取りだが意味のないものではない。完全にただの私闘ならお上から雷が落ちていた。しかし彼らには彼らなりの言い訳が存在した。
それは魔法使用制限地帯での魔法使用実験だ。樹海のプレートによっては使える魔法に制限がかかる。これは個々人に属性傾向があるエルフには死活問題だった。得意な魔法が使えない場所では著しく戦力が落ちてしまう。
そこでそういった魔法制限に引っかからない魔法が開発された。物体を触媒にして物体を動かしたり、その物体の性質を利用する。今回は小豆や魔陸ワカメを触媒に使っている。
こうした術は属性魔法ではないので例えば群馬村でも普通に使える。群馬村では強化魔法以外が使いづらい環境になっているので強化魔法が苦手なエルフにとっては危険極まりない場所だ。
特に現在ではエルフの所有魔力が激減しているので触媒を使った魔法は時代に適合している。触媒魔法は触媒が持つ魔力を利用するのでとても燃費が良いのだ。
しかし触媒魔法は触媒にしやすい物とそうでない物がある。大半の物は触媒に向いていない。鬼の角等は触媒に向いているが小豆などは全く向いていない。
しかし趣味人が百年以上の時間をかけてただ一種類の触媒魔法を極める事は可能である。趣味と実益を兼ねた鍛錬の一種なのだった。
こうした趣味人は抑制栽培で普段よりも多く魔力を貯めた触媒を日頃から溜め込んでいる。ただ問題なのはその触媒が本人にしか使えないという点だ。
食べ物系ならなんとかなるがそうでない場合は趣味人が死ぬと誰も利用できない触媒だけが残る。魔力を帯びているので吸収する事は出来るが触媒として使うのに比べると損失は大きい。だからマイナー趣味人は必死に後継者を探すのである。
植物系は食べられる物も多く、多くの食料を持っていなくても少数の種で短時間に食料を生産できる。食べられない物でも他の使い道がある。用途が無くても趣味人がそれを無理やり見つけ出している。
エルフの森では腕に覚えのある者達が活気付いていた。何故なら新しい三つの儲け話しが募集されたからだ。
一つ目は超大陸に行って星外生物を狩る。危険度は最高。現地の人間にエルフだとバレると超大陸中から狙われる羽目になる。報奨金は高いが頭が可笑しい奴しか参加しない。
二つ目は海に向かって星外生物を狩る。危険度は水中での行動が出来る者なら低い。泳げない者はお呼びでない場所だ。水エルフが集まってきて水中戦闘訓練を教授してくれている。
三つ目は富士霊樹での採取だ。普段は混雑を防ぐ為、資源を維持する為に富士山に入れる期間と人数が制限されている。今はその枠が広がっている。多くの浪人、傭兵はこの三つ目狙いだ。
今回の戦いで膨大な量の魔石、触媒や魔道具が消費されて、市場価値が上がっている。稼ぎ時なのだ。だがみんな考える事は一緒で結局は抽選となった。
東京村では傭兵や東京村の武者が人狩りを行っている。占い師や軍師はエルフの森付近での超大陸人の生存が確認されなくなるまで毎日チェックしている。
人の数は順調に減ってきている。しかしそれがゼロになるまでは気を抜いてはならない。物資の調達よりも東京村ではそちらに重点が置かれている。
海へ向かう者は水エルフが積極的に参加してくれたお陰で定員に達した。しかし超大陸へ向かう者はさっぱり集まっていない。ただでさえお金を積まれても行きたくない場所なのに魔力の九割を失った状態で行こうと思う方がおかしい。ヒデヤスは募集の集まりを見てやはりなと思った。
他の村も同様だ。一部の変わり者以外は誰もこんな仕事は受けない。超大陸への派遣はこのままだと難しい。だが占い師や軍師から必要だと言われたら行かなくてはならない。
