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数日後、一行は小笠原村跡地に到着した。
「着いた」
「やったー!」
「俺が居るんだから当たり前だ」
小笠原村跡地は村の中央に一本の大樹がありそれ以外は見渡す限りの草原になっている。大樹は幹の途中からツタのような数々の根が放射線状に真っすぐ伸びている。まるで大きすぎる樹を支えるかのようだ。この地は放棄する際に他の木が生えないように特製の魔法釘が地面に打ち込まれていた。
マサモリは小笠原村跡地に中央へと向かった。草を魔法で刈りながら進むと大樹の正面に石畳の部分がある。石畳に魔力を籠めると中央部分がせり上がってきた。そこに要石を設置した。
応急処置的な結界を張るとマサモリはやっと一息ついた。まずは一段階目が終了だ。開拓団の面々には魔法で簡単な家を作って貰ったり、地面に刺さっている魔法釘を抜いてもらっている。
次に大樹の元へ向かう。生い茂る木の根をかき分けて根元に到達するとそこには結界があった。マサモリがその結界に手を触れて呪文を唱えると結界に入れるようになった。結界を抜けるとその先には小さい部屋があった。
戸を開けようとしたが根に押しつぶされるようになっていて中々動かない。強化魔法をかけて力任せに開けた。すると大量の埃が舞った。風魔法で埃を外に誘導すると部屋の中には魔法陣があった。
転移用の魔法陣だ。転移用の魔法陣は数が少なく、場所も長老族のみが管理している。一回の転移にかかる魔力は膨大だ。マサモリは父のヒデヤスに本当に危なくなったらシラギクを連れて飛ん来いと言われている。
そうならない事を願うのみだ。ここの転移陣は分かりやすい場所にあるが設置できる場所が限られているので位置が分かりやすくても仕方がない。
村跡地に着いてすぐにやるべき事が無事に済んだ。マサモリは部屋を出ると皆に宴の準備を頼んだ。釘を抜くのは明日以降ゆっくりやれば良い。
宴といっても酒すらないのである物で我慢だ。儀式用の酒はあるがさすがに飲まない。
途中に取った魚を中心とした質素な宴が始まった。それ以外には大樹に生えていた丸っこいパイナップルみたいな実が出されている。
「懐かしいのぅ」
ダダダンビラが実に手を伸ばした。表面の小さな外側の実を丁寧に外していくと中心に丸い部分が残った。アルコールの匂いがする。
ダダダンビラは実を真っ二つにして白い芯の部分を取り出して輪切りにする。するとアルコールの香りが辺り一面に広がった。輪切りにした実をダダダンビラは口に放り込んだ。
「この味じゃ」
マサモリも一つ食べてみた。食感はもさもさしていて甘酸っぱくて発酵している。今まで食べた事がない味だ。アルコールの匂いに釣られて武者達も恐る恐る手を伸ばす。外側の実は種もなく発酵が進んでない事もありほんのり甘くてさっきの実よりは食べやすかった。
食べてみるがどちからかといえば微妙な顔をしている者が多い。平気な顔をしている者もいるので慣れると悪くないのかもしれない。外側の実はほんのりと甘かった。
やっとの事で安全地帯に辿り着いた一行は食事が終わると魔法で作った部屋に入ってすぐに寝入った。
マサモリが目を覚ますと武者エルフ達は既に働き始めていた。武者達が釘を引き抜いてゴーレム達が草を根っこから掘り起こす。町の片隅には苦労して持ってきた人や獣人の石像が綺麗に並べられている。
石像を観察したが樹海を通って来た割には負の魔素が染み込んでいない。呪いさえ祓っておけば急いで石化を解除する必要はなさそうだ。
マサモリは朝飯までの時間を村の外周をゆっくりと歩いて見学した。
「博士がぁ!」
心地よい達成感と共に気持ち良い気分で散歩をしていると悲鳴が聞こえてきた。
「すいません! 止めたんですけどチムニーを見に行くって言って聞かなくて」
助手ーズの二人が一人は石化した博士を抱えて、もう一人は石化した別の助手を抱えてきた。
「あー、待ちきれずに行っちゃったかー」
