第11話 賭け場
ドヒョンとギョングは賭けで決着をつける。
薄暗い賭け場には張り詰めた空気が流れていた。
窓は閉め切られ、空気をいっそう重くしていた。
彼女も、固唾を呑んで見守っている。
唯一その空気に馴染めていないのは、立会人として連行してきた酒屋のおじさんだけだ。
準備を終えたギョングが、ルールの説明を始めた。
「今回の勝負は『二枚勝負』で決着をつけます」
「賭けの内容は、勝者は、彼女を引き取り、敗者は、戸の弁償を負担する、で良いですね」
俺は頷いた。
すると、ギョングはたくさんの細長い札を机に出した。
「1〜10の数字札がそれぞれ4枚、計40枚あります。10は0として数えます」
俺は頷いた。
「お互い2枚ずつ引きます。1枚は表にして相手に見せ、もう1枚は自分だけが見ます」
「札を見たら、同時に『勝負』か『降り』を宣言します。両者が勝負なら札を開き、2枚の合計の一の位が大きいほうの勝ちです」
「各自、銀6枚を持ちます。毎回、場に1枚ずつ出し、『勝負』ならさらに1枚追加します。降りれば銀1枚、勝負して負ければ銀2枚を失います」
「これを3回行い、最後に銀が多いほうの勝ちです。同数なら延長1回戦です」
「降りた側の札も、立会人が確認し、公開します。不正防止のためです。不正したらその場で失格です」
彼女以外の一同が頷いた。
「それでは場に1枚出しましょう」
そう言ってギョングは銀1枚を場に出した。
俺はギョングをしっかり見据えながら、銀1枚を場に置いた。
「それでは、札を引きましょう」
ギョングは2枚、札を引いた。
俺も2枚引いた。
お互い、1枚を表に出した。
表にした札は、俺が3、ギョングが2。
俺の伏せ札は4。合計は7だ。悪くない。
これは勝てる。
「「勝負」」
お互いに銀1枚を場に出した。
ギョングも勝負と来たか。
ギョングは2なので、足し算してもあまり高くならないだろう。
なのに、自信があるのか。
「それでは、開札」
ギョングの言葉と同時に、伏せ札を表に返した。
俺は4、ギョングは7。
つまり、合計は俺が7、ギョングが9なので…
「私の勝ちですね」
ギョングは俺が場に出した2枚の銀を取った。
4対8。
すでに2倍の差ができてしまった。
「それでは2回戦へ行きましょう」
ギョングは言った。
お互い札を酒屋のおじさんに渡し、場からまた2枚引いた。
俺の札は5と8だった。
俺は牽制として、5を場に出した。
するとギョングも5を出した。
同じ…
これで5は3枚出た。
勝負は伏せ札次第だ。
◇
私は二人のゲームの様子を見ていた。
ルールは全く理解できないので、ただ見ていることしかできない。
自分の無力感をひしひしと感じながらゲームを見ていた。
ギョングは扇子を持って優雅に扇いでいた。
どうしたらあんなに余裕ぶっていられるのだろうか。
すると急に扇子をパチン!と閉めた。
ん?
おかしいな。
ギョングの顔や前後の仕草から、どこか良からぬことをしているように感じられた。
これが人事部の勘というやつだろうか。
ギョングが何か不正を働いていたらドヒョンにとって不利だ。
私は必死にジェスチャーでドヒョンに伝えた。
◇
勝負か降りかを決めていると、彼女が急に俺の方を向いてジタバタし始めた。
か、か、かわいい。
だめだ、顔が緩む。
真顔、真顔。
応援してくれているのか。
ならば、弱い手でも、ここは押すしかない。
「降り」
「勝負」
二人の声が同時に響いた。
「降り」はギョング、「勝負」は俺の声だ。
「それでは開札」
酒屋のおじさんの号令で伏せ札を表に返した。
俺は8、ギョングは5。
つまり、合計は13と10。
一の位は3と0なので…
「よっしゃ勝った!」
俺はギョングから1枚、銀を取った。
5対7。
逆転の余地は十分ある。
「それでは3回戦へ行きましょう」
ギョングが言った。
2枚の札を取る。
俺は5と2。合計は7だ。
「それでは、開札」
酒屋のおじさんが号令し、伏せ札を表に返した。
◇
どうやら3回戦(?)へいったようだ。
どちらにも緊張が走っている。
ギョングが2枚の札を取ると、彼は顔を激しくしかめた。
つまり、ひどい札が出たんだろう。
すると、ギョングの袖が不自然に動いた。
さっきは不正ではなかったが、これは確信した。
また私はドヒョンにジェスチャーした。
◇
俺は5を、ギョングも5を出した。
すると、彼女がまた激しくジタバタしている。
また応援してくれているのか。
そう思いながら、場に向き直った。
すると、ある違和感に気づいた。
「おいおじさん、お前の持ってる5の札の数、何枚だ」
「俺はおじさんじゃなくてイケメンだって言ってるだろ!で、5の札の枚数だって?1、2、3。3枚だぞ。それがどうした?」
「同じ数の札は4枚なんだろ?なのに場には2枚の5の札があるぞ。合計5枚ということになる」
全員の視線がギョングに向いた。
「5枚目の5の札はどこから出てきた」
そうギョングに問う。
ギョングはしばらく俺を睨み、はぁ、とため息をついたあと、袖に手を突っ込んだ。
すると、その手にたくさんの札が握られていた。
皆が驚嘆した。
「お前は、袖に予備の札を入れて不正していたんだな。お前は失格だ」
酒屋のおじさんが冷静にそう言った。
「なので、この賭けはドヒョンの勝利だ」
「うぉおおおおお!やっったぁぁぁ!!」
俺は思わずそう叫んだ。
そうして激動の一日が終わった…はずだった。
◇
「…で、どうして俺の納屋にお前がいるんだよ、ギョング」
「ドヒョンさんはお気づきかもしれませんが、沙絵里は倭語しか話せないのです。私が頼りなのですよ」
「あの子の名前、サエリっていうのか!?」
「とりあえず、朝鮮語を教えようにもあなたは倭語が話せないので無理なのです。だから一日中私がいる必要があります」
「本気かよ、俺の納屋に住むっていうのか!?」
「そうです。戸の弁償は払います。その代わり、沙絵里さんの授業料をいただきます。商人の鉄則その2、損は最小限に、です」
「うわ、賭けに勝ったのに負けた気がする」
「でもさ、お前店持ってるだろ。そっちをしなくて大丈夫なのかよ」
「問題ありません。私にもしものことが起きたときのために、店員にはきちんと教育しています。店員だけでも十分やっていけますよ」
「そこまでする必要あるか?」
「商人の鉄則その1、最悪の事態を考えて行動すること、です」
「また鉄則に負けた」
こんにちは、ヤサイローリングです。
なんとか1日2話連続投稿を乗り切りました。
次回からは3日以内投稿に戻ります。
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