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壁畑はまず土作りから始まる。樹海にある土を掘って運んでくる。土の中には石、貝やその他の生物が潜り込んでいるのでまずそれを丁寧に取り除く。
この作業が一番大変だ。生物は生きているので気を抜くと殺される。エルフが最初に危険となる生物を取り除いてから超大陸の人が残った石等を取り除く。
樹海の土を持ってきているので土には樹海の木の葉が含まれている。樹海の木の葉は周りの生物を殺して栄養にする為に毒を持ち、剃刀の様に鋭い。光合成も出来るが生物を殺した方が栄養効率が良いのだ。
木の葉は落ちた後に自分以外の木を殺す役割も果たす。基本的に自分が落とした木の葉は自分には効かない。自分以外の種類の木を殺してより広い土地を占拠しようとする。すると生存競争の為に同種類の木が同じ場所に集まってくる。そうやって競争力を高めているのだ。
そんな木の葉だが時が経てば枯れる。すると毒は無毒になり超大陸の木の葉とは比べられない栄養を持つ。毒も分解されれば豊富な栄養なのだ。
だから処理の仕方さえ間違えなければ最高の腐葉土になる。しかし腐葉土を作るには時間がかかる。今回は時間がないので魔法で分解を促している。時間をかけてゆっくり分解させた方が良いのだがそれは次の畑からになる。
畑用の土から石等が取り除かれ、負の魔素を解呪すると壁畑を設置していく。不動プレートだが小さい島なので壁畑を設置できる場所は狭い。しかし人口を考えると十分すぎる広さがある。運搬費用を考えなければ食料の輸出も容易い。
壁畑は米と大豆を中心に始める。米が重要なのはもちろんだが大豆は使い勝手が良い。食べても良いし、保存性も良い。味噌にも醤油にもできるし絞って油にしても良い。野菜分を取る為にすぐ出来る葉物野菜も同時進行で初めて行く。
エルフの森では樹海に近い場所の方が野菜の生育が早い。だがそれは長所でもあり短所でもある。超大陸時代からの歴史を紐解くと野菜の生育期間は少しずつ短くなっている。
それに比例して保存期間も短くなっている。超大陸に居た時から既にそれは進行していて今では長期保存ができる食物が減っている。
食物の保存期間はエルフが超大陸に居た間だけでも三割から五割減った。しかし生育期間の短縮期間は一割から三割だった。つまり時が経てば経つ程に保存期間の割合が減っている。
野菜を作るのが楽になった反面、保存期間が減ったので短期間に何度も畑を使わなくてはならない。そのせいで畑は痩せ、水が不足した。
水と栄養は育成が早くなっても変わらずに必要だった。土地から栄養と水が失われると人々は豊かな土地へ移っていった。それを繰り返していく内に超大陸の大地は急速に疲弊していった。
土地を巡る争いも増した。超大陸の人々が樹海に目を向けるようになったのも超大陸の閉塞感が原因である。
しかし悪い事ばかりではない。超大陸の荒廃と共に魔物の出現数が増加した。中には食べられる魔物も居たので植物の保存期間の減少を気にする種族は少なかった。魔物を倒せる強い種族がだけが残り、弱い種族は淘汰される事となった。
エルフは昔から森で生活をしていた。森の近くに畑を作る事もあったが森からの採取で生活してきた。しかし採取生活が中心だとどうしても冬には食べ物が減る。そこで早くから植物の成長速度を早くする方法が考えられてきた。
昔は植物の成長を促進する魔法が作られていた。だが今では植物の成長を遅らせる魔法が作られている。保存期間を延ばす為だ。特に樹海だと負の魔素が多く食べ物がすぐ悪くなってしまう。
樹海に来たばかりの頃のエルフは米を魔法で成長を促して収穫した。そうしていく内に米自体が成長速度の速い種に進化してきた。するとどうだろうか。手持ちの米の大半が促成栽培種になってしまって保存に向かなくなってしまった。
