リオールの村
クランツの体調も良くなり、森での生活も慣れ始めていた。ジグが衣類や食料を調達し、クランツが薪割りや、水汲みをしてくる。二人の時よりも大分楽になったみたいだ。
分かる通り、姫は何もしていない。する必要がない。生活の仕事は全て、男二人が喜んでやってくれている。これも全て、自分が美しいためである。彼女はそう考えながら毎日を過ごしている。
「クランツさんと姫さんは、国ではよく会っていたんですか?」
男二人が外で薪割りをしている時、この話になった。勿論、姫は薪割りなどしてはいない。優雅にハーブティーを飲んでいた。
「クランツと私は幼馴染みなのです。幼い頃はよく二人で、城の外で遊んだりしていましたが、クランツが軍に入り、私が王女に即位してからは全く会う機会は無かったですね。だから、こうしてまた会えるのが夢の様にも思えるんです。」
「姫様…。」
この二人はなかなか良い関係である。ジグがどこかへ行っている間は二人きりなのでそれのせいもあるだろう。それに、国にいたときから、この二人は結婚の噂さへ流れていたほどお似合いの二人なのである。
「そうなんですか。」
そう言うと、ジグはまた薪を割り始める。自分から聞いといて呆気ない返事である。
こんな生活を何日も送ってきた。何でもない、ただ平和な日常。一歩森から出ればそこは血生臭い世界があるはずである。けれども、この森にはその影響が全く無い。どの国でさへ、この森に攻めようとはしてこない。本来なら直ぐ様狙われるような土地であるが、どういう訳だか平和である。確かに、よく考えれば自分達が今どこにいるのかは正確には分からない。ただ不気味な暗い森の中にいる、それだけのことしか分からない。いったいここはどこの森なのだろう。
夜。姫はカンテラを手にクランツと二人で森を歩いていた。眠れない夜はよく二人でこうしている。ジグは一人で家で寝ている。たまに家にいないこともしばしばある。
「ところで姫様。ずっと気になっていることがあるのですが…。」
真剣な顔をして彼が立ち止まった。カンテラはクランツが持っているため、迂闊に歩くことは出来ない。
「どおしたの?」
「あのですね、姫はリオールの村を御存知ですか?」
とても、初歩的な質問だった。リオールの村はジグが暮らすという村の名前だ。それぐらいはクランツでも分かっているだろう。恐らく、彼が聞きたいのはそういうことではない。
「クランツはあるの?」
ならば、逆に尋ねてみる。けれど、返ってくる答えは予想していたものだった。
「いえ、私は知りません。ここ数日思い出してみたのですが、私達の城の周囲にはその様な名前の村は存在しませんでした。」
「なら、遠くにはあるんじゃなくて?」
「それが…、記憶には自信がありますが、その様な名前の村は地図でも見たことがありません。」
聞いたことも見たことも無い名前の村。何故その村の名を彼は使っているのか。考えれば色々浮かぶ。
「しかし、彼の事を疑うつもりはありません。何せ彼がいなければ私はあの日死んでいましたから。」
姫でさへ、彼に助けられている。命の恩人を易々と疑うような真似は一人の王女である前に、一人の人間として出来ない。
「私の記憶違いならいいのですが…。」
クランツも姫も、命の恩人を疑うのは止めた。どこかにリオールという名の村があるに違いない。そう思い。また歩き始めた。
時同じ頃、家で寝ていたはずのもう一人は姿を消していた。