「博士がチムニーに近づこうとしたら崩れ落ちるように倒れてしまいました。博士を助け起こそうとした 助一郎 も倒れてしまって!」
「それは大変だ! すぐ見るよ」
「お願いします!」
マサモリは石像を調べた。大怪我をしたり、大病を患った時には緊急避難として石像にするのがエルフの知恵である。歴史のある方法なのでマサモリは落ち着いて対処する。
マサモリは石像を触ってみたり石像に流れる魔力をじっくりと観察した。医者や薬師には敵わないが大量の魔力を持っている長老族は軽度の病なら十分治療できる。長老族は専門職には及ばないが何でも屋的な存在なのだ。
場所と報告から推測すると毒か呪いだろう。問題はその強さだ。石から戻してみて解毒と解呪を試してみて効果がなければエルフの森へ送り返さなければならない。送り返された時の博士の反応を思い浮かべると緊急時にもかかわらずマサモリは笑ってしまった。
「これから石化を解除した後に解呪と解毒を試す。効果が無かったらもう一回石化だなー」
マサモリが助手の石像を解除した。石化が解除された助手だがそのまま意識も無く、ぐったりと身を横たえた。体の周りに泥の様な闇が絡みつく様に蠢いている。
「祓いたまえ……。清めたまえ……」
闇が少し晴れてきた。まずは闇を祓えるだけ祓う。
「祓いたまえ」
体から湧き出して纏わりついていた闇がなくなると助一郎の意識が戻った。
「ここは?」
「小笠原村だ。体調はどう? 毒か呪いは残ってる?」
助一郎は少し戸惑った後、自分の体をぺたぺたと触った。
「大丈夫みたいです」
「ふー、良かった」
「「ありがとうございます!」」
「チムニーからはこの星、ジェルセの内部から色々なモノが噴き出しているんだ。しっかりとした結界を張らないと博士みたいになる。高濃度の負の魔素を吸って呪いにかかっていたみたいだね。でも俺の直せる範囲で良かったよ。もっと近づいていたらこの程度じゃ済まなかったかもしれない」
「すいませんでした……」
「博士の責任だから次回から気を付ければいいよ。そろそろ朝飯だから食べに行こう」
「あ、あのー? 博士は?」
「村の結界を調整するのに数日はかかるから当分はこのままにしておく。勝手に動いて死なれたら目覚めが悪いからねー」
「は、はい」
「良し! 飯だ」
マサモリは一週間かけて結界の調整をした。結界の入退出条件を決めなければならなかった。複雑になればなるほど魔力も必要になってくるし結界の強度は下がる。結界は要石を中心に球形状になっている。地下の設定に関しては面倒だが今までの蓄積がある。
博士に騒がれるよりかは石になっているお陰で静かなものだ。マサモリは不幸中の幸いだなと思った。
人間に関しては許可制にした。一人一人に許可、不許可を設定しないといけなくて面倒だが、人口が少ないので今の所は十分だ。
石にされた人の中にハーフエルフやエルフの血が混じっている人がいる可能性もあるので迂闊にエルフを許可にできない。考えたくはないが超大陸に住んでいるエルフがスパイに来る可能性すらある。それについては対策をしておいたから大丈夫だろう。
エルフの森では今回の黒船の件で外部からエルフが来る可能性が出てきた。だからエルフの森の住民以外のエルフの侵入は完全に遮断している。エルフの森の一般住民が怖がっているんだからしょうがない。
マサモリは超大陸のエルフやハーフエルフが逃げてきたら喜んで受け入れようと思っている。だがスパイだった場合を考えるとまだ完全には方針が固まりきっていなかった。
マサモリが結界に専念している間に辺りの釘は取り払われ、草は抜かれ、建物が建ち並んだ。エルフの森では家は木の枝の上に家を乗せるが出島では防衛の関係上、地面に建てる。
村の周囲を囲む塀や壁はない。結界魔法があるし、中途半端な壁は強度的な意味でも意味が無いし、視界の妨げになる。
攻撃的な植物を生垣にする方法もあるがエルフも攻撃してくるので逆に危ない。テイマーが居れば助かるが都合よくそんな人物がいるような事はない。
基本的に出島に来たいと思うエルフはごく少数の変わり者だけなのだ。




