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第5話 朝鮮

沙絵里は転生薬を飲んだ。

私の意識は、どこかふわふわしたような、不思議な空間にいた。

キャンディーのような感じ。他に言いようがない。

このような空間にいるからか、私の思考もふわふわしているようだ。


どうして私はここにいるんだろう。

そういう疑問が頭に不意に浮かんだ。

よく回らない頭を限界まで回転させて考える。


そうか、薬を飲んだんだ。そして死んだんだろう。

死んだにしては、考えがはっきりしているけれど。

それにしても、どうして転生していないのだろう。


うーん。


あぁ、行き先を考えてなかった。

どんな世界がいいかな。

異世界転生ねぇ。

そういう物語がよく流行っていたけれど。

異世界は嫌だなぁ。やっぱ現実がいい。


となると、現代か、未来か、それとも過去という選択肢になる。

私は現代でモテなかったから、また現代に転生するのはまっぴらごめんだ。


未来はもっとハイテクな世界になってるんだろうな。

いやでも、地球温暖化が極度に進行しているんだろうな。

暑いのは嫌いだ。むしろ涼しかった過去に転生するのがちょうどいいかもしれない。


過去とはいえ、様々な選択肢がある。

ローマ帝国時代のエルサレムに行ってみてもいい。

江戸時代の北海道で、本場の鮭やカニを食べ歩くのもいい。

アメリカの西部開拓時代に行って、カウボーイにモテるのもいいかも。


でも、どれもどこか違う気がするのはなぜだろう。

どこかにぴったりハマるところがあるはずだ。

前世(?)の記憶を絞り出す。


韓国ドラマだ。


仕事から帰って、一人でティッシュ箱を抱えて、朝鮮王朝を舞台にしたドラマを観た夜は数えきれない。

どれも、私の大切な思い出だ。

私も、王様に溺愛されてみたいと、よく願ったものだ。


よし、私は韓国・朝鮮王朝時代に転生する。

そこで現代以上に愛されるのだ。

これ以上の幸せはない。


心にそう決意すると、世界は眩しい光に包まれた。

その光は直視できない。

私は目を閉じた。


あ、そういえば言葉どうするんだ。

韓国語はほとんど知らない。

ハングルの発音さえ出来ない。

…まあ、なんとかなるでしょ。


そして意識は遠のいていった。




◇




つん、とした匂いが私を包んだ。

どこか、あの薬のような匂いがした。

重いまぶたをゆっくりと開けた。

私は横になっていたようだ。

床からほのかな温もりを感じた。


体を起こして、自分を見た。

服は白く、現代のホテルにあるバスローブに似ていた。

次に周りを見た。

私は部屋の角にいて、反対側の角に戸があった。

上を見上げると天井の太い木の梁が見えた。

壁には小さくくり抜いただけの窓が一つあった。

窓からは暖かい日差しが差し込んでいた。


背伸びをして窓の外を見た。

黄色や赤の色とりどりの花々が咲いていた。

その上を二匹の蝶が優雅に飛んでいた。


その様子をじっと見ていると、戸が開く音がした。

振り向くとそこには一人の青年とおばあさんが立っていた。

(韓服(ハンボク)!ドラマで観たやつだ!)


「아(ア), 일어났니(イロナッニ)?」

白髪でしわの深いおばあさんはそう言いながら部屋に入ってきた。

韓国語がほとんど分からないので、何をどう伝えればいいものか。

覚えているのは、重臣たちの「송구하옵니다(ソングハオンミダ), 마마(ママ).」といったセリフ(申し訳ございません、王妃様、という意味だ)や、「サランヘヨ」くらいだ。

さっきの興奮はどこかへ飛んでいってしまった。


青年はずっと戸の前で突っ立って、珍しいものでも見るように私を見つめていた。


「자(チャ), 앉아(アンジャ). 앉아(アンジャ).」

おばあさんは座って、というように手を上下するジェスチャーをした。

確信はないけれど、とりあえず座った。


おばあさんは薬草らしきものを調合していた。

調合した薬草をしばらく煎じて、茶色のエキスを濾(こ)した。

そのエキスを小さな瓶に入れて、渡してくれた。


また薬か...

だがあのときの転生薬と違い、すごく健康的な匂いがした。


飲むのをためらっていると、強い視線を感じた。

まだあの青年は私を見つめている。

しかもずっと黙ったまま、戸の前で。


その視線にあの時のボスを連想してしまうが、おばあさんは急かさずに待ってくれている。

きっと親切な人なんだろう。

指が震えることはなかった。

私は薬を飲み干した。

体に薬がじんわりと温かく広がっていった。


飲んでから間もなく、体が軽くなった。

すごく動き回れそうな気がしてきた。


「よっしゃぁ」


そう言うとおばあさんと青年は目を丸くした。

「이(イ) 사람은(サラムン) 도대체(トデチェ) 뭔(ムォン) 말을(マルル) 하는(ハヌン) 게야(ゲヤ)?」

おばあさんは言った。

「잘(チャル) 모르겠네요(モルゲンネヨ).」

青年は冷静にそう言った。


思わず日本語が飛び出してしまった。

恥ずかしくて顔が赤くなった。

ここでは日本語が通じないのがはっきり分かった。

おぉ、神よ。どうせなら、言葉まで、この時代の人にしてくださればよかったのに…

こんにちは、ヤサイローリングです。

言葉という最初で最大の壁にぶつかってしまいましたが、どう切り抜けていくのかお楽しみに。

次回は閑話、おばあさんと青年視点で前世名・沙絵里が横になっているまでに至るのかを描きます。


続きが気になると思ってくれた方はブックマークと☆☆☆☆☆をお願いします。

また、この作品にご意見がありましたら、気軽に感想欄に。

リアクションでも、ぜひ感情を表現してください。

それではまた次回。

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