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無限の大地と黒いエイ  作者: きーち
無限の大地と変わらないもの変わるもの
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⑤ 前途は突き進むもの

「俺は前回のブラックテイル号でも船員として働いてましたが、ダァルフの遺跡についての探索には不参加でした。なのでこれがそうなのかって聞かれると、なんとも言えないのですが……」

「前回の場合、最低限の探索しか出来なかったからな。それもブラック・ピラーの発生のせいで、その時発見した遺跡の大部分は破壊されてしまった」

 ゴーツ整備班長と艦長であるディンスレイの意見が一致した結果、発見した遺跡の探索を続行している最中。

 ディンスレイ達はまず、遺跡を外部からそれを始めていた。

 真っ先に調べた防壁部分については、相当な経年が見て取れたものの、今にも崩れそうという印象は見えなかった。植物に侵食されている部分はあれど、まだそれは防壁として機能している。だからこそ灰色獣も入って来ない……のか?

「聞き捨てですが、前回の遺跡の場合、ブラック・ピラーの影響以前に、かなり崩壊しやすい状態にあったとか」

「ああ。それこそ足の踏み場に困ると言った状態でな。それと比べて……ここは遥かに頑丈そうに見える」

 と、遺跡の一部に触れる。外を囲む防壁部分では無く、内側の中庭らしき空間を挟んで存在する、塔の様な建造物に。

 ざらりとした感触。砂を固めた様な感覚があったが、手の平を見れば、汚れは付いたものの、建材の一部でも張り付いた様子は無かった。欠けてたり崩れたりしていないという事だ。

「ダァルフの遺跡の近くにあるだけで、別の文化圏か種族かの建造物だったり?」

「うーむ。印象としては彼らの遺跡らしくはあるんだ。見ろ、恐らくこれが出入口となる門だろう。立派だが、凝った意匠と比較すれば小さい印象は無いか? 防壁の方もそうだ。木の助けを借りたとは言え、なんとか登る事が出来た。つまり……全体的に低い気がする」

「ダァルフ自身、身長が低め……でしたよね?」

「ブラックテイル号での旅に参加していたのだから、君も見たな? その通りだ。ダァルフという種族は背が低く、代わりに骨太な身体を持っている。文化的な見地として、建造物とはその種族の肉体の機能性に合わせて発展していくわけで……背が低く骨太という印象は、この建造物にも現れている様に見える」

 この遺跡に、ダァルフの影を見てしまう。それはディンスレイ自身の願望に寄るものだけでは無いだろう。

 また、建造物自体の経年具合も、前回見た物と似てはいるのだ。位置的にも近い場所にあるのだから、ダァルフとは無関係であるなどと安易には言えない

「……同じ種族が、同じ時期に建てたものだとしたら……用途の違いが、その耐久性に現れてるのかもですね。以前の遺跡は、言ってみれば彼らの生活圏内で、手もそこまで入って居ない。一方でここは……」

 ゴーツ整備班長の方もまた、遺跡の壁を撫でていた。機械整備の技術や知識が、どれほどこの遺跡への観察眼に関わるかは知らない。だが、彼の頭は働き始めて居そうだった。

 試しに、その頭の中について聞いてみる。

「ここは……なんだと思う?」

「あくまで俺の感想ですよ?」

「良いさ。私だって、今の時点で出て来る言葉は感想でしかない」

「じゃあ……ここは施設に見えるって言うか……」

「何のだ?」

「笑いません?」

「だから、私の方とて笑われそうな言葉を吐く側だからな」

 なので、ただ聞く。受け入れる体勢を取る。疑ったり冗談だろと話半分で、意見を聞ける状況でも無かった。

「じゃあ言いますが……軍事施設に見えます」

「むしろ笑えんだろ、それは」

「すみません」

 ただ、言われてしまえば、確かにその手の重要施設に思えて来る。

 ある種の基地は兎に角頑丈に出来ているものだし、長持ちだってするものだ。敵に攻撃され、修繕する間も無いまま籠城などを決め込む機能性の様なものが、軍事施設には要求されがちだからである。

「安易に決めて掛かるのも問題かもしれんが……軍関係の施設と言うのなら、あれも兎角頑丈で長持ちする様に作られているだろう? 火器類の倉庫だ」

「そっちも笑えない話っすね」

「すまなくはある」

 ただまあ、否定も出来ない話だった。

 ブラック・ピラーにより崩壊した側が、ダァルフ達が生活していた街の遺跡なのだとしたら、この遺跡の位置は、街より離れた郊外という事になるだろう。

 そんな場所に危険物を置くというはままあるものだ。出来れば離しておきたいという素直な生存本能と、放置するのも怖いから管理出来る範囲にはあって欲しいという切実な願いがそこにはある。

 この遺跡もまた、そういう感情の元に作られたのか……。

「どうする? 入ってみるか?」

「答える前に、艦長の意見を聞いてみたいですが」

「勿論、入ってみたい」

「分かってはいたんだ。分かっては」

 ゴーツ整備班長に頭を掻かれる。こういう、まったく意識していない時の仕草こそ、前整備班長に似ているのではないか?