静岡村の一角にある樹の生い茂る広場では中空に水の塊が浮かんでいる。その中で水エルフが水泳や水中での戦い方について授業をしている。水エルフは泳ぐのが趣味のエルフ達だ。
何々エルフといった呼び方は各自が勝手に言っている事なので実際はあまり意味が無い。しかし水エルフと自称するからにはそれなりに泳ぎが得意だ。
普段、水エルフ達は川や湖等の水がある場所にいるので街中で見かけるのは珍しい。東京村は樹海に面しているし川もあるのでそれ程でもないが内陸の土地になると水エルフ自体少ない。
浪人や傭兵達は折角の機会なので水エルフ達に水中戦闘を習いに来ている。
マサモリ達も水エルフに水中戦闘を教えてもらいにきた。海に星外生物を狩りに行くわけではないが折角の機会を無駄にするのは勿体ない。
「すいません。水中戦闘を教えてください」
「はいよ。二人でいいかい?」
「「はい」」
マサモリとシラギクは子供サイズの皮鎧を付けて訓練に参加する。泳ぎは習っているが水中戦闘となると別物だ。マサモリは自分を円錐形状の結界で囲んで足元から魔法を放てば単純な水中戦闘は出来る。
そしてそれは空中にも同じ事が言える。水の壁、空気の壁の差はあるが水中戦闘を研けば空中戦闘にも応用できる可能性がある。
「おお、もしやお二人はかの有名なマサモリ様とシラギク様?」
一人の太ったトドの様な男が水の中から飛び出してきた。
「はい、でも有名ってどういう事ですか?」
「エルフの森でお二人を知らない人の方が少ないですよ。出島村やら宇宙に行った事やらです」
「えへへ。そう言われると恥ずかしくなるね」
「おいどんは浅海銛三郎でごわす。恥ずかしながらエルフの森の海の王と呼ばれてござります。お二人は砕けた話し方で構わんだす」
「そう言ってもらえると助かる。モリサブロウも砕けた感じでお願い」
「よろしくでごわす」
三人は笑顔で握手を交わした。
「俺達は水中戦闘まで習った事が無いから教えてもらいに来たんだ」
「なるほどでごわす。水中戦闘は普通のエルフはほとんど習わんでごわすな。二人は海に行くでごわすか?」
「行かないけど海の王が来ているって話しだったから良い機会だと思って」
「そうそう。モリサブロウなんか見せてよー」
「こそばゆいでごわすが、海の王の泳ぎを見せるでごわすよ」
モリサブロウが水の塊に飛び込んだ。彼が水面に潜り込むと水面に水の玉が跳ねた。その体つきからは想像できないしなやかに動きに通りかかった他のエルフも立ち止まって彼の泳ぎを見つめた。
その姿はまるで魚そのものだ。基本の形は両手を添えて前に伸ばし、足はドルフィンキックだ。魚の動きを人の形で表現している。魚との違いは手の動きで大胆に水中で体勢を変えたり急な動きを制御できる事だ。
しばらくその形で泳いだ後に今度は気をつけの姿勢になった。そして顔を進行方向に向けた。強化魔法を魚の様な形にして体に纏った。推進力は足の動きとそれに合わせて魔力で補強している。
さっきよりも動きが素早い。最初の動きは相当訓練をしないと難しいのが見て分かったがこれならマサモリ達にも実現可能だろう。視界が確保されてないと怖いという思いもある。
この状態なら武器を使ったり、魔法を使えそうだ。その後もモリサブロウは魔法を打ったり、銛を投げたり色々な技を見せてくれた。モリサブロウが水面から上がると見物客から拍手が沸いた。モリサブロウに向かっておひねりが飛んでくる。
「すごい! 感動した」
「海の妖精みたい」
「ははは、二人も鍛えればこれくらいすぐ出来るようになるでごわす」
「無理だー」
「ささっ、始めようでごわす!」
二人はみっちり水中戦闘の訓練を行った。二人はモリサブロウに気に入られ水エルフにならないかと誘われた。しかし丁寧に辞退したのだった。




