森の向こう
暗い森を三人で歩く。上を見れば、空を隠す沢山の木々の枝や葉が見え、下を見れば、湿った落葉が見える。少し霧も出ているせいか、実に薄気味悪い森だ。
「しかし、大丈夫ですかね?クランツさん。」
先頭を歩くジグが、いつもと変わらない調子で聞いてくる。心配などしている声ではない。
「ふんっ、あの程度で心まで折れたなら、あいつはそこまでの剣士だったって事だよ。」
バージも、クランツの心配はしていない。
姫は、少しだけ心配をしていた。あそこに一人残してきたクランツが、どこかに逃げてしまうのではないか。そうなると、愛してくれる存在を無くす事になる。それは、嫌だった。けれども、心の奥ではクランツが逃げるだなんて、有り得ないとも考えている。
「しかし、本当にこの森から出れるのか?」
退屈そうに護衛の男が言う。
「俺がいつも出てるんだから、出れるよ。」
村の猟師は、それに答える。
今回ジグが、何の為に街に行くのかは私たちは知らない。彼が前に街に行っていた理由は、服の調達だと言っていた。しかし、今回は服には困っていない。寧ろ、三人ともジグが調達してきた、質素な服を着ている。左胸に刺繍の入った布の服である。
街に行けば、色々な物が調達できるのは分かる。けれども、今の状況で困っているものは無い。ならば、何故街に行くのだろう。
「ここから先、霧が濃くなっているので、はぐれないで下さいね。」
ジグがそう言った先には、確かに濃霧が立ち込めている。手を伸ばした掌でさえ、見えないほどの霧だ。迷ったら終わりだろう。
前を歩くジグの影を必死に追う。 隣からは、バージの腰に着けた剣の金属音が微かに聞こえる。
「姫、ちゃんと着いてきてます?」
ジグの声に応えようとしたが、おかしい。その声は前を歩く影からではなく、何も無い筈の、後ろから聞こえてくる。しかし、振り向いたらジグの影を見失う。
「姫さん、着いて来てんのか?ここではぐれたら、あいつに何て言われるか。」
バージの声も、剣の音も先程とは違う方向から聞こえてくる。
「ジグ!バージ!どこにいるんですか!!?」
歩みを止めずに、声を挙げる。気が付くと、前にいた筈の影すらも見えなくなっていた。
「ジグ!バージ!返事をしてください!!」
遂には、二人の声も聞こえなくなった。
森に入って、二度目の孤独である。
しかし、自分が今、森のどこにいるのかなんて、分かる筈もない。真っ暗な筈の森で、視界が真っ白であることに恐怖心を覚えながら、ひたすらに真っ直ぐ歩く。
時々声を出すが、返事は返ってこない。やはり、この森から出ることなんて無理だったのだろうか。そんな事まで考えている。
「もし、ここで私がの垂れ死んでも、誰も気付かないでしょう。あのまま、あの家で平和に暮らしたかった…。」
そんな泣き言さえも、口から漏れていた。
随分と歩いた。足はもう動かない。体力も限界を迎えている。このままでは、本当に死ぬかもしれない、そんな事を考えた矢先だった。正面が異様に明るく感じた。それは、懐かしい暖かみを帯びた明かりだった。
「眩しい…。」
その明かりの先には、見たこと無い街がそこにはあった。
上を見上げると、そこには空と雲、そして太陽が存在している。
アルダナの街で何が起こるのか、次回新キャラの予定です。




