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東京村の寄合所では集まってきた情報を元に次の作戦が議論されていた。
「あのタイミングと魔物と魔力の発生からしてジェルセには意思があるのかもしれない。そうすると星外生物を滅ぼすのが一番じゃないか?」
「樹海の深い場所までは見れなかったが深層の環境を考えると樹海側が勝つだろう。私達が対処するとしたら浅い大陸棚の部分に落ちた敵だな」
「いくつ落ちてきたと思っているんだ、エルフの人口を考えると到底不可能だ」
「対処に必要な人数は今回の戦いでわかったはずだ。時間が経てば経つ程、星外生物がバラけるぞ。そうなったらもう対処しきれない。魔物や樹が戦っている今しかないんだ」
『現時点でわかった事を報告する。今回の敵はまだ前哨部隊にも満たない。星外生物は時間をかけるとこの地で増殖する可能性がある。流星痕から星外生物が向かってくる方向がわかった。ジェルセの反応からして星外生物は出来るだけ倒さなければならない。星外生物が優勢な場所は樹海浅瀬、超大陸、海だ。超大陸と海は放っておくと生物が滅びると出た。星外生物に有効な魔法は現在開発中だ』
『今後の方針は樹海に落ちた星外生物の排除。星外生物のジェルセ侵入の阻止。敵の進路が分かったのでこれ以上星外生物がジェルセに落ちないように大気圏と宇宙空間の境にあるジェルセ結界付近で戦う。宙に上がるのは長老族のみとなる。次の流星まで三から五時間と予想している』
『指定した場所に宇宙へ上がる為の大気圏輸送結界を張る。一般のエルフ達はそこへ集合して結界の構築に助力せよ。宙へ上がる長老族は魔力補給用の魔石、魔道具、霊薬、食料等を持ち込める限り持ち込め。以上』
宇宙空間には空気も魔素もない。呼吸が不可能で魔力も回復しない、死の空間だ。呼吸ができないなら魔法で空気を生み出せばよい。しかし周りに魔素がないので魔力を自力で回復できない。そこで魔石、魔道具、霊薬、食料等で魔力を回復する。
「家にある使える物を全てかき集めて宙に送り出すぞ! 商店をやっている皆さん、家にあるお金を全て持ってくるのでそれで今回必要になる品を売ってください。嵩張らない物を優先で、購入品の内容はそちらで集まって決めてください」
「わかりました」
ヒデヤスが準備を始めていく。
「わしはちょっくら大陸棚に落ちた殻野郎を倒してくるぞ。タカコ、準備はまかせた」
「全く、自分勝手なんだから。いってらっしゃい。きっちり仕事してきな」
「応!」
「出島の人はどうする? もう超大陸に返しちゃっていいかな」
「彼らにも家族が居るからな……。とりあえず聞いてみよう」
『出島にいる超大陸の人々を返しても大丈夫でしょうか』
『許可する。確実に記憶は奪うように』
『はい』
「よし、マサモリ行ってこい」
「うん! シラギク、サビマル、一緒に来て」
「我は忙しいんだぞ。っんたく、しょうがない。我が居なければ不安になるのも致し方なしか」
「おっけー」
「ありがとう、転移陣へ行こう!」
三人は駆け出した。
「到着。シラギクは女性を連れてきて、俺とサビマルは男性宿舎で一人ずつ記憶を消してくる」
石化を解除して片っ端から記憶を消していく。そして特別な魔力を籠めた花粉を鼻と口から入れる。意識は曖昧だが体は反射的に異物を体外に押し出そうとする。
そのタイミングで魔法を使って今の状況を覚えさせる。この処置をされると重度の花粉症になって樹海に近寄れなくなる。その上、遺伝性するので彼らの子孫は樹海には入れなくなるだろう。
この方法はかなり昔に生み出されていた。これを超大陸の全てに撒けば樹海の安全が保たれるのではないか。答えは否である。幼い子供等は逆に耐性を付けてしまう場合があるので無差別にばら撒く事はできなかったのだ。
