第14話 刺客
王様の行列がやってくる。
「王様のお成り」
私は王様を見たくて、顔を上げていた。
すると、ドヒョンが私の頭を伏せさせた。
私は小さな声でこう言った。
「ちょっと!私、王様を拝見したいんだけど!」
「だめだ!そんなことは失礼極まりない行為だぞ!」
その会話は大吹打と太鼓の音に徐々に遮られていった。
お互いの声が聞こえなくなってしまったので、私はおとなしく頭を伏せていた。
でも。
私は頭を少し上げて、周りを見た。
目の前を通っているのはまだ行列の先頭で、王様はまだ見えなかった。
すると、ある一人の人物が目に入った。
建物の影に隠れる黒装束。
行列の方を睨んで、待ち構えているように見える。
しかも、頭を下げていない。
角の向こうから、王様の輿が、姿を現した。
これはまずい。
周りの人は、全員、頭を下げているから、気づいているのは、自分だけ。
立ち上がれば、不敬になる。
でも、黙っていたら、王様が危ない。
私は思わず立ち上がった。
ドヒョンは目を丸くした。
「おいウンソ!」
「危ない!あそこに刺客が!」
声が裏返った。
一斉に、視線が私に刺さる。
「何者だ!」
槍の穂先が、喉元に――
「待ってください!彼女は違う!」
ドヒョンが、私の前に飛び出した。
その瞬間。
黒い影が、建物の影から跳んだ。
光。
キィン!
火花。悲鳴。
「刺客だ!」
「殿下をお守りしろ!」
刃と刃がぶつかる音が、四方から降ってくる。
ザッ、ザッ、ザッ!
足音。怒号。倒れる誰か。
ドラマで見たやつだ。
でも、画面越しじゃない。
「伏せろ!」
ドヒョンの腕が、私を引き寄せた。
すると、王様の前方から、平服の男たちが駆けつけてきた。
官兵とは、服装が違う。腰に刀を差している。
「損害は、最小限に抑えろ!」
先頭の男が叫んだ。
「うぉぉぉ!」
キィン!
黒装束が、次々と倒れていく。
「撤退だ!」
残党は、裏路地へ消えていった。
「追え」
隊長らしい男がそう言うと、男たちは、黒装束を追って、駆けていった。
静けさが、戻った。
私は、ドヒョンの腕の中で、まだ、震えていた。
「…大丈夫か」
声が、近い。
顔を上げると、ドヒョンの顔が、りんごのように、真っ赤だった。
その時、輿の簾の向こうから、低い声が、響いた。
「その者を、連れてこい」
私はしばらく、「その者」が誰を指しているのか分からなかった。
だが、王様の護衛がじっと私を見ているのに気づき、私のことだと察した。
ドヒョンの手が、一瞬、私の袖を掴んだ。
「ウンソ…」
小さな声が、震えていた。
私は、地面に膝をついたまま、道の中央へ進み出た。
輿の簾が、静かに上がり、王様が、姿を現した。
「怖がらなくてよい。面を上げよ」
思ったより、ずっと穏やかな声だった。
私は、恐る恐る、顔を上げた。
赤い衣の胸に、金色の龍。ドラマで見た、あの衣だ。
想像よりずっと若い。
切れ長の目が、柔らかく、細められていた。
「怪我はないか」
「は、はい。殿下」
「それは、よかった。そなたの声がなければ、余は、今ごろ、どうなっていたか分からぬ」
王様は、小さく笑った。
「皆が頭を下げる中、そなた一人だけが、顔を上げて、立ち上がったそうだな」
「は、はい…」
「なぜ、顔を上げていたのだ」
「…その、どうしても、殿下のお姿を、拝見したくて」
「ははは。正直な娘だ」
王様は、本当に、楽しそうに、笑った。
「名は何という」
「ウンソと申します。パク・ウンソです」
「ウンソか。覚えておこう」
王様の視線が、ふと、平服の男たちが去った方角へ、流れた。
「…今日は、思わぬ客が、多い日だ」
そう呟いて、また、私に向き直る。
「後ろの者も、顔を上げてよい。礼を言う」
「も、もったいないお言葉です」
ドヒョンの声が、裏返っていた。
「褒美は、後日、遣わす。また会おう」
簾が、静かに下りた。
行列が、再び、動き出す。
私は、しばらく、動けなかった。
ドラマで見た王様みたいに、優しい人だった。
…いや、これは、現実だ。
こんにちは、ヤサイローリングです。
なんと3日連続投稿しました。
本来であれば執筆時間はあまり取れないのですが、今日はいきなり時間が空いたので執筆をすることができました。
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