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石灰岩のような大小の蟹が列を作って移動するのを見つけた博士は声を上げた。大きい個体はマサモリの背丈を遥かに上回っている。
「チムニーに居た蟹じゃ。この先にチムニーがあるかもしれん」
博士が蟹の列に沿って走り出したが念動魔法で止めた。蟹の大名行列は森の奥へとずっと続いている。
「離せぇ!」
「チムニーの近くは負の魔素が多いから落ち着いて。このままだと前回と一緒になるよ」
「わかっておるわい!」
博士は念動を振り解くとさっきよりゆっくり走り出した。マサモリ達もそれに続いた。するとその先には大きなキノコ状のチムニーが姿を現した。
「これじゃ!」
博士が無警戒に近づいていく。マサモリは博士が倒れてもすぐ引き戻せるように離れた場所で念動魔法を飛ばすべく待機している。
「あちっ、あちっちっ」
チムニーに近づいた博士だったが熱さには敵わなかった。チムニーの周りには呪いを放つ高熱の魔力が漂っていて下手に近づけば燃やされる。博士があのまま進んでいたら火だるまになっていただろう。
チムニーはキノコの様な形をしていて高さは十メートルを超えている。白い蟹達は温度も気にせずチムニーに登っている。
しかしよく見ると蟹達の反対側にはこれまた大きい白い海老達が居て、キノコ状のチムニーを戦場にして戦いが勃発している。お互いにチムニーの半分の領域を占有していてその境界線では海老と蟹が火花を散らしている。
「あの白い海老と蟹って食えるの?」
「試してみんとわからんな。しかしあれだけ数が居ると食欲より寒気の方が走るわ。食欲が勝つとは坊主も若いのお」
「そりゃ若いよ」
「それじゃあ、あのキノコ形のチムニーを伐採してきておくれ」
「試してくるからやばくなったら念糸で引っ張って」
「余裕があったらこの筒をキノコがあった場所に差し込んでおくれ。次から採取が楽になる」
助手から中心が空洞で先端にネジが付いた大筒と斧を受け取った。しかし大筒は直径がマサモリ数人分なうえ長いので持ち運ぶのが非常に難しい。大筒を抱えながらマサモリは進んだ。
念動魔法で斧を使ってチムニーを倒せれば楽なのだがチムニーの周りには地下から湧き出した高濃度の負の魔素がとぐろを巻いている。
念動魔法で斧を操作しようとしても高濃度の魔素の中では泥沼の中で藻掻く様なものだ。近付いて行って手作業でやるしか方法はない。
チムニーの近くまで進むと結界を張っていても強い熱を感じる。マサモリは結界を五重に張った。結界は数を増やす度に必要魔力が上がっていく。しかしこの瘴気と熱を耐えるには五重結界が必要だ。
結界を張るとさっきまでの熱もしっかり遮断された。マサモリは蟹や海老を刺激しないようにゆっくりとチムニーに近づいた。
熱は遮断できているはずなのに汗が滲む。熱よりも、重く圧し掛かってくる瘴気の方が危険だ。マサモリは足を止めて結界の熱耐性を下げて、呪い耐性を強化した。結界の中が暑くなったが瘴気を浴びるよりましだ。
チムニーに近づくにつれて温度は上がっていった。肌の表面が焼かれているが死に至る程ではない。蟹や海老をできるだけ避けて歩いてきたが既に進行ルート上には蟹と海老の絨毯が敷き詰められている。ここまで来るともう後は時間勝負だ。
マサモリは強化魔法を強めて斧を振りかぶった。鉄と鉄がぶつかる音がして辺りに衝撃が走る。切りつけた場所の近くに居た蟹や海老は衝撃で四方八方に飛んだ。
次の瞬間、蟹と海老が一斉にマサモリへ向かってきた。マサモリは蟹と海老の塊を避けつつもう一度斧を力強く打ち込んだ。蟹の大きな鋏がマサモリを刈り取ろうとする。マサモリは蟹がチムニーに切りかかるように位置を誘導した。