 ならば師と同じ様に、ここでの撤退を望んで来るか……。

「俺も……ここで退散って事になると、些か尻の座りが悪いですね」

「好奇心の度合いは、前整備班長には似なかったか」

「ここまで来たらいっそって言う、流れに任せちまう感情ですから、むしろ似てないんじゃないですか?」

 何にせよ、今後の整備班長判断が楽しみになってきた。なかなか読めなくて面白いのではないか?

「なんすかその目は。で、入るんですか。入らないんですか」

「勿論、この場で船内幹部二人の意見が合致したんだ。入るべきだろう。それが集団としての決定というものだよ、整備班長」

「なんとなく分かって来たと言うか、むしろこれまで分かってなかったんだなーって気分です。艦長の事を」

 当たり前だ。早々簡単に理解されてたまるものか。世の中は謎だらけで、だからこそそれを解き明かすのが楽しいのではないか。

 そうして今、この一歩を踏み出す事で、謎の一つが解明―――

「整備班長、少し良いか」

「何を言いたいかは、これに関しちゃ分かりますよ」

「それでも言うが、どうやって開ける? この扉を」

 黄土色の塔には勿論、出入りするための扉があるわけだが、それが今は閉じている。開けっ放しにしていない事を評価するべきなのか、そこは後世の探検家のために開いておいて欲しかったと言うべきか。

