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「俺達の班が一番に頂上にたどり着く。いいな?」
普段は触る事すら禁止されているナイフを手に何度も当てながらベニタロウは言った。
「あんた、先生の話し聞いてなかったでしょ!」
「まあ、落ち着けって。マサモリあれがあるんだろ?」
「式神は禁止されたよ。結界もね。自分達で索敵をしながら進む授業だからしょうがないよ。もしこっそり使ってもすぐ撃ち落とされそう。紙が勿体ない」
「くっ、さすがに対策してきたか。まっ、普通に行っても俺が居れば楽勝だろ!」
「寝る時だけは結界の許可が出たからその時は張るよ」
「私、群馬を生き延びた女がいる限り大丈夫よ。ベニタロウが石になっても連れて行ってあげる」
シラギクは自信満々だ。
「よし! 俺が先頭だ。行くぞ!」
ベニタロウが先頭を歩き、りつとたえが中央を歩く。後ろをマサモリとシラギクが歩いた。
一行は順調に山道を進んだ。しかし地面から放出される熱で汗が出てもすぐに乾く。次第に肌に塩が溜まっていった。チムニーを取りに行った時に比べるとまだましだなとマサモリは思った。
「一旦休憩しましょ」
シラギクが休息を提案した。シラギク自体は余裕の表情だが、りつやたえは体に溜まる熱の放出が間に合っていない。マサモリは熱いと思うがそこまで疲弊していない。
「俺は全然大丈夫だが、一休みしておくか」
「ふーっ、思ったよりきっついわー」
「シラギクちゃん、ありがとう」
りつは近間にある石に腰をかけた。たえはシラギクにお礼をした。
「水分をこまめに取って、休み休み行けばいいよ。山頂までは走れば一日。普通に歩いていくと一日半って所だから無理に焦らない焦らない」
シラギクはルートは違えど浅間山には登った事がある。現地を知っている人が居てマサモリは助かったと思った。次からは自分もしっかりと下調べをしようと心に刻んだ。
「腹減った……」
ベニタロウが呟いた。みんなまだ昼飯を食べていない。現地調達しなければならない。
「浅間山でよく見かけるのは浅瀬で小鬼、またの名をゴブリン。中層では赤鬼、魔山トカゲ。山頂付近では赤鬼、ツキノマグマ、魔山トカゲ。食べられるのは熊とトカゲだけど熊は今の装備じゃ難しいねえ」
「トカゲか。よし、トカゲを狩ろう」
一行は休憩が終わると再び歩き始めた。ベニタロウはキョロキョロしながらトカゲを探している。
「魔山トカゲは炎に包まれているから目立ってすぐわかるよ」
辺りを見回しながら歩いていたベニタロウだったがその内、飽きたのか疲れてきたのかわからないが大人しくなった。
「人が多いから魔物も逃げているかもしれないね」
「つまんねーなぁ。なんか出て来いよー」
結局魔物と遭遇しないまま、日が暮れ始めた。
「早いけどそろそろ野営しようか」
「そうだねー」
マサモリの提案にシラギクが答えた。りつとたえは休ませた方が良い状態だ。ベニタロウにも疲労の色が見え始めている。
「しゃあない。俺はちょっと周りに何かないか見てくるぜ! 今度こそトカゲを捕まえてやる」
「私も行く」
「あたいはパス」
「ごめんね、うちも動けない」
「いいって事よ」
ベニタロウとシラギクが森の中に消えていった。りつとたえは大樹に寄りかかりもう残りわずかな水筒の中身をなめるように口に含んだ。
「さすがにマサモリとシラギクは慣れてるね」
「魔力をほとんど使ってないからねー。けどお腹は減ったよ」
「うちは歩いているだけで精一杯だよ……」
「シラギクなら何かしら取ってくると思うよ」
「シラギクちゃんは年下なのにすごいわー」
マサモリは氷の塊を作って二人と隣に置いた。
