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『木の壁は破壊できますか』
『ボタン殿か! 五秒後に破壊する。正面から離れろ』
ダンジロウ達は豪雨プレートの境界線から木の根が十数メートルの高さに生え揃ったのを目の前で目撃した。木の壁を壊そうとさすまたを突き付けたダンジロウだったが表面が削れただけで木を倒すのには不十分だった。しかしこの一撃で木の硬度は確認できた。
次はしっかりと溜めて打ち込めば人が一人通れる位の幅は開けられそうだ。しかし木の根はすぐ傷を癒した。一人分の空間だけでは足りていない。破壊力を上げるにはもっと強化魔法を使って体を強化しなければならない。
しかしこれ以上の強化は魔力の消費を考えると大幅に効率が悪くなる。仲間を助けなければならないので魔力の消費の事などは二の次だと思った時だ。
『ふんっ』
シラギクが背中に背負っていた自分の背丈と変わらない木の根を片手に持った。木の根というには不格好で根の部分が奇妙に膨らんでいる。シラギクよりも木の根の体積の方が大きいくらいだ。球根から芽が出た状態と考えた方が分かりやすいかもしれない。
『魔力はたっぷりあるから私が壊すよ!』
シラギクは棍棒に魔力を注ぎ込んでシラギクが到着するのを待った。
『木の壁は破壊できますか』
『ボタン殿か! 五秒後に破壊する。正面から離れろ』
シラギクは木の根の棍棒に溜め込んだ魔力を大きく振りかぶって一気に叩き込んだ。樹の壁にエルフの大人が五人は通れる空間が空く。すると忍者達が飛び込んできた。
彼らには串のような種が何本も刺さっていて刺さった部分は服の上からでもミミズ腫れが放射線状に走っているのがわかる。
『私は火魔法が得意だから取ってあげるよ。しっかり強化魔法をして動かないでね』
シラギクは手を燃やすと串種を掴んだ。串種がシラギクの手に根を伸ばそうとするが強化魔法に阻まれ、火で燃え尽きた。三秒程で木の種は燃え尽きた。
忍び装束が優秀だったお陰か体内に潜り込んだ根は細く後遺症が残る程ではなかった。シラギクは種を一つずつ燃やして全員から種を取り除いた。
『シラギク様、ありがとうございます』
『木の壁に穴をあけた事といい、お手柄だな』
『そうでしょー。私はやればできる子なんだからね。けどヒールはそこまで得意じゃないからマサモリに直してもらおう』
『それにしてもその棍棒は魔力を相当食うようだがかなり位の高い武器とみた』
『ふっふっふ、我が群馬村の秘宝なのだ。すんごく魔力を食べるけど威力は抜群なの。それに相手が木だったから武器の格の差で相性も良かったみたいね』
『なるほど』
『以上が今回の偵察の結果です。強化魔法を強くかければ串種からは身を守れそうです。ただし、種の発射後に時間差で魔ダツが攻撃してくるかもしれません。あれはしっかり防がないと風穴を開けられてしまいます』
『報告ありがとう。三人が無事で良かった』
『自らの力を不足を嘆くばかりです』
『明日は私とダンジロウとボタンでプレートがどの位の広さか見てくるよ』
シラギクの発言を聞いてマサモリはサビマルを見た。サビマルは軽く頷いた。
『わかった。頼むよ。安全第一で危なくなったり道を見失いそうになったら戻ってきてね』
次の日、三人の偵察によってプレートの広さが判明した。それにより開拓団は豪雨のプレートを突破する事を決定した。博士は豪雨プレートの水を不用心に採取してダンジロウに怒られていた。
『それでは豪雨のプレートを駆け足で走破します。歩荷の人達は俺が守るので魔ダツにだけ気を付けて。他のみんなは自分で対処するように』
『『『了解』』』
半球体の結界を張りながら豪雨のプレートへと入り込んだ。ボタンが言っていたように水に触れると魔力が吸われる。球体で面が多いので思ったよりも魔力の消耗が大きい。ある程度プレートを進むと情報通り、一斉に上から種が発射された。
結界の維持に注意しながら種の雨の中を駆け抜けていく。前後左右と上から雨音とは違う金属音が鳴り響いてまるで爆竹が周りで弾けているようだ。
『進行方向が徐々にずれているぞ! あちらへ進め!』
サビマルが一行の移動方向を修正した。金属の爆音に包まれて真っすぐ走っているつもりが樹々の術中に嵌まっていたようだ。気が付かなければこの音と振動で完全に方向を見失っていたかもしれない。
耳をつんざく音と共に時折やってくるダツの攻撃に対処しつつ進んだ。するとやっと目の前に木の壁が見えてきた。
『いっきまーす!』
シラギクが棍棒を振り上げて壁に大穴を開けた。しかしすぐに木の壁は再生していく。
『炎よ! ……あれ、炎が出ない。あ、ここは水が強かったか。ならば強火だああ!』
シラギクの棍棒から炎が放出されて木の壁の再生を食い止めた。
壁に棍棒を叩き込んで無防備になっているシラギクをダツの攻撃から守るようにボタンは移動した。一行が通り抜けるとシラギクとボタンが最後に木の壁を抜けた。
『みんな無事だね? 今日は早いけどすぐ野営にしよう』
マサモリが念話をすると武士達は満面の笑顔と共に捕まえていた魔ダツを取り出した。マサモリは結界で手一杯だったが武士エルフ達は結構余裕だったようだ。
マサモリは豪雨プレートから出ると地面が揺れるように感じた。耳鳴りがして足がふらつく。結界で防いでマサモリ達に届くのは音と小さい衝撃だけだったが長時間走っていると三半規管がおかしくなる。あれに光が加わっていたら危なかったかもしれない。マサモリは冷や汗が滲んだ。
結界で音をもっと防ぐ事は可能だったがあんまり遮断しすぎると周りの様子が直に感じられないので危険を感じ取りにくくなる。結界で音を遮断すれば自分達だけは守れるが突然結界が解除された時に対処が難しくなる。
今回は忍者エルフと武士エルフが居たので自分を守るだけで良かったが少人数で移動する場合は結界を完璧にしすぎてはならない場合があるかもしれない。マサモリは一人で今回の反省会をした。
時と場合によって同じ場所でも最善の対処は変わってくる。良い経験になったなとマサモリは思った。
今回の豪雨のプレートでは今までで一番魔力を消耗した。早めに野営にしたのもその為だ。だが今回のプレート踏破は間違った判断ではないと思った。ボタン達が先行して情報を集めてくれた事で自分達は安全に踏破する事ができた。
それにしてもボタン達が怪我をして帰って来た時には肝が冷えた。自分がこの開拓団のトップで自分が命令で怪我人が出た。自分だけのことなら自分で責任を取れるが部下が絡んでくると胸の痛みが違う。
まあ、できるだけ頑張ろう。マサモリはダンジロウに比べるとより若くて、より適当で、より楽観的だった。生きていれば取り合えずなんとかなるのだ。




