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「次は俺だ」
ベニタロウが立ち上がるのを待ってマサモリが言った。割り込まなければこのままシラギクに翻弄されて疲れ切ってしまっただろう。それでは面白くない。マサモリは家族以外とはほとんど組手をした事がなかったので実は楽しみにしていたのだ。
マサモリはベニタロウの足に回復魔法をかけた。大したダメージでは無いがしっかり治してから公平に戦いたかったのだ。
「ありがとう。だが次は油断しないぞ!」
強化魔法なしの状態から再スタートだ。ベニタロウがまとも愚直に正面から殴りかかってくる。マサモリは避けずに自分も殴りかかった。
拳がお互いの体にぶつかる。マサモリは力負けして体勢が崩れた。逆にベニタロウは安定したままだ。
「おらおら」
ベニタロウは足を止めてそのまま殴り続けた。マサモリもがんばるが上から体重が乗った拳が来ると体格の劣っているマサモリにはつらい。マサモリは競り負けて後ろへ下がった。
「これならどうだ」
マサモリは強化魔法を使った。
「吹き飛ばしてやる!」
ベニタロウも強化魔法を使ってさっきシラギクにしたように突進してきた。さっきとは違い腰を低くした突進は重心が安定していて鋭い。マサモリもそれに合わせて突進した。
二人はぶつかり合った。そしてほんの少しの差でベニタロウは体勢を崩した。そしてマサモリは徐々に前進しながら丁寧に拳を突き出していく。
強化魔法で強化された身体能力は体格の差を覆して徐々にマサモリが有利になった。
「止め!」
先生がまだ二人に余力がある内に止める。
「俺はもっと戦えるぞ!」
ベニタロウは文句を言ったが顔は晴れやかだ。
「中々やるじゃねーか。俺もまだまだ修行が足りないぜ」
ベニタロウは二カッと笑うと手を差し出してきた。マサモリも笑いながらがっしりと手を握った。
「私も私も!」
シラギクも入ってきてお互いに握手をしたのだった。
「また明日な!」
「また明日!」
五人はその後、相手を変えて組手をした。最初は戸惑っていた先生も終わる頃には笑顔になっていた。
りつは女子の中でも強い方だったがベニタロウと比べるとまだまだといった感じで、たえは組手が苦手だった。武器の扱いも苦手でクラスでも下の方だそうだ。
マサモリは体術ではシラギクに大きく負け、ベニタロウには若干負けていた。強化魔法を使えばベニタロウには勝てるがシラギクとやると強化魔法無しの時より劣勢になった。悔しかったので今度じっちゃんに修行してもらおうと思った。
遠足の当日となった。マサモリとシラギクは一回り大きい子供達に混ざって人力家車に乗った。人力車は横長の家に車輪がついている形状でそれをエルフが人力で引く。樹々が生い茂っている為、車はよく左右に揺れるが中に張ってある結界が衝撃を緩和するので中の乗客は揺れを感じない。
マサモリ達が小学三年生の遠足に混ざったのには理由がある。
遠足は各地にある特殊な場所の耐性を得る為に行われる。一、二年時は特殊な場所に行く為の下準備期間だ。今回は浅間山で火山等の熱い場所に対する耐性を得る。
小さい子供の時からごく少量の卵を少しずつ食べさせていると子供は卵アレルギーになりにくくなる。樹海で生まれ育ったエルフの大半は花粉症にならない。小さい頃から花粉を吸う事に慣れているからだ。
子供は大人になるまでに多くの特殊な土地を体験する事で特殊な場所に対する耐性を得る。今回は火、熱耐性。他には冷気、水場、砂漠、竜巻、超重力、毒等だ。予防地接種とも言われている。
超大陸の人との接触によりエルフの森にいつ人が来てもおかしくなくなった。いざという時に樹海の奥に逃げられるようにと先祖代々続けられてきたのだ。特に長老族は最前線に立たなければならないので早急に耐性を得る必要がある。
エルフ達は樹海の奥へ向かう為に人為的に進化を促してる。人が到達しえない危険地こそがエルフの理想郷だと昔から考えられてきた。
マサモリ達は唯一の外部参加者だったので注目を集めた。マサモリ達からすると体が大きい小学三年生は大人に見えた。武者エルフ達は完全に大人だったが落ち着きがあったので安心して付き合えたが、ここにいるのは大きいだけの子供なので少し気押されしてしまう。
しかしベニタロウの無神経さのお陰ですぐに溶け込む事に成功した。マサモリ達の出島村や樹海の話しは子供達に取ってとても興味深いものだった。話し始めると後は早いもので気が付けば現地に到着していた。
浅間山は標高約二千五百メートルの山だ。エルフの森の樹海底は樹海面から百メートル前後になる。普通に考えたら浅間山は樹海面を超えて突き抜けるのだが樹海では違う。
樹海底から樹海面に至る百メートルの中に浅間山とその上空が圧縮されて内包されている。他の山々も同様に高い山では空間が歪んでいる。狭い場所に巨大な体積を持つ物を無理やり押し込んでいるのでそういう場所では奇妙な現象がよく起こる。
「ここから持ち物は水筒とナイフのみ。持ってきたリュック等は持ち込み禁止だ。荷物は先生達が責任を持って保管しておく」
「「「えー!」」」
女子を中心に声が上がる。
「取り換えの服は持っていけないの? 横暴よ!」
「我らがご先祖様が樹海に入った時よりは安全だぞ。いざとなれば先生が助けてやる。お前らは遊びに来ているんじゃない。一人で生き残る力を鍛える為に来たのだ。だがさすがに一人で放り出すのは可哀想だから班で行動するようにしている。別に一人で行動してもいいんだぞ」
ベニタロウが手を上げようとして、りつに鳩尾を殴られて悶絶した。
「そして最終確認だ。親御さんにはちゃんと水筒を持ってきてとお知らせしたが忘れてたり、まさか途中で全部飲み切った奴は居ないよな? 居たら痛い目を見ない内に手を上げろ」
おずおずと一人の男子が手を上げた。
「お前、また忘れ物か。しゃあない、先生のを使え。おい! 嫌そうな顔をするな!」
男子は先生の手渡した水筒を渋々受け取った。その様子に周りは爆笑している。
「ここに来てから体に力が漲るぜ! 俺が一番に山頂に着く!」
ベニタロウは再び元気になって勢いよく立ち上がって自己主張した。
「競争じゃない! ゆっくり、安全にだ。わかったな?」
先生の注意が終わると一班ずつ間隔を空けて何種類かのルートで子供達は出発した。




