水脈筋( 2 )
「やはり、剣の守り手の血筋は争えない」
ささやくような声音は、予想以上に桜子のそばにあった。いきなり現れた人影に声を失うと、その人は感慨深くつぶやいた。
「まさかここで遭遇するとは、俺も思わなかった」
「あなた本当に、薫のお父さん……?」
声が近づくと、思ったより年齢は若やいで見えた。
目尻や口元に刻まれているはずの皺が見えないからだろうか。父の秋津彦と何才離れているかもよく知らない。
「血を分けただけで父と呼べるのなら、そうなのだろう」
飾らない口ぶりで、優はそう言った。
改めて眺めると、薫と容姿は似ていないのかもしれなかった。
——水脈筋のなか。そんな不思議な場所で出会うなんて。
夢かもしれない。
そう思ったが夢で終わらせるには、この状況はあまりにも生々しかった。現にこうして薫の父と言葉を交わしている。
「薫と連絡できなくて困ってるの。薫はどこにいるの」
まくしたてるように言った桜子に対し、優はやんわりと笑んだだけだった。
「薫のことなど気にとめなくていい。剣の力を開かせるためにやむなく文を出したが、それ以上のことができるとも思えない」
「どういうこと……?」
桜子が尋ねると、優は言葉を重ねた。
「ここは、言い方を変えれば黄泉へ渡る淵だ。ここでなら死者とも見えることができる。
俺はここで、撫子の影を追っている途中だった。だが、すんでのところで気配は絶えてしまった。剣の力は桜子のもとに集まりつつある」
「あなたはこの力を解き放つ術を知っているんでしょう」
桜子は、優の言ったことには触れなかった。
——母の撫子の、影を追っていた?
そんなことができるはずないという気持ちと、できるかもしれないという迷いが拮抗する。
「伊織に聞いたのか。確かにその方法は分かっている」
対する優は、落ち着いた口調で言った。
「依代を壊さなければ、その力を解き放つことはできない。『水神の剣』を打ち砕くことができれば、力はあるべき場所に還るだろう」
「剣を……打ち砕く?」
桜子がそっとつぶやくと、優は目を細めた。
「それしか解放する術はない。剣を壊すか、その身を差し出して次の守り手を生むか、ふたつにひとつ。それとも桜子はその力を負ったまま、これからも生き続けていくつもりか」
桜子は唇を噛んだ。
そうしないことは、一番最初に分かっていたはずだ。薫に『水神の剣』の守り手についての話を聞いた時に。桜子は、その力を解き放つために剣を取ったのだから。