蟹の鋏を避けながら再びチムニーに斧を叩き込む。明らかにさっきの切り口とは別の場所になってしまったが丁寧にやっている場合ではない。近くにいた蟹が衝撃でまた吹き飛んだ。
マサモリは蟹や海老を踏みつぶしながら素早く反対側へ回り込んだ。そしてその移動速度を利用して再びチムニーを叩き付ける。チムニーの根元には深い傷が生じたが蟹と海老を無視して伐採をし続けるのは不可能になってきた。
次第に蟹や海老の大きな個体がマサモリへと狙いを付け始めた。マサモリは足元を強く踏みつけて両足をしっかりと地に付けた。そして大きく振りかぶって斧の刃の腹で押し出すように蟹と海老の塊を薙ぎ払った。
蟹と海老の塊が吹き飛んでいる間に再び伐採を始める。無茶な動きのせいで結界の維持にかかる魔力が跳ね上がっている。
マサモリは何度も切り込みを入れた。大型の蟹と海老が多すぎて避けるスペースがもうない。やけくそ気味にキノコ型チムニーの根元に思いっきり体当たりをした。マサモリとチムニーの間にいた蟹や海老が潰れる嫌な感触とチムニーが折れる手応えを感じた。
本来なら大筒を再設置する予定だったが慣れない作業に気力と魔力を使ったのでキノコ型チムニーだけを拾ってマサモリはさっさとその場を離れた。
「よくやった!」
博士がまだ蟹や海老が張り付いているチムニーに飛びついた。纏わり付く瘴気がしっかり残っていているのに博士はお構いなしだ。マサモリは水筒の中身を一気に飲み干した。それでも体には水分が全然足りない。
マサモリは水を魔法で出してそのまま口に入れた。体中の水分が飛んで肌が乾燥し、干からびた状態だ。そのまま水を飲み続けると、マサモリの体に水分がめぐり始めた。
「疲れたし、今日はもう帰ろう。お風呂に入りたい」
「よしよし、帰ったらじっくりと研究だ」
「目印になる石を置いておきます」
「樹海に来ても外物質は見つからんか」
「珍しい物があったら見せろって言ってたけど、外物質ってなんなの?」
「ジェルセ以外の星から来たと思われている物質じゃ。未だに謎を多く秘めた物質じゃ」
「ふーん」
目印になる印石を地面に埋める。動かされていなければ次からはすぐここに来れるだろう。出島村からこの印石の位置を観測し続ければプレートの移動速度も分かる。
一行は出島村にある要石を目指して出発した。
「おっ、魔ウロコフネタマガイじゃ」
博士は貝の群生を見つけた。服からトンカチを取り出してウロコフネタマガイを叩く。エルフの大人程の大きさで、普通の巻貝に鱗の足が生えたような形をしている。博士が嬉しそうに貝殻や鱗の部分を叩くと鱗が博士目掛けて飛んだ。
飛ばされた鱗はマサモリの結界によって受け止められたが結界の属性を呪い耐性に偏らせたままだったのでマサモリだけは冷や汗をかいた。急いで結界を物理耐性重視にした。
当の博士は結界で止められた鱗を縦横斜めからじっくりと観察している。
「良い魔鉄を含んでおるわい。テトラポットを狩るよりこっちから回収した方が良さそうじゃ。これは良い鉱床になる。次回からは砂鉄を持ってこよう。そうすればウロコフネタマガイの鱗の再生速度も上がるじゃろう」
助手ーズが博士と同じようにして鉄の鱗を回収する。そしてここにも印石を埋めた。
「中々の収穫じゃったわ」
「チムニーの伐採は危ないから勘弁してほしいね」
「精々あと十か所程度じゃよ。若い頃の苦労は買ってでもせよじゃ!」
「苦労してきた世代がこれじゃあなあ。次は穴を掘ってみたら? 既に噴出している所だと生物が集まってきていて大変だよ」
「採掘位置を特定するのにまずチムニーの位置の把握からじゃな」
マサモリは次やる時はもっと良い方法を考えようと決心するのだった。




