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「マサモリ、大気圏輸送結界を張る魔力はあるか?」
「大丈夫だよ」
「そうか。体積、重量効率の悪い魔石は宇宙に持っていけないからそれで魔力を補充しておいてくれ」
マサモリがヒデヤスの指す方向を見ると寄合所の前の広場に数メートルから十数メートルもある岩が乱雑に置かれていた。どれも高密度の魔力を帯びているが元となる岩石が普通の石なのでとにかく重そうだ。
宝石類は小さくても魔力を溜め込む量が普通の石より多い為、持ち運びに便利だ。それに魔力を溜め込む性質があるので魔石と言えば一般的には宝石類の事を示す。しかし普通の岩石も長年の時間を経ると魔力を貯めるようになる。広場に置いてあるのはそれらだ。
広場にある岩石で一番魔力量が少ない大岩に手を当てるとマサモリは魔力を吸収した。魔石や魔道具から魔力を吸収する効率は個人差が大きい。
長老族は結界で要石等を利用する事が多い為、変換効率は良い。マサモリも変換効率は良い方なので下手に変換効率が悪いエルフが吸収するよりマサモリが吸収した後に譲渡した方が効率が良い場合がある。魔力の吸収と譲渡は相当練習させられたのでマサモリには手慣れたものだ。
「回復したよ」
「よし、大気圏輸送結界を頼む。最初だけ補助する」
「わかった!」
マサモリは袖をまくった。流星を受けた時の結界はマサモリが実戦で使った中で一番大きい結界だった。上手くいって良かったと今更ながら安堵する。
大きな結界は練習で何度も試していたので成功は確信していた。しかし大気圏輸送結界はほとんど練習した事がなかったし、何よりその維持が大変だ。
結界魔法も他の魔法と同様に術者から離れれば離れる程、維持の難易度と必要な魔力が増える。最終的には全長は約百キロになる筒状の結界を作る。
そしてそこから中身を宇宙へと射出する。つまり発射台だ。宇宙に飛ばす回数が一回なら結界なんて作る必要はないが今回の場合は近隣の県から来た長老族を飛ばさなければならない。
マサモリが樹海面まで上がると宇宙へ向かう準備は着々と進んでいた。目の前では東京村タワーが宇宙仕様へと改修されている。百メートル位の高さでエルフの森の地面から樹海面まで到達する高さだ。
遥か昔に作られて見張りや念話の補助、樹海面への移動の補助等に使われている。それが引っこ抜かれてここまで持ってこられている。規模の大きさにマサモリは驚いた。
東京村タワーは普段のタワー部分がさらに延長されて元の高さの二倍以上になっている。普段は骨組みだけだが外壁と中にいくつもの倉庫部屋が追加されているのが見える。中では忙しく部屋の設置や食料、魔石等の運び込みがされている。
大気圏輸送結界には膨大が魔力が必要なので射出する物の大きさは指定されている。東京村タワーは高さはあるが、平面的にはかなりスリムなので平面の指定サイズギリギリまで拡張されたようだ。建物の形状も飛ばしやすい。
それでも規模が大きいのでマサモリは宇宙に射出する時に壊れるんじゃないかと不安がよぎった。しかし誰も彼もが必死だったし、誰もが成功を確信している様子だったのでなんとかなるだろうと思った。
丁度良かったので改修作業中の東京村タワーの場所に大気圏輸送結界を張る事にした。
「東京村タワーの所に結界を張っていいかな?」
「そうだな、軍師から場所は指定されなかったし大丈夫だと思うぞ。一応軍師に確認しておくか」
暫くするとヒデヤスは答えた。
「大丈夫だ。その代わり一番最初の発射となる。一番危険だが私達ならやり遂げられる」
マサモリは強く頷いた。改めて気合を入れ直して結界を張り始める。
「東京村タワーの周りに結界を張る。みんな気を付けてくれ」