石化を解除した時に一言だけ聞いた言葉がある。
「これから君達を超大陸へ帰す」
多くの人は予想通り喜んで肯定した。
「お願いします。何でもしますからここに居させてください。もし超大陸で解放されても私はすぐに奴隷にされるでしょう。あそこは地獄だ。お願いします。もしそれが叶わなければここで殺してください」
彼は小さい頃からずっと奴隷だった。元々争いを好まない、気の弱い性格だったので村では常にいじめられた。彼は人を傷付けるのが好きではなかった。
しかし彼の気性は超大陸で生きていくには合わな過ぎた。彼が十歳の時に村は盗賊に襲われて老人は殺され、それ以外は全て奴隷として売り払われた。
奴隷になってからも過酷だった。農奴生活の中でも彼の争いを望まない性格は他人から軽蔑された。彼の心は圧倒的に戦いに向いていなかった。彼はいつしか奴隷の奴隷になり心を動かすのを止めた。
彼はただ家族と静かに穏やかな生活をしたかったが力が無かった。力が無い者には超大陸は地獄そのものだった。
「わかった。今は危険だから石にしておくよ」
「ありがとうございます!」
彼がそう言うだろう事はマサモリでも予想が出来た。けど残ってくれると言われるとやはり嬉しい。
「男で残ったのは一人か。記憶の消去は大丈夫かな?」
「ああ、大丈夫そうだ」
「後は女性だけだ」
二人いた女性は二人とも残留を望んだ。彼女達も奴隷だった。そして超大陸に戻っても行き場はなかった。
そんな女性の末路は超大陸では決まりきっている。出島村に残るのが彼女達にとって最良の選択だろう。マサモリは記憶を消されて花粉症にされた男達を再び石化させた。
「よし、ひとっ走りして超大陸に置いてくるよ」
「私も行きたい!」
「我もついて行ってやろう」
「わかった」
マサモリは全体的に丸みを帯びた円盤状の結界を張って石像を入れていく。全員が乗り込めると結界を二重に張って隠蔽魔法をかけてからゆっくりと上昇させた。
樹海の木の葉を掻き分けて樹海面上に出る。そしてそのまま上昇してから超大陸へ向けて一気に発進した。
「わー、すごい」
シラギクが素直に感嘆の声をあげた。隠蔽魔法をかけたからといっても普段だったら絶対許されない移動方法だ。
樹海の中を移動するには障害物が多すぎるので速度と消費魔力を考えると樹海面から出て飛んだ方が良い。高度が低すぎると樹海の重力に引っ張られるのである程度の高度まで上がらなければとても危険だ。
超大陸へ近づくと流星が落ちた場所にクレーターが出来ていて遠くからでも一目で分かった。今頃あそこでは戦いが繰り広げられているのだろう。
超大陸は危険な場所だが滅びてほしいとは思っていない。こういう時こそ力を合わせるべきだとマサモリは思った。だが大人達はあわよくば超大陸の人々が絶滅する事を願っているようだ。マサモリは自分が甘いだけなのだろうかと自問自答した。
「あそこに止めろ」
サビマルが開けた場所を指さして言った。マサモリは言われた通りの場所に着地した。石像達をポイポイと降ろしていく。全員を下ろしたら後は石化を解呪するだけだ。
「はい、解除っと」
石像が一斉に解除された。男達は焦点が合わない眼でへたり込んだ。
『全員成功。帰ろう』
マサモリは結界を空へと上昇させて出島村へと向かった。短い間だったが濃厚な時間だった。楽しい思い出なんてほとんどなくて大変な事ばかりだったが終わってみて肩の荷が降りた気がする。
残ってくれたのは穏やかな人なのでこれからはゆったりと過ごせるだろう。それも今回の危機を乗り越えてからだ。マサモリは一人決意を新たにした。
出島に到着すると転送陣でエルフの森へ向かう。エルフの森の寄合所に着いた頃には二時間が経過していた。




