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「来るぞ!」
目視より音のほうが如実に流星の到来を告げている。大地が震える程の摩擦音が次第に大きくなってきた。マサモリは強く足元を踏みつけて高く高く空へと飛んだ。
垂直に飛んで上昇が止まる間際に足元に結界を張って再び上空を目指す。ついに空気と流星の摩擦音で他の音が聞こえなくなった。そして熱と巨大質量が目の前に迫ってくる実感と共に肌が総粟立った。
作っておいた結界を少しずつ大きくしていく。どの位の大きさが良いのかわからないので最初は大きく作って受ける時に縮めれば良い。マサモリは結界に集中した。
結界を設置して後は流星を受けるだけとなった。喉がカラカラに乾いていくのをマサモリは感じた。流星が近付いてくる余波で吹き飛ばされそうになるのを踏ん張った。
チムニーで感じた熱さをマサモリは思い出した。あれは大地から生命が溢れるような力強いなにかを感じた。しかし目の前の流星からは悪寒と死の匂いがした。
不意に結界が流星が衝突する圧力を捕らえた。流星の直径は一キロ以上もある。できるだけ柔らかく丁寧に勢いを殺そうとする。いつもは素早く動くのを邪魔する空気だが流星を受け止めていたのも空気だと思うと空気に対して感謝の念が沸いてくる。
マサモリの結界はゴムのようにたわんで流星を包み込んだ。このまま包み込むように衝撃を吸収しようとした。しかし異変を察知した流星は突然内側から破裂するように弾けた。
マサモリは袋の入り口を閉じるように流星の破裂を結界で包んだ。すると結界は内側からの破裂でウニのようになった。
「いくよ!」
シラギクは藻掻いて外へ出ようとするウニの針部分を避けて中心点に近づいた。そして東京湾に向かって魔力を練っていた棍棒を振るった。マサモリは内と外の衝撃で結界が壊れないように最後の集中を深めた。
「喰らえー!」
シラギクの一撃は流星をしっかりと捉えた。流星は東京湾の方へ結界ごと吹き飛んでいった。シラギクは自分が撃った流星をそのまま追う。途中に方向修正の必要もなく流星は東京湾へ到着した。東京湾の木の葉の海に落とされた流星はシラギクの助走ののった一撃によって真下に叩き落された。
『流星の落下を確認。総員抜刀!』
ダンジロウの念話が響いた。
他の流星が次々と星に突き刺さる。大地は揺れて衝撃波が樹海と樹海面に響いた。地の底から未だ感じた事のない高周波が響いた。鼓膜が張り裂けそうになるそれはジェルセのあげる悲鳴のように感じられる。すると樹海の底から水が染み出るように魔力が湧き出した。
「どの村も流星の直撃はなかったようだ。しかしこの魔力はいったい……。駄目だ、わからん」
マサモリは樹海面下の助太刀に行きたくてサビマルの方を見る。
「まだだ。俺達は上からの敵に対処する」
ダンジロウは武者エルフ達と東京村の浪人達と共に東京湾へ向かっていた。寄合所にまだ着いていない人達は長老族が迎えに走っている。ダンジロウは浪人達と合流して流星への対処を任せれたのだ。
ダンジロウは大いなる重責に押しつぶされそうになったが共に戦ってきた武者エルフ達の顔を見ると不安も少し和らいだ。
以前は隣り合って戦っていた浪人達を指揮する立場となった事がまるで夢の出来事のように感じる。しかしいつまでも呆けていられない。任された仕事をきっちりとこなす事に全神経を集中する。
ダンジロウ達が東京湾に着いた頃には落下する流星の轟音は大きくなるばかりだった。大気の震えが肌で感じられる。あれはただの流星ではない、敵だ。
鼓膜を破るような音がふっと収まると次に鈍い大きな音がした。そして暫くの無音。皆しきりに上を向いて耳を澄ませた。最後に爆発音が聞こえたかと思うと前方に結界に包まれた何かが樹々を枝を全て折りながら落ちてきた。
体が浮くような振動と共に結界が破れて敵が溢れ出した。
『流星の落下を確認。総員抜刀!』
ダンジロウは念話をすると敵に向けて走り出した。敵の習性が分からない以上、まずは一当てしないといけない。もしこちらが防衛を選んでも敵が無視を決め込んで四方八方に動いたら敵を倒すのは非常に困難になる。
「魔法を放て!」
流星から溢れ出た敵は大小様々だがどの個体も殻や鱗の様な部分とナメクジの様な軟体部分から構成されている。一番小さい個体は円錐を二分割したような殻を持っていてそれを槍や矢じりの様にして突進してくる。大きくなるにつれて殻の体積が増して攻撃力も増すようだ。
次に小さい個体はサソリやクワガタの様な形状をしているが殻部分の攻撃力に体の形状を優先させているせいかとても歪に見える。中型だと獣の様な四足歩行になり、大きくなると蛇や巨人のような姿だ。
