シルフと契約とユグドラシルの木と
あからさまに嫌がる爺やさんに先導され、
エルフの村を行く。とても視線が居たい。
警戒心を露わにしているのもあるけど、
中には敵意も交じっていて。
昔迫害されたとかそういう事があるのだろうか。
「ホント辛気臭い連中よねぇ」
「辛気臭いというかなんというか。未知の者に対する恐怖にしては敵意が……」
「簡単に言えば頭でっかちのおこちゃまなのよエルフって。心と頭に余裕が無いからすぐキレるし、拒絶反応が大きすぎるから他と調和出来ないのよ。エルフになんか構ってたら世界が亡ぶって偉い人が言ってたわ」
「それってシルフィード様の事かな」
「違うわよ。シルフィード様もエルフは好き好んで近付かない。でも拘るほどじゃない程度って感じ?」
「難しいねぇ」
「簡単よ。引き籠りに迂闊に手を出さない。出す時は覚悟を決めないと」
「……君の御蔭で強制的にそうなったんだけど。勿論力、貸してくれるよ……ね?」
僕は握っているシルフを顔に近づけて向かい合う。
シルフの悪戯の所為でこうなったんだから協力してもらわないと。
「……知らないもーん。いたっ!」
目を逸らし、そっぽを向こうとしたシルフの顔を
ローズル様は無理やり戻すと頷かせた。
「はい契約成立」
「ちょ!?」
「ペナルティに対して貴女は彼のお願いに一度は従わないと、永遠に縛られる事になる」
「契約なんてしたらそれに縛られるじゃない!」
「貴女は子供だから知らなかっただけ。それでも妖精にとって契約は重要な意味を持つ。制約らしい制約を持たない貴女達の唯一の縛り」
「う、頷いたって他人の力で強制的にだから無効だわ!」
「本来であれば私たちに消えるまで粘着されるレベルの事をしておいてそんな事言えると思ってるの?」
「それとこれとは話が別なの!」
「同じなのよ。私たちは貴女の処遇を彼に一任した。その彼が貴方に協力しろと言ったのよ? 貴女の答えはイエス以外無いの」
「んぎぎぎぎぎ!」
「逆ギレしたって無駄なのよ。契約は成立し、その立会人をエルフの族長である私がしたの。貴女はさっき良い事を言ったわ。シルフィード様は好き好んで近付かないって。その通りよ。私たち意外と根に持つし執拗だし企み事好きなの」
シルフが手の中で暴れる。
なるほど狡か……じゃない機転が利くなぁ。
「悪いけど頼むよシルフ」
「ぐぎぎぎぎぎ」
明らかに何も納得していないけど、
暫くして諦めたらしく大人しくなった。
「放して」
そう小さく弱弱しい声でシルフが言う。
僕はローズルさんを見た。小さく頷いてくれた。
ゆっくりと手を放すと、シルフはその場に浮いている。
「ホント妖精って良いわよね。空は飛べるわ好き嫌いは無いわ法は無いは秩序は無いわ群れ無いわ学ば無いわで、あるのが契約のみに縛られるってどんだけ野放しなのよ」
「契約で縛られるじゃない……」
「悪戯なんてしなけりゃ良かったのよ。これから人生の教訓になさいな。悪戯すればエルフに酷い目に遭わされるって。一つ賢くなったわね貴女」
小さな妖精は綺麗な蝶の羽に似た羽を
羽ばたかせて静かに浮いている気がするけど、
黒いオーラを纏っているように見えるのは気のせいだろうか……。
「……全く姦しい……そろそろ付きますぞ、ユグドラシルの木の元……に!?」
爺やさんの声が跳ね上がる。何が起きたのかと前方を見ると、
そこには大きな女性が木と一体化して立っていた。
僕以外は皆目を丸くして口を開いている。
―よく来ましたね人の子よ―
「ど、どうも」
―運命の導きにより人として初めて、エルフに導かれながらエルフの里に正面から足を踏み入れた―
「な、成り行きで……」
―成り行きでもダメなものはダメなのですよ人の子よ。彼彼女らはそう融通の利く者たちではない事は理解していると思います―
「た、確かに」
―なればこそ案内されたのも運命。他では争いによる人の侵入があっても、貴方は違う―




