第15話 雲従街
インターネット接続状況が回復したので続きを投稿させて頂きました。
ご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした。
「まさか王様と話せるなんて」
私は夢を見ているかのようにそう言った。
「本当に畏れ多いことだよ」
ドヒョンが言った。
私たちは昌徳宮を出て、下町を歩いていた。
ドヒョンは、せっかくの外出だからということで雲従街という商店街に寄り道することにした。
「あのさ」
私は言った。
「うん」
ドヒョンは前を向きながらそう言った。
王様の前から下がってから、ドヒョンは、なぜか、私と目を合わせてくれない。
怒らせてしまったのかな。
勝手に立ち上がって、騒ぎを起こしたし。
「なんでもない」
私はそう言ってごまかした。
「そうか」
ドヒョンはまた、私を見なかった。
すると、目の前に人の波が現れた。
「人多いね!」
「これが普通だよ。まぁ今日は王様がいらっしゃるからいつもより少し多いかな」
「ちなみに、雲従街の名前の由来は、『雲のように人が集まる』ことからなんだ」
「へえ。まさにその通りだね」
瓦屋根の店が、通りの両側に、ずらりと並んでいる。
布、紙、魚。店ごとに、扱う品が違うようだ。
呼び込みの声が飛び交い、どこからか、美味しそうな匂いが、漂ってくる。
「何か食べたいものはあるか?」
ドヒョンは、やはり私を見ないまま、そう聞いた。
「そうだね、クッパとか食べたいな」
「それなら、あそこの店に行こう。隠れた名店なんだ」
ドヒョンは店を指さした。
その店には行列はなかった。
だが、ドヒョンが美味しいと言うならきっと美味しいんだろう。
店に入ると、店主と思われるおじさんが話しかけてきた。
「おぉドヒョン!酒屋のイケメンが言ってた彼女とはその子のことかい?なかなかべっぴんさんだな!」
私は顔を赤らめた。
その様子を見たドヒョンが急いで言い訳した。
「俺は付き合ってねぇよ!」
そんなに全力で否定しなくても。まあ、事実だけど。
「女の前で、そんな言い方があるか!思いやりってもんが、ねえのか!」
「もう黙ってくれ、腹が減ってるんだ」
「分かった、酒屋のイケメンは黙らせておく。安心しろ」
そうして私たちはやっと落ち着いて席につくことができた。
「それじゃあお二人さん、注文は?」
「クッパ2つで」
ドヒョンが言った。
「毎度」
そう言って店主は忙しく手を動かし始めた。
私たちは同時にため息をついた。
「息はぴったりだな」
店主が小さな声でそう言っているのが聞こえた。
ドヒョンもそれが聞こえたらしく、こう言った。
「今日は大変だったんだよ」
「へぇ、何があったんだ」
「王様と出くわしたんだ。しかも刺客の襲撃にあったんだ」
「あぁ、話は聞いた」
客から聞いたのだろうか。
情報収集が上手な店主なんだろう。
「そして、この子が刺客の存在を警告したんだ」
「…は?それで?」
「王様から褒美をもらうことに…」
私は居心地が悪くて、肩を縮めた。
店主の手が、止まった。
持っていた玉じゃくしが、鍋の中に、ぽちゃんと落ちた。
「…お前ら、そんな大事な話を、クッパ屋で、さらっと言うなよ」
しばらく沈黙が流れた。
すると、鼻にクッパの美味しそうな匂いが入ってきた。
お腹が、ぐぅ、と音を立てた。
恥ずかしくて、耳まで熱くなった。
「お腹が減ることは、恥ずかしいことじゃない。誰でも減るものだ」
店主は急に真面目なことを言ってきた。
おそらく、さっきの会話のことをごまかしたいんだろう。
「はい、クッパ2つ」
そう言って店主がクッパを机に置いた。
思わず匙と箸を握る手に力が入る。
「いただきます」
ドラマで見た世界で、初めて食べる、本物の味に、感動した。
◇
店を出ると、すっかり日が西に傾いていた。
「帰らなきゃね」
「そうだな」
私たちは雲従街を後にした。
◇
私は納屋の戸を開けた。
だが、中には誰もいなかった。
「まだギョングは帰ってないみたいだね」
「まぁいいだろ。俺はかまどの火を焚きに行ってくる」
「いってらっしゃい」
私は、藁の上に寝転んだ。
これはドヒョンの癖だ。
藁の上は、意外と、気持ちよかった。
だが、ギョングは、いつまで経っても、戻らない。
窓の外は、すっかり、暗くなっていた。
胸の奥が、少しだけ。
ほんの少しだけど、ざわついた。
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