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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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「あ、おやじ。え?」


 男達は消えるように五人の後ろに移動すると、うなじを手刀で軽く叩いた。


 シラギクとマサモリはおじぎするように手刀を回避した。そしてそのまま後ろを蹴り上げた。蹴りは回避されたが二人は襲撃者から距離を取った。


「二人か……」

「えっ、この人シラギクのお父さん?」

「問答無用!」


 男達の中で一番強力な魔力を秘めた男がマサモリに襲い掛かって来た。マサモリは迷いなく三重結界を張った。


 男の木の棒による突きが結界に当たった。一呼吸置いた後に結界内に先程の突きの衝撃が結界をすり抜けたように走った。マサモリは突きの衝撃を左手で防ぐが防ぎきれずに体を浮かせて衝撃を逃した。


 それでも体中に響く痛みと共に骨が折れたのをマサモリは感じた。男は上段から振りかぶって棒を振り切った。


 マサモリは結界を五重にした。結界が大きく歪むが一手防げた。後ろに大きく飛ぶと先程折られた左腕を治す。男はすぐに追いつくと結界を突いた。外側から四枚目と五枚目の結界がボールを投げつけたらカーテンのように揺れた。


 マサモリは攻撃を防いだことで袖口から紙を送り出す。勢いよく振ると紙は一直線に伸び、マサモリの強化魔法がのって剣のようになった。紙剣で斬りかかる事一合目、剣の根元の紙に歪みが生じた。


 二合目、棒が当たった部分が弾けるように千切れた。そのまま間合いを詰めてもう一合、折れた刃を飛ばして虚を突こうとしたが男は全く動じない。


 マサモリは武器にかける強化魔法を解除して紙を螺旋状に伸ばして棒を形成した。紙剣では圧倒的に強度が足りない。


 距離を取ったマサモリは袖口から式神を飛ばした。火、風、土、水の基本的な属性の籠った札が男を襲う。しかし簡単に打ち払われた。札の効き具合から相手の弱点を探る。この方法は相手が強い程有効だ。


 しかしそれは目くらましだ。


「凍てつけ」


 マサモリが腕を振るうと吹雪が生じた。シラギクの父親なら火属性、弱点は水のはずだ。式神を消費してしまったが一手分稼げたのは大きい。


 マサモリは続けて手を振るうと半径二百メートルが吹雪く氷原と化した。マサモリの魔力百に対して相手の魔力を三から五程度しか削れないだろうが殴り合うで勝てる気がしないのでましだ。


 男が地面を強く踏みつけると氷が一斉に溶けて水蒸気と化した。マサモリは再び吹雪を放つ。場所的には浅間山は火山で火属性なのでシラギクの父親が有利になる。


 しかし属性的には水を得意とするマサモリが有利。マサモリは距離を取って打ち合いたいが相手は距離を縮めて近接戦闘で戦いたい。


 男は魔法を惜しみなく使ってとにかくマサモリとの距離を縮めてくる。マサモリは体格の差を埋める為に長棒を作り出すと距離を簡単に詰められないように浅く突いた。しかし男が少し棒を動かしたと思った瞬間、生物のように棒がしなりマサモリが持つ長棒が真上に弾かれた。


 マサモリは棒を解いて紙に戻すと男が持つ木の棒に絡めた。そして木の棒を奪うべく力の限り引き寄せた。しかし少し動いたと思ったらすぐ引き戻された。


 男は少し力を溜める。


「穿て」


 マサモリは反射的に紙棒で防いだ。しかし五重の結界をいとも簡単に破壊し、紙棒を壊し、腹に風穴を空けられた。マサモリの顔が苦悶に歪んだ。


 マサモリは穴が空いた腹を再生する前に結界を体に沿うように纏った。あの技は絶対に防ぎきれない。マサモリは直観的にそう感じた。


 体に結界を纏わせたお陰で過度の出血は防がれた。マサモリは相手が溜めをする隙を与えない為にとにかく前へ出た。男と棒術勝負になるが全く勝ち目がない。しかしマサモリはじっくりゆっくりと腹を治す。結界さえ突破されなければまだ戦える。


