第16話 騒がしい下町
今回は酒屋のおじさん視点で、ウンソたちが昌徳宮に行った日を描きます。
俺の名前は金石鉄。
雲従街で酒屋を切り盛りして、もう20年。
今年で、45歳になる。
うちの酒屋は、雲のように人が集まる。
まさに、小さな雲従街だ。
そんな酒屋の一番のいいところは、俺の人柄だ。
俺はどんな客にも気さくに話しかける。
それでも嫌がられないのは、俺が「イケメン」を自称しているからだ。
そのおかげで、笑い飛ばせる相手だと、思ってもらえる。
俺は小さい頃から「名前も顔も不細工」と言われ続けた。
彼女ができるだなんて、夢のまた夢で、それは今も同じだ。
一生独身だと、覚悟している。
だったら、せめて名乗りくらいは、夢を見てもいいだろう。
それが、「自称イケメン」の始まりだ。
俺は、雲従街のおじさん情報網でも、指折りの情報通だ。
すべての情報は、クッパ屋のおじさんの元に集まる。
一人が情報を独占しているのに、誰も文句を言わないのは、情報と引き換えに、クッパを無料で出してくれるからだ。
だから、皆こぞって、情報を集めては、報告しに行く。
俺もその一人だ。
そんな裏の顔を隠して、今日も接客だ。
頭のはちまきを引き締めて、外へ出た。
すると、平服の男たちが席に座って開店を待っていた。
だが、客だから追い払うわけにもいかない。
「どうも、注文はお決まりかい?」
「濁酒を25杯、人数分だ」
「他の料理はいるか?」
「いや、いらない」
「分かった、すぐに出す」
朝から大人数で酒だなんて、なんて連中だ。
景気づけか?
ここ数日、クッパ屋のおじさんの元に集まる噂は、どれも、同じ一点に、行き着いていた。
雲従街の裏手に、夜な夜な、見慣れない連中が、集まっているらしい。
もしかしたら、噂のあいつらか。
これはクッパ、いただきだな。
俺はすぐに25杯の濁酒を出し、隣の布店へ駆けていった。
そこには、俺と同じおじさん情報網の一員、スンホがいる。
スンホは、開店の準備をしていた。
「おはよう、スンホ」
「おはよう、イケメン。どうしたんだ」
「情報だよ。うちは開店したばかりで手が離せないから、クッパ屋に代わりに伝えてくれ。手柄は、俺のものだぞ。ちゃんと、俺の名前を出せよ」
「分かった。報酬は」
「酒に決まってるだろ」
俺たちはニヤリと笑った。
「それじゃあ、よろしく」
そう言って俺は店へ戻り、スンホはクッパ屋へ向かった。
◇
昼になって、平服の男たちも去り、店も賑やかになってきた。
客の会話に耳を傾けていると、今日は王様の行幸があることを知った。
それなら、王様側についている私兵が、朝に来店したのかもしれないな。
俺はそう推測した。
すると、店の手伝いをお願いしていたおじさん情報網の一員、ゴムギュがやって来た。
「やぁゴムギュ、店を2時間ほどよろしく頼む」
「あぁ、任せとけ。イケメンはクッパ屋で楽しんでこいよ」
「もちろんだ」
俺はゴムギュに店を任せ、クッパ屋へ向かった。
◇
俺はクッパ屋に入った。
クッパ屋では、情報網の頭、デヒョンが待っていた。
ちなみに、デヒョンは情報網の頭なので、彼の名前を知る人はごく一部だ。
俺はかなり信頼されていたので、数年前に名前を教えてもらった。
おじさん情報網の中でも、彼の名前を知らない人のほうが多い。
「お待たせ」
そう言って俺は席についた。
「待っていた」
デヒョンはそう言いながら、手早くクッパを作っている。
「はい、クッパ1つ」
そう言ってデヒョンはクッパを机に置いた。
俺は匙と箸を手に取り、クッパを食べ始めた。
しばらくして、デヒョンが話し始めた。
「イケメン、なかなかやったじゃないか」
「イケメンとして、当然だ」
「そういえば、お前は刺客の話を聞いたか」
デヒョンが聞いた。
「刺客?そんな話は聞いてないな」
「王様を刺客が急襲したらしい。それで、平服の集団が事態を収めたらしい」
「つまり、俺の店に来た奴らが?」
「その可能性が高いと思うぞ」
「本当かよ…」
そうしている間に、俺はクッパを平らげた。
「クッパとその情報、ありがとな」
そう言いながら俺は席を立った。
「俺がお前を信頼してるからだ、おまけだぞ」
「あぁ。それじゃあまた」
そう言って俺は店を出た。
「またのご来店をお待ちしております」
デヒョンはそう言って見送った。
◇
夜になり、布店のスンホが酒屋にやってきた。
「酒だぞ」
眠そうに外に座る俺に、スンホが話しかけてきた。
「あぁ、そうだな」
ふらふらしながら、酒を取りに中へ入った。
店内には客はいなかった。
もう日が暮れてから数時間は経つ。
いないのは当然だ。
俺は眠気覚ましにちょうどよさそうな酒を選んで、外に出た。
「イケメン、だいぶ眠そうだな。酒は明日に延期するか?」
「いや、酒なんかに延期なんてものはない」
そう言いながら酒を杯に注いだ。
「さぁ、乾杯しよう」
俺とスンホは杯を手に取った。
「二人の友情に、乾杯」
杯が交わされる「チン」という音が星の輝く空に響いた。
俺たちは酒を飲み干した。
「おかわりだな」
スンホに言われ俺は徳利を手に取った。
「俺が注ぎますよ」
スンホが言った。
「礼儀なんて気にするな」
そう言ってスンホの杯に酒を注ごうとした瞬間、遠くから走る足音が聞こえてきた。
俺たちは音の聞こえる方へ視線を向けた。
しばらくして、やっと姿が見えた。
それは、ギョングだった。
スンホが小声で話しかけてきた。
「あれって、裏取引で有名な商人、ギョングですよね」
「そうだな、話しかけてみるか?」
「さすがにまずいですよ、あの人には常に護衛がついているとかいう噂もありますから」
「そうだな、間違って殺されたらせっかくの酒が台無しだ」
そんな会話をしている間に、ギョングは再び闇の中へ消えていった。
ただ、あのギョングは、いつものような冷徹な雰囲気はしなかった。
むしろ、何かに追われているかのように…
だが、そんな考えも、酒と美しい星空に消えていった。
しばらくしてお開きになり、俺たちは解散した。
今日は、不思議な一日だったな。
そうして俺のある一日はおわりを迎えた。
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