クランツとバージ
バージがこの家に来てから、数日が経った。
特別な事は、何も起きなかった。強いて言うなれば、クランツとバージがよく喧嘩をしていたというくらいである。無理もない。元から敵対する国の兵士長同士だ、一つ屋根の下で数日生活しただけで、仲良くなるなんて誰も思わない。
そんな些細な喧嘩でさえも、姫にとっては喜びの一つである。
ここの男は皆が、自分を愛してくれる、自分だけを見てくれる。城にいた頃は、噂だけが耳に入ってきていた。しかし、今は形のある愛を受けることが出来る。彼女にとって、「男」という存在事態が、快楽の象徴であった。
「申し訳ないですけど、俺ちょっと出掛けてきます。」
この家で唯一素性が分からない男、ジグが身支度をして家を出ようとしていた。咄嗟に、数日前の会話を思い出した。
「待って下さい、ジグ!」
少し大きめの声を出したせいか、三人の男がこちらに振り向いた。少しだけ、気分が良かった。
「どうしました、姫。」
「出掛けると言うのは、先日言っていた、街にですか?」
その様なやり取りをした事を、ジグは今になって思い出した。
「あっ、そう言えば、姫は街に行きたいんでしたっけ。丁度今からアルダナの街に向かいますし、一緒に行きますか?」
「是非お願いします!」
姫は目を輝かせている。まるでおもちゃを前にした子供の様な表情であるが、それを好ましく思わない男もいた。
「姫。本当に森の外に出られるのですか。」
姫を一番に慕っていると自負している、クランツだ。
「どういう事ですか。」
「ジグを信用していない訳ではないのですが、仮にも姫は、ハルベール王国の王女なのですよ。道中何があってもおかしくないんですよ!それでも、わざわざ危険を犯してまで、森の外に出るのですか…。」
至極全うな意見である。
世間から遮断されて忘れかけていたが、今は国同士が領地を奪い合い、戦争をしている世なのである。そんな状況下でも、不思議とこの森は平和を保っている場所なのである。その平和な森から、一歩外に出れば何が起きるか分からない。
クランツは、姫の事を一番に思っているからこそ、そんな事が言えるのだ。
「アルダナの街は、そんなに危険な街ではないですよ。」
アルダナと呼ばれる街を、唯一知る男が口を挟む。
彼にそう言われてしまうと、クランツも返しようが無くなってしまう。
「そんなに心配なら、もう一人護衛で着いてきますか?」
その提案に、今まで黙っていた男が発言をした。
「なら、その役、俺にやらせてくれ。」
少し傷痕が目立つ男、バージである。
「何故、お前に任せねばならんのだ?!」
予想だにしないバージの発言に、クランツも声を荒げてしまった。
「何故って?そりゃ、お前に任せるよりは、俺の方が優秀だからだ。」
「訳の分からんことをぬかすな!お前のどこが、俺よりも優秀だというんだ!!」
「そんな事も分かんねえのか、兵士長さんよ?俺の方が、確実に姫を、守れる自信があるって事だよ。」
「貴様…、舐めおって!!」
いつにも無く、不穏な空気が漂う。流石の姫も、惑っている。
「表に出ろ、バージ。今ここで、どちらが上か、はっきりと決着を着けよう。」
クランツの目は、本気だ。
「面白い!お前が城を捨てたせいで、お前との決着がうやむやになっていたからな!!その勝負受けてたつ!」
二人して、部屋の隅に置いていた剣を手に取り、家の外に出てしまった。
あまりの急展開に、姫はぽかんとしてしまった。
「どっちでもいいから、早く街に行きたいんですけど。」
ジグに関しては、興味がまるで無いようだ。
「お前という男だけは、絶対に許さない!」
「せいぜい吠えてろ、負け犬風情が!」
ハルベール王国、ラグノワル王国、両国の兵士長が互いに剣を手に一定の距離を保っている。
前話にて、伏線を回収すると言いましたが、気が付くとこの様な展開に…。
もう暫く、お付き合い下さい。