マサモリは東京村タワーの周りに五つの要石を置いて筒状の結界を樹海面上から徐々に生み出した。そして十メートル程出した所で一旦止めた。
「よし、良いぞ。ここの部分が先端部分になる。細心の注意を払って魔力を練り込め」
マサモリは魔力を注ぎ込んでいく。ただ強固にするだけでは足りない。しなり、粘りが無ければ強い力がかかった時にすぐに壊れてしまう。
マサモリが汗を流しながら結界を張る横でヒデヤスはマサモリの小さなミスを補正していった。結界を張り慣れてくると小さなミスも減っていった。
ヒデヤスは息子の順応性の高さに舌を巻いたが一番重要な部分なので一部の隙も無く結界を観察した。マサモリは結界を張る手を止めた。
「どう?」
「完璧だ。しかしまだとば口に過ぎない。一切の手抜かり無く作業を続けるんだ」
「わかった」
ヒデヤスは腕を組んで無言でマサモリの作業を見つめた。自分と妻、祖父母は宇宙に上がらなければならない。ここで結界を維持するのはマサモリの役目となる。だからマサモリが全て自分でやり遂げなければならない。
ヒデヤスはまだ子供のマサモリにこんな重責を負わせてしまった事に心を痛めていたが後悔はしていなかった。まだ幼く、未熟な点は数多くあるが息子は良くやっている。誇らしさに目頭が熱くなった。
この一件が解決されたら全力でエルフの村中に我が愛しい息子を自慢しよう。そう心に誓った。それが更なる困難をマサモリに引き寄せるであろう事をヒデヤスは全く自覚していなかった。
東京村付近の村から隠蔽魔法をかけられた建物等が集まって来た。その一つ一つが強力な魔力を秘めている。隠蔽魔法がかかっていてもその魔力は隠し切れず、近づいてくると圧力を感じる。
東京村には城、大仏、工場、塔、神社が建ち並んだ。一般のエルフ達も結界の補助に集まっていたが今は完全に観光客になってしまった。各村の有名な建築物が建ち並ぶ様子は壮大で、中に蓄えられた魔石等から溢れ出る魔力は目に沁みてくる。各村の顔と言えよう。
「東京の、壮健か?」
「ああ。重量、体積効率が悪い魔石等があるから余裕があるなら持って行ってくれ」
「景気の良い話しだな」
「うちは人口だけは多いからな。それに出し惜しみをしている場合じゃないようだ……」
「そうか、貰える物は貰っておくぜ」
「えっ、ドワーフの巣穴を持ってきたんだって? 嘘だろ」
「百穴だ。精霊の住処だ。決して薄汚いドワーフの住処ではない。それよりお前の持ってきた建物は栃木のに隠れて見えなかったな。全く、お前に相応しいあばら家だったな。それともあれか? 人にお見せするような物が無かったから空手できたのか? んん?」
「結界の大きさに合う物がなかっただけだ。もっと広ければお前の岩山が霞むような物を用意できたんだがな。原始人のお前には良く似合っているよ」
「ふんっ、田舎者は品が無いな」
「おいおい、田舎者が田舎者って言うなよ。聞いているこっちが悲しくなるぜ」
『次の流星の後に宇宙への打ち上げを開始する。各自進行具合を報告せよ』
マサモリは念話を聞きながら焦らずに結界を構築している。補給の為に結界は当分維持しなければならない。もっと時間があれば質の良い結界が作られたのにという思いはある。しかしたらればを言っている場合ではないので作業に集中する。
樹海面上にはヒデヤスが購入した品とは別に寄付された品が増え始めた。普段は売り物にしないような品も数多く混ざっていて村人の協力に嬉しくなる。
超大陸に戻した人々は今頃どうしているのだろうか。返したのは良いが星外生物とは戦わないで好き勝手なことをしているかもしれない。マサモリはそう思った。
『次の流星まで一時間程度となった。大陸棚に出ている戦士達は一旦村へ帰還せよ』




