第7話 倭人
袋の男が変な空気になっていた沙絵里を救うが...
「ちょっと、ついてきてください」
袋の男はそう言って、歩き始めた。
本当にこの男を信用していいのか?
でも、言葉の壁を越えられる、二度とないチャンスかもしれない。
怪しいと分かっていても、また飛び込んでしまう自分に、少し苦笑した。
私は、男の後を追った。
しばらく歩くと、男は雑貨屋らしき店に入っていった。
私も続いた。
中には、ペルシャ風のグラスや、蒔絵の小箱など、さまざまな国の品が並び、客たちがそれを眺めていた。
話し声でざわついていて、少し声を出しても、周りには聞こえなさそうだ。
「うわぁ」
その品々の美しさに、私は声を漏らした。
「そうでしょう」
袋の男は、声を潜めて、得意げに言った。
「ここは私の店です。清や日本の商人と取引したものを販売しています」
「…すごい」
袋の男は周りを見回し、さらに声を落とした。
「さ、店の真ん中で話すのは危険ですから、奥へ案内します」
袋の男は、店の奥にある戸を開けて、中へ入った。
私が部屋に入ると、男は戸を閉め、内側から鍵をかけた。
カチャ、という音に、一瞬、体がこわばった。
「急に肩を掴んで、申し訳ありませんでした」
男は、深々とお辞儀をした。
「い、いえ。変な空気になったところを助けてくださって、ありがとうございます。あの、お金まで払わせてしまって…」
男は、首を横に振って、向き直った。
「自己紹介をしていませんでしたね。私の名前は、オク・ギョングです。よろしくお願いします」
「あ…中村沙絵里?です」
「あなた、倭人なんですか?よく漢陽に入れましたね」
(倭人…歴史の授業で聞いた言葉だ。昔の日本人のことだっけ)
「あ、いやぁ、あの、その。これにはいろいろな事情がありまして…」
そして私は、前世で起きたことを余すことなく語った。
ギョングは、途中で一度も口を挟まなかった。
話し終えると、長い沈黙が落ちた。
「つまりあなたは、転生とやらが成功し、ここに来た、ということですね」
ギョングはしばらく考え込んでから、続けた。
「ここで倭語を話すのは、とても危険です」
「なぜですか?」
「今は、壬辰倭乱…あなたの国で言う、豊臣秀吉の朝鮮出兵から、およそ180年が経った頃です」
(文禄・慶長の役…教科書で習ったやつだ)
「ですが、倭人が朝鮮に入ることは、厳しく制限されています。倭人が入れるのは、釜山にある倭館だけです」
ギョングは、声を落とした。
「つまり、漢陽にいる倭人は、密偵と疑われてもおかしくありません」
「み、密偵!?」
「はい。なので、あなたは私のところにいたほうが良いでしょう。むやみに外に出ると危ないです」
ギョングは、少し口の端を上げた。
「それに、倭語が話せる人が身近にいれば、私にも利益がありますから」
「せっかくこの時代に来たのに、外に出るなっていうの!?」
「はい。ここで、みっちり朝鮮語を学んでもらいます。日常会話に困らなくなったら、出てもよいでしょう」
「Nooooo!!」
「あなたは一体、何語を話したんですかね?」
絶望して崩れ落ちた沙絵里と、冷静沈着なギョング。
二人の生活が、こうして幕を開けてしまった。
こんにちは、ヤサイローリングです。
言葉の壁が越えられました(?)が問題が発生してしまいました笑
次回は沙絵里を失ったドヒョン視点を描きます。
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それではまた次回。




