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水神の剣の守り手   作者: 星 雪花
剣の巫女
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水脈筋( 1 )


 凄い勢いで体は分離した。

 気づくと桜子は、何もない暗がりにひとりで立っていた。足元近くを川が流れている。淡い光を宿す川の淵には、蛍のように舞う光の残滓ざんしが輝きを放っていた。


 ——ここは。


 昼間だったはずなのに、陽の光はどこにも見えなかった。すぐそばにいた伊織の姿もない。

 妙に現実感が希薄だった。何もない暗闇に、光る川だけが青い。


 ——ここはもしかして、自噴井につながる水脈では。


 水かさが増したことは覚えていた。まるで桜子の動きに呼応するように、水の流れは速さを増したのだから。



『そこにいるのは、もしや桜子か』


 不意に誰かが、そう問いかけた。

 桜子は自分ひとりだけと思っていたところに、見知らぬ声を聞いて驚いた。その人が自分を名指ししたことにも。


「あなたは誰」


 桜子は(おく)せず見えない相手に叫んだ。

 自分で覚悟した結果がこれなのだ。これ以上何かにひるんでいる暇はない。

 相手は桜子の問いに答えなかった。


『本当に桜子か。いつの間に、こんな場所まで来られるようになった』


「こんな場所って、ここは……?」


 桜子は言って辺りを見回した。足元では変わらず、音もなく光る川が流れている。


『水脈筋のなかだ。黄泉よみに一番近い地層の底』



 ——水脈筋のなか?


 桜子が困惑すると、声は再び言った。


月読つくよみでも、ここに来られるのは俺ひとりだ。守り手の力がここに来させたのだろう』


  その言葉が、桜子の心を強く揺さぶった。

 桜子のなかの何かが、声の主の正体を告げたのだ。


 ——まさか。


 そう思いつつ、桜子は率直に尋ねた。


「あなたは、すぐるという人ではありませんか」


 沈黙があったのは、ほんの一瞬だった。

 声の主は桜子にむかい言った。


『どうしてそう思う』


「そんな気がしたからよ。ねえ、そうなんでしょう」


 詰め寄るように迫ると、相手は嘆息した様子だった。


『まいったな。正体を明かすつもりはなかったのに』



 ——この人、優だ。薫のお父さんだ。


 桜子は、その一言で確信した。

 その言い方が、何より薫を近く思わせたのだ。


「どうしてこんな場所にひそんでいるの。いるなら姿を見せてよ」


 桜子がそう言い放った刹那せつな、暗がりの隙間にいびつな裂け目ができ、そのなかから現れるものがあった。水面の光を青く反射して、その姿が徐々に照らしだされる。

 ほのかな明かりで容貌ようぼうが定まらないものの、背丈のある体躯たいくはいかにも頑丈そうで、細身だが全体に引き締まっていた。

 彼は桜子を見下ろすと、苦笑しながら首を傾けた。



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