 長老族はとにかく倒されてはならない。最初から最後まで前線にいて戦い続ける。時間を稼いで、囮になって、壁になる。一番防御が高い者が先に倒れたら戦いは総崩れになる。敵が強ければ強い程その傾向が強い。


 マサモリは諦める事無く戦い続けた。技術で完敗、体格で完敗、経験で完敗、強化魔法で敗北している。こちらは結界を纏う結界装甲をしているのに相手はしていない。


 結界装甲の分、体の強度と攻撃力はマサモリが上回っているが正に子供の様にあしらわれている。シラギクの父親だろうから結界装甲は出来るはずだ。


 場を凍り付かせるがその度に解除される。近接戦より相手の魔力を削れる分、ましな結果だ。意識を失ったり、致命的な攻撃を喰らわない限り長老族は戦い続けられる。


 全体的な出力では結界装甲をしているこちらが勝っているはずなのに勝てる見込みが全くない。相手の攻撃を受けると体の内部で爆発したような衝撃が走る。相手のお情けで立っていられるのだがとにかく喰らい付く。


 立っている内に相手の技を暗記して覚える。もうそれくらいしかない。良い策が思い浮かばないが出来るだけ相手の情報を得る為にマサモリは足掻いた。


 どれくらいの時間が経っただろうか、マサモリの膨大な魔力がついに尽きた。


「軽い」


 男の短い言葉さえ意識を失いつつあったマサモリには聞き取れなかった。



 魔力が足りない嫌な感覚でマサモリは目を覚ました。布団から出ると同じようにベニタロウ、りつとたえが寝かされている。痛い頭を抑えながらマサモリは部屋を出た。部屋を出ると外は夕暮れ時だ。マサモリはとにかく魔力を探知して人が居る方向へ向かった。


 良く観察するとその魔力はシラギクだった。シラギクの周りにはシラギクに似た魔力をしている人が二人いる。二人とも赤い髪をしていて背も同じ位だ。


 身長は百八十センチを超えていて体は引き締まっている。二人の魔力はシラギクと似ているので家族なのかもしれない。


「あ、起きてきたね。大丈夫?」

「魔力がすっからかんで頭が痛いよ。源エルダー白川真守です」


 シラギク以外の男達に向かってマサモリはお辞儀をした。


「俺はシラギクの兄の藤原エルダー上杉我山だ。よろしくな」

「シラギクの父だ」


「おやじは藤原エルダー上杉虎蔵だよ。群馬村の長老なんだ」

「シラギクにはいつも世話になっています」

「……」


「おやじはこんなんだけど無口なだけだから気にしなくていいよ」

「それよりマサモリ君は武術はまだまだだけど結界術は大したものだったよ」


「今までの修行では結界術を重視して教えられてきました」

「もっと砕けていいぞ。シラギクの友達は俺の友達だ」

「あ、はい。武術ではボコボコだったけどね」


「変な癖とかが無い素直な太刀筋だったからこれからだ。棒術だったら俺が教えられるぜ」

「得意な武器とかはまだないんだ。一通り習ったけど全部触りだけだからなあ。それよりなんか食べる物ない? 魔力が無くて即身仏になりそう」


「おう。いつ起きるかわからないから、握り飯とみそ汁だけならあるぞ」

「食べたい」

「私も!」


「よしよし、子供はそれで良い。持ってくるからちょっと待ってな」

「おやじ! マサモリに助言してあげてよ」

「……軽い」


「攻撃が軽いんだってさ。群馬村では強化魔法以外の基本属性魔法はめっちゃくちゃ効率が悪くなるからみんな武術を鍛えているんだ。だから武術は他の県より進んでると思うよ」

「皆殺しだ……」


「戦う時は守るより敵を皆殺しにした方が早いってさ」

「そう? うちではみんなを守れって口酸っぱく教わったよ」

「軟弱っ」


「都会は軟弱者が多いってさ。でも東京村の人は武者エルフの人でさえ品が良かったよね。人もすごくいっぱい居て服も綺麗でみんななんかおしゃれだった。さすが東京村」

「群馬村こそ最高最強」


「はいはい」


 シラギクの兄のガザンがお盆に山盛りのおにぎりとお味噌汁を持ってきた。昼ご飯を抜いていたのでマサモリとシラギクは飛びついて口に頬張った。


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