とある国の話
過去篇に入りました。この話がどの国の話で、青年が誰なのか考えながら読んでみてください。
とある王国のお話。
「国王様!何故我が国は、軍を持とうとはしないのですか?!これでは、他国に殺してくださいと、言っている様なものです!!」
一人の若い青年が、国王に直談判している。
場所は、小さなお城の最上階。王の間であるが、いるのは国王と呼ばれる老人と、その家臣が二人と、実に物寂しい空間である。
「何も軍や隊を持つ必要など、この国には無かろう。」
「何故です?!」
「そもそも、戦う必要が無いからだ。」
「なっ…!!」
国王はいったって、冷静な声色で話をしている。それと対称に青年の声色は棘のあるものである。
「戦いは実に無意味だ。命を落とす事だってある。我々は、自ら命を捨てるような真似はしたくない、ただそれだけだ。」
何処からその自信が沸き起こるのか不思議なくらい、国王は動じない。
今の世は、戦乱の時代である。国同士が領土、民を奪い合うが為に殺しを繰り返す、最悪とも言える時代。そのような状況の中で、戦う以前に、戦う術を持たない国はこの国だけだろう。
ここの城は、他国に比べれば小さい城である。それに正面には海、後ろには森と、攻められにくい地形に位置する為、国民のほとんどが戦いを無縁のものと感じている。
それでも、ここの土地はとても良質であり、ここでしか採れない果実や穀物などが多く存在する。中でも、とある薬草から作れる酒はとても上質であり、成人の男にとても人気なのである。
そんな国を愛しているからこそ、青年は守りたいと思う意志が芽生え、国王に頼み込んでいるのだ。しかし、国王の返事は一貫して首を横に振るのみだった。
城を出た青年は、城下町を歩く。行き交う人々は、とても幸せそうな顔をしている。この様な日々が永遠に続いてくれれば問題は無いのだが、いつ他国が攻めてきてもおかしくない状況、青年は焦りも感じていた。
「よう!ダルク、また城に行ってきたのか?」
青年が酒場に入ると、客の一人が声をかけてきた。その声で酒場にいた皆が、青年の方に視線を集める。
「まあな、今回も駄目だった…。」
「別にいいじゃねえか!誰もここを攻めようなんて思う国なんかいねえよ!!」
先程の客の声に他の客もそうだ、そうだと賛成の声をあげる。既に飲んでいる為か、皆上機嫌だ。いや、飲んでいなくても、ここの国民は楽観的思考である。
「ディリティスを一杯。」
青年もカウンターで酒を注文する。
「今年のディリティスは、傑作だぞ!天候にも恵まれてな、ここ最近では一番じゃねえか?!」
隣に座っている客が声をかける。
ディリティスとは、この国で採れる薬草で作った酒である。薬草の出来によって、毎年味が少し変わるが、この年は出来の良い年だった。
ジョッキに入った酒を半分程飲むと、青年もほどよい気分になってきた。
「俺はな、思うんだよ!戦うべきだって!」
しまいには、愚痴を溢すようになってきた。
「俺はな、この国が好きなんだよ!皆も好きだろ!だったら、皆で守らないと!!」
顔を赤くしながら、饒舌に自論を語り出す。酒場の皆は、野次やら賛同の声やらあげ、とても賑やかな場となっている。
「これでも、剣の腕には自信があるんだぜー!ん、あれ?!王子じゃないですか!何でこんな所にいるんですか?!」
青年は店の奥のテーブルに座る、七歳くらいの少年を見つけた。酒場には相応しくないその少年こそが、この国の王子である。
「別にいいじゃないか!僕もお酒をのみたいんだ!!」
王子の文句に、酒場の皆が笑い出す。
「王子、子供に酒は早いですよ!」
「俺達みたいに、駄目になっちゃいますよ!」
大勢の酔っ払いの男たちが王子に絡む。王子は頬を膨らませながら、拗ねている。
この酒場に女性の姿はない。それも当然、この国の女性は酒が飲めないのだ。それは体質的な問題ではなく、寧ろ酒の方に問題があると言われている。
酒場で男達が好んで飲んでいるディリティスという酒は、色々な噂がある。その一つに、女が飲むと死ぬという噂である。飲んで直ぐに死ぬという訳ではないのだが、どうやら一定の量を摂取すると死に至るらしい。本当かどうかは定かではないが、その噂を信じ国の女性は誰も、ディリティスを口にはしないのである。
また、他にもあり。子供が飲むと成長が著しく低下すると言われている。これに関しては、そもそも子供が酒を飲む筈がないので、本当かどうかいっそう分からない。
「僕だって立派な大人だ!」
王子がテーブルに片足乗せて、威勢よく吠える。周りの酔っ払いは面白がり誰も止めない。とても楽しい。
しかし、あまりにも予想外の事が起こった。皆が笑い合っている最中、王子が隣の男のディリティスを飲み干してしまったのだ。ジョッキに半分程入っていた酒を一人で一気に飲んだのだ。それに気付いた周りは大騒ぎ。
「王子!!!何をしているんですか!?」
「こいつ、ディリティスを飲んだぞ!」
「おい!大丈夫なのか?死んだりしねえよな?」
酔っ払いはあたふたと慌てている。当然、青年も慌てている。しかし、当の王子は
「うめえーー!!!こんなにうめえのか!?大人はズルいな!」
と、まるで問題が無い様子。それに安心したのか、男達は大笑いすると、またしても飲み始めた。青年も同様に、もう一杯のディリティスを注文する。
王子は、もう一度盗み飲みしようとしたが、今度はきつく止められた。
その翌日、青年は森で剣の稽古を一人でしていた。とても静かな森である。木漏れ日が丁度いい、稽古には最適な場である。
数時間素振りや、剣技を鍛練していると森の奥から聞いたこと無い音が聞こえた。青年は何事かと思い、剣を腰にさげ森の奥に進んだ。
次話も過去篇です。




