メイド様、リベンジマッチを受ける(3)
剣の腕は私の方が上だ。というよりもラウロ先輩の習っていた騎士の剣と言うのは1対1を重視した剣術ではない。もちろん1対1で戦うことが出来ないと言うわけではないけれどね。
騎士が戦う時、その大部分は部隊単位で動くことになる。その時に必要なのは突出した剣の腕ではなく一糸乱れぬ隊形と部隊が一つの意思を持って動くことのできるような集団としての剣術なのだ。だからこそ騎士は集団戦で類まれなる強さを誇るのだ。
だからラウロ先輩と私を比べた場合、冒険者の先生に剣を習った私の方が個人の剣の腕は立つ。立つのだが・・・
「腕を上げましたね。先輩。」
「ああ、怖い年下の先輩がいるんでな。」
「誰のことでしょう?」
「鏡を見ることをお勧めするぞ。」
ラウロ先輩の鋭い突きを内側から半円を描くように剣を振るい弾いていく。ラウロ先輩は私を見て笑っている。絶対にこれは本心だ。失礼な!
ラウロ先輩の腕は知っていた。対抗戦の時のころよりも明らかに動きは滑らかだし、剣筋も鋭くなっている。何より森の中で普通に剣を使えていると言うこと自体が特筆すべきことなのだ。確かに突きが主体になっているが、油断すると足元へと薙ぎ払いなど、こちらの動きを止めるような一撃を振るってくる。
そして・・・
キンッ!
私の剣をラウロ先輩の盾が弾く。先輩の盾は50センチほどの小さな片手盾だ。騎士として重要な守りの技術をラウロ先輩は磨いてきていた。全力ではないとはいえ本気の私の剣を止めるほどに。
状況が少し膠着してきたのでバックステップして距離を取る。ラウロ先輩はその場で私を注意深く見ながら攻撃も防御も出来る体勢でこちらを見ていた。
「どうだ、少しは歯ごたえが出てきたか?」
「はい。私としては罠で仕留める気でしたが1撃しか与えられませんでしたし、本当に成長されましたね。」
私の言葉に先輩が喜んでいいのか怒っていいのかわからないような微妙な顔をした。あれっ、何かおかしなこと言ったかな?
「年下の女の子に成長したと言われると何と言っていいのかわからないな。」
「ああ、それもそうですね。すみませんでした。」
指摘されて気づいたが、かなり失礼な言葉だ。先輩には1度勝っていると言うことが私の心の中で驕りのような物を生んでしまったかもしれない。反省しないと。後で正式に謝ろう。
そんなことを考えていると、ラウロ先輩が剣をすっ、と正面に構える。そして私の方を見て真剣な表情をする。
「アンジェラ。俺は騎士になる。騎士とは人々を守るものだ。もちろんアンジェラのようなメイドも含まれる。だからこそ俺はお前を超える。いや、超えてみせる。」
それは独白だった。私に言っているわけではない。ラウロ先輩が自分自身に言い聞かせているように私には思えた。その覚悟はすごいものだ。先輩は人々すべてを守ろうとしている。私にはたぶん真似できない。私にできるのはご主人様を、そしてその周りにいる人を守ることくらいだ。
だからこそ先輩の言葉は私にはまぶしく感じた。
でも・・・
「しかしまだその時ではないようです。」
力の入れ具合を一段上げる。より速く、より力強く、より柔らかに。
先輩の言葉はそして覚悟は正しいかもしれない。しかし今現在私とラウロ先輩の間には越えられない壁がある。これは私の驕りではなく純然たる事実だ。今回の戦いにおいて先輩が私に一撃を与えられる確率はほぼ0だ。
でも私に1度負けたことでこれだけの成長が出来る先輩なら、この勝負を糧にさらに成長してくれるだろう。先輩の理想とする騎士として。
だから、私は先輩を倒そう。完膚なきまでに。
「ぐっ。」
体勢を低くして駆け、そのまま剣で一撃する。工夫も何もない力だけの剣だ。当然先輩には盾で防がれた。しかしその盾を構えた腕ではその威力をそらしきれず先輩の体が棒立ちになる。
「これで終わりです。」
剣の峰で先輩の足を、そして切り返して胴をそれぞれ一撃する。先輩がその衝撃に苦悶の表情をする。これで終わりだ。
