剣と剣
格闘シーンがメインになっていますが、今回限りです。
話が脱線しかけてすいません。
ハルベール王国の兵士長クランツ。対峙するは、ラグノワル王国の兵士長バージ。二人の男は右手に剣を構え、無言の睨み合いをしている。
「姫、何であの二人はいつも仲が悪いのですか?一緒に住んでるんですから、もっと仲良くなればいいのに。」
二人の勝負なぞ、まるで興味の無いバージは、頭のうしろで手を組ながら質問してきた。
自分としても、あの二人の仲が良くなって欲しいとは思っている。しかし、身分が身分だ。簡単にいく話ではない。だからこそ、このような状況になってしまったのかもしれない。
「本当の剣士とやらを、お前に見せてやるよ。」
「ふん、全身に傷を負って来たお前に、何が出来る?」
クランツは両手で柄を握り、下に構えた格好でバージに走り寄る。一方バージは、依然として片手のまま、半身で構えている。
「うぉりゃぁあ!」
クランツが、バージの手前で左足で踏み込み、剣を振り上げる。しかしその剣は、中段でバージの剣によって止められた。
「ハルベール王国の兵士長の実力は、そんなものですか?」
実に悪そうな顔をしながら、彼は言う。
「それな、こっちもいかしてもらいますよ!」
そう言うと、今まで押さえ付けていたクランツの剣を、いとも簡単に弾いた。あまりの反動に、クランツは一歩退き、構えを正した。
「そもそも、お前の国の戦わないという信念が、おかしいんだよ!戦うつもりが無いなら、兵士団なんかいらないだろ?」
姫とクランツのいたハルベール王国は、この世界ではまず考えられもしない”戦わない”国だった。誰しもがおかしいと思った。兵士も国民も。それでも、この国は最期まで戦うことを善しとしなかった。
「哀れな最期だったぜ?お前んとこの国王。」
「まさか、お前が…?!」
「そうだよ、俺が終わらしてやったよ。最後の最後まで何の抵抗もしなかった。終いには、殺せと、自ら言ってきたくらいだからな!」
「貴様!!」
クランツは剣を上段に構え、一度高く飛び上がると、空中から剣を降り下ろした。バージはそれを、左足の蹴りで吹っ飛ばす。
「お前たちは、何であんな国を守ってた?守る価値はあったのか?」
その言葉に、姫も不思議に思った。
父は何故戦わなかったのか。けして、力では弱い国ではなかった。それなのに、一度も兵士たちに戦いの命を出すことをしなかった。ならば、兵士である彼らは何の為に存在をしていたのだ。
その意味は、兵士であるクランツ自身が分かっていた。
「私たちの国には、アーネ姫がいらっしゃる。私たちは彼女のために国を守っていたのだ!!」
体をゆっくりと起こしながら、クランツは叫ぶ。
姫は、予想通りの言葉に笑みさえ浮かべた。
何でも良かった。ただ自分を愛してくれる存在がいれば。ただ美しいと、綺麗と、周りから言われていたかった。その為に、王女という地位は実に利用できるものだった。
王女に即位するやいなや、自分の噂は世界中に知れ渡っていた。噂は自分にまで聞こえていたのだ。
しかし、国を追い出された今でも、自分を愛してくれる男という存在が近くにいる。本音はそれだけで十分だった。もっとたくさんの男に愛されたいとも思えるが、体がもたないだろう。
姫にとって、祖国は深い意味をもつ存在ではなかったのだ。
「そのお姫様を守れもしないお前には、生きている価値が無いようだな!」
バージは高く笑う。クランツの表情は、今まで見たこと無いような怒りを露にしている。
このままではまずい。
「二人とも!私の為に争うのは止めて!!」
遂にこの言葉を言ってしまった。二人が家を出てから、いつ言おうかと考えていた言葉だ。実に気分の良い言葉である。
しかし、そんな王女の声も二人には届かなかった。
「すいませんアーネ姫、こいつだけは倒さねばならないのです。」
「俺もだね。お前みたいな弱い奴が、姫の側にいることが気に食わないからね。」
自分の言葉に二人も正気に戻ると思ったが、違ったようだ。
それでも、彼女は嬉しかった。
クランツが雄叫びを挙げて、バージとの距離を詰める。バージも構えはするものの、動こうとはしない。その態度が気に食わないクランツは、一心不乱に剣を振る。バージは、その一撃一撃を丁寧にさばいていく。
力量は一目瞭然だ。クランツは、遂に焦りを感じてしまった。
クランツは苦悶の表情を浮かべたまま、後頭部から一直線に剣を降り下ろす。それを片手の一振りで払うと、バージはクランツの喉元に剣先を突き付けた。少し当たっている為か、クランツの喉元から、一筋の血が垂れている。
「これが、力の差だよクランツ兵士長さんよ!」
クランツの手から、剣が音を立てて落ちた。
それを見て、バージも剣を鞘にしまう。
「さあ、姫さん。決着は着きました。街とやらに行きましょうか!」
クランツは、一人暗い森に取り残された。
次回、遂に森の外が明らかになってきます。
ハルベール王国の秘密もそろそろ明らかにしていくつもりです。
次回も読んでください。