「助かるわー」
「ありがとう」
「結界魔法が使えないと出来る事がほとんどないよ」
マサモリは自分用の氷を出して触った。氷が地面の熱によってジュワジュワと溶かされていくのを三人は静かに眺めていた。
その頃、シラギクとベニタロウは木々の間を飛び回っていた。
「魔山トカゲは燃えているから暗くなると良く目立つよ」
「なるほどな」
二人は樹を登って光っている場所がないか探し回った。
「ほらっ、居たよ」
「まじだ!」
暗くなってきたので光っている物が見つけやすい時間帯だ。樹の幹に体長三メートル程度の炎に包まれたトカゲがいる。二人は強化魔法をかけた。
それに気が付いた魔山トカゲは二人に向かってに飛んだ。そしてトカゲの周りを螺旋状の炎が包みこむと炎は勢いを強めて火球を放った。
シラギクとベニタロウに別々の炎の塊が飛来する。シラギクは炎の中心に向かって拳を突き入れた。ベニタロウは驚いて攻撃をする余裕も無く慌てて炎を防いだ。
二人が炎に触れた瞬間、再び大きな爆発が起こった。ベニタロウは爆発で吹き飛ばされた。シラギクは炎が爆発する前にその核を打った。炎は爆発したがその規模はかなり抑えれている。シラギクは爆風に負けず、そのままの勢いで木に着地した。
シラギクの手には切り離されたばかりで元気に動いている魔山トカゲの尻尾が握られている。
ベニタロウは地面に落ちる前に受け身を取ったが悔しそうだ。魔山トカゲは既に姿を消している。
「逃げられちゃってね。でも尻尾が取れたからいいか」
「くそっ、もう一匹探そうぜ」
「さっきの爆発で赤鬼とかが集まってくるから今日はこれまで。明日またがんばればいいよ」
「今度こそは捕まえてやる! 武器さえあればなあ。ナイフじゃ小さすぎて武器にならねえよ」
「殴った方が楽だね」
ベニタロウはブツブツ文句を言っているが大人しく野営地に戻った。
「すごい」
「おめでとう」
「本体には逃げられちゃった」
「早く焼こうぜ」
たえは受け取ったトカゲの尻尾の鱗を剥がして四つに切り分けた。木の串に挿して表面を洗った大きめの石の上に乗せた。火魔法を使うとすぐに肉が焼ける匂いが辺りに漂った。
「塩が見つかれば良かったんだけどね」
「ここら辺にはもうないよ。有っても鬼とかが食べちゃう」
マサモリから氷を受け取った二人は体の熱を冷ます為に氷に抱き着いていた。たえは肉の焼け具合を調節しながらひっくり返している。
「あれ? ついてないな」
シラギクが呟きながら強化魔法を使った。マサモリはそれを見て自分も急いで強化魔法を強めた。りつとたえは状況が把握できていない。ベニタロウはやっと理解して強化魔法を使った。
マサモリは、りつとたえを片手で掴むと素早く近くの木に駆け上がった。口には自分の分の肉を咥えている。シラギクも肉に手を伸ばした。森の中に咆哮が満ちる。大きな闇の塊がシラギクとベニタロウを包み込む。
肉の匂いは別の魔物を呼ぶ。風魔法を使って調理の匂いは別の場所に飛ばしていた。しかし完璧ではなかったようだ。結界魔法が使えない弊害が出てきた。
「二人とも強化魔法をして」
呆然としていた、りつとたえは強化魔法を唱えた。
「隠蔽結界を張るから二人はそこに入っていて。下手に動かなければ防御もそれなりにあるから大丈夫」
「あれはなんだったの?」
「わからない。とりあえず見てくるよ。でも先生達が出てこないなら俺達でも倒せる……のかなぁ?」
「大丈夫かなあ」
「任せて! 長老族の約束その一! どんな場合でもどんな敵と戦っても最後まで立ち続ける事! 俺達が最初で最後の壁だ! でも危なくなったら逃げるからね」
マサモリは動き出したが徐々に広がっている闇には入らずに周囲を観察した。