私は戦闘態勢を解いた。将来騎士になると言うだけあってラウロ先輩は勝負が決まった後に攻撃するようなことはない。先輩の腕輪に光がつき、その腕輪が外れて・・・落ちなかった。
「えっ!?」
私がそんな声を漏らすと同時に脇腹に何かが迫ってくるのを感じ、とっさに剣で防ごうとしたがその勢いに抗えず、強い衝撃と共に地面をごろごろと転がる。
「カハッ。」
息が漏れる。肋骨が何本か折れているかもしれない。呼吸するたびに痛みが響くが、動けないほどではない。すぐに立ち上がり私の脇腹へと剣を振るった体勢のまま止まっているラウロ先輩を見る。そしてメイド服についた土をパンパンと払い、何事も無かったかのように剣を構えた。右手はあまり使えそうにない。
そんな私の様子にラウロ先輩は呆れたような顔をして剣を構えなおした。
「化け物かよ。」
「メイドに化け物とは先輩も失礼ですね。女の子にモテませんよ。」
「ほっとけ。」
先輩の腕輪を見る。一見、3つとも光がついているように見える。しかし1つの光が他の光に比べて少々暗いようだ。やられたわね。
「騎士は正々堂々ではなかったのですか?」
「ああ、基本的にはな。ただ他に方法が無いならばその手段を用いるのに俺は躊躇しない。罠学の生徒だしな。そしてそれはアンジェラ、お前に教えてもらったことだ。」
「そんなことを教えたつもりはありません。」
先輩がその腕輪を一撫でする。先ほどまでは光がついているように見えていた場所には全く光などついていなかった。
一応弱みを見せないように平然とした顔をしているが、実際に剣を振るうとなればあと1回で決めた方がいいだろう。下手に動いて折れた肋骨が内臓にでも刺さってしまったら治療が間に合わない可能性だってある。しかし力は入れられない。
一方で先輩は私の剣で打たれたとはいえ、骨折などはしていない。内出血で青黒くなる程度のはずだ。動きに支障はない。
フフッ。
思わず笑みがこぼれる。
「何がおかしい?」
そんな私のことをいぶかしげに見ながらラウロ先輩が問う。しかし質問しながら自分の攻撃しやすい間合いへとじりじりと動いているのだ。先輩は私に勝つつもりだ。
「いえ、先輩のことを笑ったのではありません。自分自身の甘さを再認識しただけです。お教えくださりありがとうございました。しかし勝ちは譲れません。」
「そうか、俺も負けるつもりはない。」
「そうですか、では・・・まいりましょう。」
「おう!」
転がって広がった間合いを一瞬で詰める。肋骨に響き一瞬痛みに動きがぎこちなくなるがここで決める!!
私の振るった一撃を受け止めるように先輩が足を踏ん張り、盾へと力を入れる。この一撃が防げば先輩にも勝機がやってくる。そう先輩も思っているんだろう。でも・・・
「なっ!」
ラウロ先輩の驚いた顔が見える。それもそのはず、剣が盾に当たる直前に手放したからだ。これで反動により体が硬直することは無い。自由になった体でその盾をすり抜けラウロ先輩に肉薄する。
先輩と至近距離で目が合う。その目は澄み切っていた。
「これで終わりです。」
先輩の顎へと私の頭突きが決まり勝負は決着した。
「アンジェラ、お前石頭だな。」
「余計なお世話です。」
体に負担がかからないように考えたら一番ましかなと思ったのが頭突きだったのだ。拳はハクのイメージが強いので使えないし。
先輩の腕輪は外れて地面に落ち、私の腕輪には光が2つ点いていた。それを見て先輩がすっきりした顔をする。
「なあ、アンジェラ。俺は本当に成長したと思うか?」
「はい、もちろん。」
「・・・」
数十秒、沈黙が続いた。私はただひたすらに先輩の言葉を待った。そうすべきだと本能が告げていた。そして先輩が真っ直ぐに私を見て右手を差し出す。
「もし俺が騎士をしている街に来たら訪ねてくれ。出来る限りもてなそう。」
「はい、期待してます。」
先輩と握手をして森の外へ向かって歩き出す。とりあえずは治療してその後は森の片づけね。