 何にせよ、ディンスレイ達の第一歩は、目の前の扉に寄って閉じられていた。

「結構、仰々しい見た目はしてるんだよな。ダァルフの物だと仮定して、俺達の視点からも大きいって事は、ダァルフ達にとってはもっと大きな物として見えたわけですよね?」

「開くのにも苦労しそうだ。それとも、軽く開けられる機構でもあるのか」

「あるとは思いますけど、俺達は利用できそうに無いなぁ、これは」

 確かに。時代を越えたとは言え、ディンスレイ達は不法侵入者だ。恭しく出迎えてくれるものでも無いだろう。

「しかし、ならどうする? ここで足止めとなると、さっき心を決めた意味も無くなってしまうが……」

「異邦の地の森の中、周囲には狂暴な獣が徘徊していて、太古からの遺跡は扉を閉ざしている……禄でも無いっすね、この状況は」

「ただ、味方がまったくいないわけではあるまい」

「ここにいる、俺と艦長同士がってやつですか?」

「それも味方と言えるが、それより強力で偉大なやつが一つあるだろう」

「……時間ですか」

 大きく、重そうで、頑丈そうでもある扉を、ゴーツ整備班長は探り続けていたが、その手が一旦止まる。何かに気付いたらしい。

「あったか?」

「はい。幾ら頑丈に作ってあると言っても、それなりに限界は来ているみたいですよ」

 ゴーツ整備班長が、扉の一部をコンコンと叩く。

 金属質の音であるが、一方で軽い。良く見ればそこに罅が入っており、音の質からして、中身も劣化していると思われる。

 幾ら用途が違えど、片方の遺跡が朽ちていた以上、こちらとてその可能性はあった。

「やはり、時間は我々の味方に付いてくれている。経年劣化を味方にするというのは些か不安ではあるがね」

「中に入って、天井や床が崩れたりとかになれば、時間は裏切り者になりますね、その場合」

 そこは仕方あるまい。時間という奴は基本的に移り気だ。ディンスレイにとっては昨今、敵に回りがちであるが、それでも嫌いにはなれない。なったところで意味も無い。

「何にせよ、今は我々側に付いてくれている以上、助けを借りよう。一つやるか」

 ディンスレイは持って来ている荷物を探る。そうして、荷物袋の中からごつごつとした石に見え、一方で比較的丸くはあるそれを取り出す。

「魔法石……」

「なんだ、嫌いか? これが?」

「好きって人間も居ないと思うんですがね」

 居るには居るだろう。兵隊が使う武器の類というのはそういうものだ。マニアックに、専門的な知識を語り散らかす層というのは結構な数がいる。

 そんな層がこの魔法石がなんであるかを説明する場合、対象を破壊するための道具とでも言うだろうか。

 背中に背負い直している魔法杖とも、技術的な繋がりがあるなんて話だって始めるかもしれない。

 その仕組みはと言えば単純だ。魔法杖がその先端から衝撃波を前方へ発する道具なのに対して、魔法石は石そのものが全方向に衝撃波を発させるもの。

 その衝撃波の威力は石そのものを自壊させる程のもので、人間程度ならば近くに居たら簡単に吹き飛ばされるし、もっと近くなら致命傷にもなるだろう。そういう武器である。

「護身用として持って来たもののはずですが……」

「それだけじゃないぞ? 邪魔な障害物だって破壊出来る。長期間の飛空艦の旅だからな。持ち込む荷物には幾つもの用途が与えられているのさ」

 そう言ってディンスレイは魔法石をゴーツ整備班長へと渡した。ここからは彼の仕事になる。

「遺跡を壊すっていうのは、俺、あまり良い印象持てないですがね」

「私だってそうだ。だからやるかと覚悟を決めているわけだな。で、どうだ? 出来そうか」

「やってみますよ。とりあえずは」

 このとりあえずやってみようが、ゴーツ整備班長の特徴かもしれない。これが前任者のガニの場合は、出来ない、危ないから止めとけになるわけだ。

(ここが今後のブラックテイルⅡにどう影響をもたらすか。これに関しては心配じゃあなく期待だろうな。手際も良い)

 ゴーツ整備班長が手持ちの工具で、扉に魔法石を取り付けていくのを眺めながら考える。

 恐らく、魔法石の衝撃が遺跡の扉へと効率良く伝わる配置や仕組みを、その場で構築しているのだろう。

 どこまでのものになるかは予想出来ないが、それでも作業自体は早々に終わるはずだ。それくらいに手早い。

 元々がガニ・ゼインに鍛えられた整備班員なのだから、それくらいは出来るし、なんならそういう字面の印象よりも、現実ではなお早かった。

 技術や知識的な分野においては、そもそもとっくに船内幹部が出来る人間だったわけである。

 そうして精神的な部分については、この遺跡にやってきてから身に付けつつある。まさに後は期待しておくのが正しい。

 結果はすぐにでもやってくるだろうし。

「終わりました。離れててください。今から十秒後に発動します」

「ちょっと速すぎやしないか!」

 慌てて扉から距離を置く。魔法石は、発動の際に近くに居ると命が無い代物である。さっき頭の中でも確認したばかりだ。

 走り、防御体勢を取るディンスレイに対して、ゴーツ整備班長も距離を取っては居たが、その立ち位置はディンスレイより扉に近く、またしっかり扉の方を見据えていた。

 まさに十秒の後、魔法石に寄る衝撃波が発生し、扉が叩かれ、石が自壊する音が耳に届く。

 それを聞いた瞬間、ディンスレイはゴーツ整備班長の余裕がどういう類のものであるかに気付く事になる。

「魔法石の衝撃波に指向性なんてものを持たせられるものなのか?」

 ディンスレイ側に届く魔法石の衝撃波は、ディンスレイの予想より弱く、一方で衝撃波がもろにぶつかったであろう閉ざされた扉は、想像以上に大きく揺さぶられていた。

 まるで、魔法石の力がすべてそちらに向かったが如く。

「原理としては魔法杖のそれと変わらないですから。一方向にまとめてしまえば、そっちへの破壊効率が良いし、何より危なく無い。でしょう?」

「なるほどな……遺跡への破壊も最小限で済む……わけか?」

「そうする様に努めましたけど、それはこれからってところ……うん。ですね。こんなもんです」

 ゴーツ整備班長の説明の際中に、目の前の扉が崩れ始めた。すべてが崩壊したというより、既に入った罅がさらに広がり、穴となったという外観だ。

 開いた穴については、丁度良く、もしくは狙ってか、人一人なら潜る事が出来る大きさがあった。結果は上等と言えるだろう。

「良くやってくれた……と言えば良いかな? この場合は」

「素直にそう言ってくださいよ。鼻、高くする用意はあるんで」

 調子に乗った返しであったが、これが恐らく、ゴーツ整備班長らしさだ。口元の髭なんかよりずっと似合っている。

「事前説明を端的にしてくれていたら、実際素直に言えたわけだが……ここで足を止めずに済んだのは、間違いなく君のおかげだ。とりあず今は感謝しておこう」

「今はって、次は違うみたいな言い方をしますね」

「次については、どうなるか分からんからな。この穴を潜った先にあるものについて、この発見は君のおかげだぞと言う準備は出来ているがね」

「それは……今の時点だと、誉め言葉になるか、罵倒になるか。まだ分からない言葉っすね」

 その通りだとも。

 ディンスレイは明かりを用意して、次に遺跡の内部へと入っていく。

 中にあるものが素晴らしいものであれば、ゴーツ整備班長の言う通り、発する言葉は誉め言葉になるだろう。

 一方で最悪なものであれば、その言葉は罵倒に……はならない。

 きっとその場合、言葉は悲鳴になる。もしくは、単なる叫びになるだろうから。






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