エルフは慌てて今まで使ってこなかった古米を探す事になった。ただでさえ樹海で腐敗の速度が上がっている中、使える米を探すのは一苦労だったがなんとか見つけ出してそれを軸に抑制栽培に取り掛かった。
成長を遅くして時間をかけて育てた米は保存期間も次第に伸びていった。そこで初めて植物には時間という栄養が必要だと気が付いたのだった。大事にされた道具が時間を経て付喪神になるように、樹が長い年月をかけて意思を持つように。
マサモリは壁畑に指定された結界をかける。植える植物の種類によって求められる結界内の状態が違う。普通は壁畑が置ける場所を数年毎に抽選で決める。
取れた場所によってその場所にあった植物を変える。しかし出島村では壁畑を置く場所が選び放題だ。だから自分達が望む作物を植えられる。
そこで主食となる米が優先して植える事になった。余裕が出来たら個人の壁畑も解禁される予定だ。
「水田用、重力普通、高さ二メートル、成長抑制高、五枚」
シラギクがサビマルの作った計画書を音読する。マサモリはそれに合わせて結界を張った。そしてシラギクが木札に結界の状態を書いて壁畑の結界に張り付ける。
「水田用、重力普通、高さ二メートル、成長抑制小、二枚」
「豆用、重力普通、高さ一メートル、成長抑制無し、二枚」
「汎用、重力普通、高さ一メートル、成長促進高、二枚」
壁畑は重力を自由に掛けられるので表と裏を畑として使える所が利点だ。出島村への移動が問題なく済んだので米の貯蓄には余裕がある。魚も豊富で初めの壁畑から成長抑制高の米を作られるのは村が順調な証拠だ。
壁畑はサビマルの指示した場所に運ばれていく。樹海では空からの日光はか細く、畑に付きっきりで光の調節をした方が収穫量は増えるが今の人口ではそんな余裕はない。
サビマルが今年は日照量が少ないと言っていたの日光調整用のゴーレムを普段よりも増やすつもりだ。
成長促進高の壁畑は出島村に残されて、それからは元々育成期間の短い葉物やかぶを植える。これで毎日の食卓に野菜が並ぶようになる。
「今日は追加の規則がある」
マサモリは朝食が一段落したのを見計らって言った。
「みんなさあ、もっと村を綺麗に使って。いや、使え。そこら辺にゴミを捨てない。トイレ以外で用を足さない。これは重要だからね? 小でも駄目だからね? トイレの後はしっかり手を洗う。本当にしっかり洗えよ。洗え洗えアラエェ! はぁはぁ、汚い手でそこらへんを触りまくるな! 鼻くそを飛ばさない、食わない。地面に寝っ転がない。替えの服を用意しているんだから同じ服をずっと着ない。臭いんだよ。お風呂に入っても髪を洗わない。「禿はどうすんだよ!」禿も洗え! 夜なのに大声で歌ったり踊ったりしない。これはやりたい時にはちゃんと事前に報告する事。以上だ。汚い系の規則はきっちり処罰するからちゃんとやれ、まじで」
マサモリは一気にまくし立てると一呼吸入れた。
「ここは樹海だから汚れとか汚物はすぐ変異して空気が悪くなったり、うんこから魔物が生まれたり、うんこが爆発したりするんだよ。笑い事じゃなくて、本当なんだって。魔素とか菌の増殖が超大陸上と違って本当にやばいんだよ。病気になったらさっさと直さないと悪化するし、悪霊が湧いてきたりすし、とにかくやばい。結界で抑えててこれだからね。結界の無い場所だったら阿鼻叫喚だよ? 生物は体内に溜まった排泄物と共に負の魔素を排出する機能がある。つまり魔素の濃縮体なわけよ。野生生物だってうんこしたらさっさと逃げるぞ。うんこに殺されたくないからな」
マサモリは超大陸の人達を見た。みんなの顔に、こいつは何を言っているんだと書かれているようだ。
「うん。全く実感してないね。おっけー、楽しい樹海ツアーをしようか」