殻は堅く、敵が小さい割に一匹一匹の突進力は侮れない。全ての個体が宇宙からの落下に耐えられる装甲を身に着けていると考えると脅威だ。
ダンジロウの指示に従い魔法が飛び交った。浪人達を小集団に分けてお互いに役割を割り振った。今回は各々が指定された属性の魔法を打った。今回に限り火魔法を使う事が許可されている。火属性が得意なエルフは普段は火魔法が禁じられているのもあり興奮状態だ。
『敵性生物は硬い殻を持っている』
『魔法は風が有効だ! 殻より柔らかそうな身の方が攻撃の通りがいいぞ』
『大気圏を突入してきた事から殻は火に対する耐性が高そうだ』
『敵は真っ先に俺達に向かってきたぞ。生物を殺す習性なのか?』
戦況が念話で報告される。戦いは始まったばかりだが、地を揺らす衝撃が何度も走った。流星が地に衝突したのだろう。そして地から金切り声の様な音が響いた。体が生理的嫌悪感に満たされる。
突然、地面から魔力が噴き出してきた。負の魔素と違って純粋な魔力に近かったのでダンジロウは体に魔力が漲るのを感じた。この状態が続くのならずっと補給されているようなものだ。体が動かくなるまで戦える、そんな気さえ湧き上がってくる。
しかし高揚感は一瞬でかき消された。周り一面に魔物が沸いたからだ。ダンジロウはさっきまでの都合の良い考えを改め、心を強く持ち直した。しかし沸き出た魔物はダンジロウ達エルフを無視して宇宙から飛来した星外生物に攻撃を始めた。
枝を折られて裸になった樹も魔力を吸って枝を一気に何本も生やした。星外生物へ枝や蔦を伸ばしたり、木の葉を打って攻撃したりしている。
だがはっきり言って邪魔だ。
『魔物が沸いたが星外生物に向かって行ってるぞ』
『くそっ! 邪魔だ。魔法なら雑魚が一掃できるのに』
ダンジロウは即断した。
『沸いた魔物ごと風魔法で一掃する。とにかく小物を減らさないと戦いづらい』
ダンジロウの指示で広範囲風魔法が唱えられた。小型は殻の無い軟体部分を攻撃され動きを止めた。軟体部分が動かなくなると殻も沈黙した。すると生き残った少し大きい個体が小型の残した殻に群がった。残っていた殻は別の個体の殻に吸収された。吸収された殻の分、別の個体は殻を増やした。
『殻部分は共有できるみたいだ。数を減らす程、厄介になるってことだな』
彼らの憶測はすぐに現実となった。風魔法を唱えれば殻以外の軟体部分にダメージを与える事は出来るが敵が減れば減る程、殻密度の高い個体が生まれてくる。体全体が殻で覆われた個体は明らかに強固で範囲魔法では傷付けるのは困難になってきた。
『電撃魔法の通りも悪い。軟体部分が露出していないから有効打が与えられなくなってきた』
『重力魔法は中々効いている。しかし中身を潰せるかというと難しいな。足止め用だ』
『先程捕らえた小型で実験した結果、軟体の方には火も通るが効き具合は並だ。毒は効きづらい。凍り付いただけでは解凍すれば死なないが氷を壊せば身は壊れる。凍りやすい訳ではないから並だ。土も並。軟体部分はそれ単体で思考と筋肉の役割を果たしていると推測される。軟体部分が殻に触れると殻を自由な形状に変化させられるようだ。殻が鎧状態になった場合の耐寒性は不明。試してくれ』
『魔法は氷魔法に変更。水と相性が悪いエルフは下がれ。敵の数を減らしたら検証に入る』
『同族が死んだ場合、殻を回収する優先度が高いぞ!』
『残された殻を火で燃やしたが燃やしきれずに吸収された』
『氷で囲ったら壊されない限り吸収を抑えられるみたいだ!』
足元から溢れ出る魔力のお陰で一行は勝利を収めた。しかし残った殻の扱いが難しい。このまま置いて行くのは悪手。しかし持ち帰った所で星外生物が来た時に利用される可能性がある。
もしくは星外生物が殻の位置を把握できる可能性がある。敵にしか使えない兵器で処分も難しいとなるとどうしたものかダンジロウは悩んだ。
燃やしてみるも耐熱性は宇宙を飛来してきただけあって高すぎる。氷漬けか土、鉄の塊で囲う位しか思い浮かばなかった。
『星外生物を全滅させた。殻の部分が残って扱いが難しいので判断を頼む』
『とりあえず回収してきてくれ』
氷漬けにして一旦エルフの森まで運ぶ事になった。
『樹海の大陸棚に落ちた星外生物は沸いた魔物や樹と交戦中だが星外生物が有利だ。このままだと星外生物が勝つ。超大陸はそこに生きる人次第だな。樹海方面には援軍に行くべきかもしれない。詳しくは軍師と占い師に判断をまかせる』
「一旦寄合所に向かうぞ」
サビマルの提案にマサモリとシラギクは頷いた。




