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「これはツキノマグマだね。漢字だとお空に浮いている月に魔法の魔に生き物の熊。月の魔熊、つまり闇魔法が得意。それでいて火山にいるから火も使える。けど普通は火か闇のどちらかしか使えないよ。こいつは分かりやすく闇だね」
「何も見えねえ!」
「ほら、落ち着いて。あんまり騒ぐと私からベニタロウの方に注意が向いちゃうよ」
「ッ……」
「ナイフじゃ歯が立たないなあ。ベニタロウ、手頃な感じの岩ない?」
「何も見えねえよ」
話しながらもシラギクはツキノマグマと戦っている。ツキノマグマの攻撃に合わせてナイフで切り裂くが傷が浅すぎてすぐに再生される。決め手に欠ける状況が続く。
ツキノマグマは一向に倒せない敵に嫌気が指してもう一体の獲物へと向かう事にした。その前に目の前の相手に全力で体当たりした。手応えは全くなかったがそのままの勢いでもう一体へと突き進む。
ベニタロウはツキノマグマが自分に向かってくるのを直感で感じ取った。鳥肌が立つのを感じる。
ツキノマグマの魔力が自分に飛び掛かる時、ギリギリで飛び込むようにツキノマグマの左に身を投げ出した。避けた、ベニタロウはそう思った。
ツキノマグマは体当たりを避けられたのを実感すると大爆発を起こした。
「えっ」
ベニタロウは間近で爆発を浴びた。前後左右がぐちゃぐちゃになり何かにぶつかるのを感じた。火は使わないんじゃなかったのか。吹き飛ばされながらそう思ってしまった。
しかし意識を失わなかったのは幸いだった。ベニタロウはフラフラと立ち上がる。しかし足に力が入らない。意識さえ失わなければこの程度の傷ではまだまだ動けるはずだ。
「くそっ、足が動かねえ。頭が痛い」
ベニタロウは混乱した頭が一瞬だけ冴えるのを自覚した。ベニタロウは浅間山の麓に着く前に水筒の中身を飲み尽くしてしまった事を思い出した。
普段飲んだことのない味だったのでついつい全部飲んでしまった。その後は魔法で作った水を水筒に入れて飲んでいた。
急にパズルのピースがはまっていくように答えがわかった。先生はやたら水筒に関して細かい事を言っていた。もしかしたら熱耐性の付く飲み物だったのかもしれない。
自分は火属性と相性が良くて山に入ってからというもの、力が沸いてくるのを感じていた。調子が良すぎて体調まで気が向かなった。
「すまん、動けそうにない。逃げろ」
「ごめん、闇と火の両方を使うなんて聞いた事なかった」
ツキノマグマは自分を中心に爆発を起こしたので多少の動き辛さはあったが、目論見通りに痛手を与える事に成功した。まずは一人だ。
動けなくなった方に止めを指すべく、両手の爪に力を籠めて切り裂いた。 しかし爪に焼けるような痛みが走った。
マサモリはベニタロウに石化魔法を唱えた。念糸で助けても良かったがそれでは一手足りない。
「ベニタロウは大丈夫だ! 石化魔法をかけた」
「うん、わかった!」
シラギクは転がっている石化したベニタロウに駆け寄った。
「うおおおお、エルフハンマー!」
シラギクは再び突進してきたツキノマグマに、石化したベニタロウを正面から叩き付けた。ツキノマグマが吹き飛んで樹々にぶつかって森の中を跳ね回った。山を揺るがす衝撃が走り、木々が木の葉を散らした。
「ふっ、勝利」
ツキノマグマを中心に広がっていた闇がふっとかき消えて薄暗い景色が戻ってくる。
「肉だ!」
「肉よ」
マサモリとシラギクは歓声をあげた。シラギク、りつ、たえは熊の解体をした。シラギクは手をすいすいと動かして熊を処理していくが、りつとたえは顔を青くしている。それでもなんとか熊を捌ききった。
マサモリは自分の水筒を石化を解除したベニタロウに渡した。
「さんきゅー」
女性陣が熊の肉を焼き始めた。マサモリは結界を張って匂いを遮断した。これ以上他の生物に来られても三人にはきつい。多少怒られてもしょうがないだろうと思った。
肉が焼ける匂いが結界の中に充満した。
「みんなすまん! 先に水筒の中身を飲み干して最後の重要な時に動けなかった」
「先生があれほど言ってたのに話しを聞かんからだよ。でも私達も驚いて動けなかったしお相子様だ。助けられなくてごめん」
「うちも何もできなくてごめん」
三人は自分の力不足を後悔した。
「お肉お肉ー」
「早く食べようよ」
しかしそんな彼らを横目にマサモリとシラギクは目の前の肉に釘付けだった。
「そ、そうだな。腹が減ったは戦はできねえ。明日は今日の失点を取り戻すぜ」
「そうね。食べよう食べよう」
「うん」
エルフ達が樹海に入って一番苦労したのは敵の硬さだ。特に弓や短剣、小剣使いが多く、剣使いは少数だった。斧や棍棒を使う者は皆無に等しく、樹海では攻撃力不足に悩まされた。
そうなってしまったのはエルフの戦い方に理由があった。エルフは常に木のある場所で生活していたので木に登って弓を打つ戦い方を得意戦法としていた。
遠距離から弓や魔法で一方的に攻撃をする事で少数のエルフでも身体能力に優る種族に勝ってきた。木に登って戦う事が主流になると武器はどうしても軽い必要がある。
弓も標準装備だったので重くて嵩張る武器は敬遠されたのだ。エルフ達が樹海で攻撃力不足になったのも当然の結果と言える。
そこでたまたま見つかったのがエルフを石化させて武器にする方法だ。
とにかく重量があるうえにエルフは魔力が高いので魔力を帯びた武器になった。班を組んだという事は最初から武器は配られていたという意味だったのかもしれない。しかし教員達がそこまで考えていたかは謎である。
次の日、食事を取れたこともあり若い少年少女は体力をしっかり回復させていた。道中に赤鬼が出たがみんなで囲んで倒した。昨日は辛かった登山も今日は少しましになったようだ。
五人はついに山頂にたどり着いた。そこには木の棒を片手に腰蓑姿の男達が待ち構えていた。
「ようこそ、群馬へ。死ね」




