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とある国の話2

このお話の謎の全てです。

 青年が森の奥に進むと、声が徐々にはっきりと聞こえるようになってきた。耳を澄ませて聞こえるのは、人の声だ。それも一人や二人ではない、大勢の声、恐らく軍勢だ。

 青年は一瞬にして悟った。敵だ。


 青年は踵を返して全力で町に戻った。遂に、恐れていた事が起こったのだ。


「まずい、まずい…!!」


風に近い速さで走る。幸い、敵は走っている様子はない。このままならどうにかなる。青年はそう考え走り続けた。






「皆!!敵が攻めてきたぞ!!!」


 町に戻った青年は、喉が潰れるくらいでかい声で叫んだ。皆がこちらを向いて、顔を真っ青にしている。


「おい、ダルク…。それは本当なのか?」


 昨日酒場にいた男の一人が聞いてくる。青年は先程聞いたことをそのまま伝えた。


「嘘だよな…?嘘だって言ってくれよ!!何で俺達の国が狙われなきゃいけないだよ!!!」


 男も大声をあげる。それを引き金に、皆が声をあげる慌て始める。逃げようとする者、農具を持ち戦いに臨もうとする者、その様は道標を失った蟻の行列に似ていた。


「こうなったら、俺が戦う…。」


 青年は、覚悟を決めた。






 音が近付いてくる。物凄い数の音がこちらに攻めてくる。海から攻めてくる事は無いので、森を正面に迎え撃つ形をとる。そこには、青年を含めた数人の男達が武器を手にしている。中には農具を持った農家のおっさんもいる。震えている若い男もいる。誰も易々とこの国を渡すつもりは無いのだ。

 女、子供は先に城に逃げている。森と海に囲まれている為、攻められにくい分、逃げにくいという反面もあるのだ。だからこそ、撃退するしか術がない。





「城を落とせ!!国民をどのようして構わん!!」


 正面の木々が薙ぎ倒されて、大勢の兵士が町に侵入してきた。

 一目で分かる。敵わない。

 敵は、馬兵や弓兵、剣士。装備も一式揃っている隊だ。それに対してこちらは、国民の数人が不格好に構えているだけだ。


 そこからは、とても地獄の様な声が鳴り響いた。初めて武器を手にした男達は、意図も簡単に殺されていった。その行為に慈悲は無い。淡々と敵は殺しの行為を繰り返す。一人、また一人と皆が殺されていく。

 青年は鍛練のおかげか、敵と同じように殺しの行為をしながら生きていた。とても気持ちの良いものではなかった。目の前で人が死んでいく。それも自らの手によって、その人に終わりがやってくる。

 この行為に何の意味が有るのか、青年は分からなくなっていた。


 気付くと最後の仲間が死んだ。流石の青年も死の恐怖を感じた。そこで愚かにも青年は敵に背を向け、逃げ出した。その方角は城だった。






 城に着くと、先に逃げていた女性が固まって震えていた。青年に気付いた一人が駆け寄ってきた。


「ダルク!町は!?主人はどうなったの?!!」


 共に戦った男の主人らしき女性が、泣きながら聞いてくる。しかし、青年の服に付着した返り血を見て、事態の様子が予想出来たのか、青年の服を掴んだ手が震えている。


「すまない、もう誰もいない…。」


 その声を聞いた女性は、大声をあげて泣き崩れた。それにつられて他の女性、そして子供までも泣き出した。

 青年は自分の不甲斐なさを悔やんだ。






 しかし、皆が泣き止む前に奴等はやって来た。

 城の扉が荒々しく開けられる。先程の生き残りと、新たな隊が城に乗り込んできた。


 戦える者は自分しかいない。

 青年はもう一度剣を構える。


「うぉりゃぁぁぁぁ!!!」


 一人果敢に敵の隊に飛び込む。しかし、見るも無惨に馬兵の隊長らしき人物の一撃を喰らってしまった。赤黒い血飛沫が垂直に伸びる。青年は右目を潰された。

 あまりの激痛に、その場に膝から倒れ込む。それを尻目に、敵は女達に近付いていく。


「やめろぉぉ!!!!」


 片目でぼやけるが、青年の目の前で血が飛び交った。声も飛び交った。それは悲鳴や苦痛、嘆き、耳と頭が狂いそうになる音だった。


「ああぁぁぁ!!!!」


 右目から流れる血が、青年の周りに血溜まりを作った。

 阿鼻叫喚。そんな言葉が相応しい場だった。






「何故、このような無意味な殺生を繰り返す、ハルベール。」


 階段から一人の老人が降りてくる。国王だ。


「やっと出てきたか、リオール王国!お前を殺して、この地を頂く!!」


 馬から降りた兵士長らしき人物が、国王に近付く。


「もう一度問おう。何故この様な無駄な殺生を繰り返す。」

「それが、この世界で生きる術だからだ。」

「この世界は、お前だけのものか?」

「何が言いたい!」


 苛ついたのか、兵士長は剣先を国王に向ける。


「お前は、可哀想な人間じゃな。人は殺さずとも生きられる。それなのに、お前達は殺すことでしか生きられない。只の道具に過ぎんのではないか?」


「黙れ!!」


 敵は叫びながら剣を降り下ろす。国王は、ぴくりとも動かなかった。何度目だろう、血を見たのは。


「何故…、避けもしない…。」


 自ら切っておいて、訳の分からないことを口にする兵士長。


「分からぬのか、小僧…。憎しみは憎しみしか生まん。争いは……、争いしか…生まんのじゃ……。」


 最期にそう言い残すと、国王は敵に体を預けるようにして倒れた。国王の言葉の意味が分かったのか、兵士長は震えていた。


「兵士長!!殲滅完了しました!!」


 どうやら、皆殺されたらしい。生き残っているのは、青年だけのようだった。

 生きる理由を失った青年は、意識を失った。






ーーーこれが、とある王国が滅んだお話。」






 静かになった城の中。血と死体が山のように積まれたその場所に一人の少年がいた。


「皆、どうしたの…?ねえ、返事してよ…。ねえ、ねえ!!!」


 少年の声に、返事をする声は無い。少年は、天井に向かって叫んだ。

次回より、アーネ姫が戻ってきます。

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