隻眼の老人
リオール。
その名前に聞き覚えがある。城を追い出され、森に迷い混んだ私を助けてくれた男が口にした言葉に、その単語はあった筈だ。それなのに、どこか記憶の節に引っ掛かる所がある。
「御嬢さん、もしかしたらハルベール王国の王女じゃないのかい?」
老人は私の顔を見て気付いたのか、今更な質問をしてきた。
「そうですが、それがどうかしましたか…?」
私が王女であることは、一目見れば分かる筈だ。それをわざわざ聞いてくるあたり、失礼な老人である。
「…そうか、リオールの人間がまだ生きておったのか…。」
目の前の老人が小声で呟いたが、私の耳には届かなかった。
「えっ!お姉さん、お姫様なの?!すげぇ!」
私を連れてきた少年は、今更になって驚いている。一国の王女の手を引いて走った男だ。将来が楽しみだ。
ふと、ある日のクランツとの会話を思い出した。
「姫はリオールの村を御存知ですか?」
「ここ数日思い出してみたのですが、私達の城の周囲にはその様な名前の村は存在しませんでした。」
クランツが言った言葉である。私達は、リオールの村を知らない。けれど、目の前の老人はリオール王国を知っている。あの男の事を知る手掛かりが分かるかもしれない。そう思った姫は、老人に尋ねようとした。
「すいません、お爺さん!リオール王国について…」
「こんなとこにいたのか、姫さんよ。」
私の言葉を遮るように、男の声が聞こえた。
丁度ここに来た道の所に立っている、一人の男が見える。
「心配したぜ、ほらさっさと帰るぞ。」
その男は、腰に剣を携えている。バージだ。どうやら、無事にこの街に辿り着いていたのだろう。
すると、彼は私の手を掴み、もと来た道に戻ろうとしてる。
「えっ、バージさん。もう帰るのですか?」
「当たり前だろ、ジグの奴も用は済んだらしいからな。後は、姫さんを見付けて帰るだけなんだよ。」
まだここにいたい。そう素直に思う自分がいる。何より、この老人からとても重要な事が聞ける気がするのだ。
「ほら、行くぞ。そこの坊主と爺さんも、ありがとな!」
そう言うと、彼は私の手を引いて歩き出してしまった。抗う事は出来ない。非力な王女と、優秀な剣士の力では差がありすぎる。
「じゃあねお姫様!」
振り返ると少年が手を降っている。隣の老人は、下を向いたままじっと動く様子がない。
「あいつも待ってるから、早く帰るぞ。」
彼の言う“あいつ”が、どちらの男を指すのか、私は分からなかった。
もう一度振り返る。随分歩いたためか、先程の場所は暗くて良く見えない。もう会うことはないのだろ。そう感じていた。
その後、ジグと合流した私達は少し腹ごしらえをした後に森に戻った。
今度はしっかりと、二人の手を繋いで歩くことにした。
「ねえ爺さん!」
「何だね坊主。」
「またあの話聞かせてよ!あの、何か悲しい話!」
「お前も好きじゃの。いいだろう、よく聞いとくんだぞ。これを知るのは、わしと坊主、お前だけなんだからな。」
そう言うと、隻眼の老人はとても低い声で物語を始めた。
「これは、とある王国のお話じゃーーー。
次回、モヤモヤを解消していくつもりです。
どうか最後までお付き合いください。




