エルフの村へ
それから僕はシルフを掴んだまま
ローズルさんは僕の横に立ち、
ロタさん達は先頭を歩く。
背の高い木々の隙間から木漏れ日が差し込んで、
とても幻想的な風景だった。
「ちょっと、私を放しなさいよ。逃げも隠れもしないから」
「貴方名前はなんて言ったっけ」
「康紀です」
「ヤスノリ? あまり聞かない名前ね。ブロウド大陸の出身なのかしら?」
「ブロウド大陸……あそこだとそうなんですね」
ローズルさんは僕の顔を見た。
僕は言おうとしたが、掌で留められてしまった。
今は言うなって事なんだと思いローズルさんにお任せする事にする。
「何にしてもソイツには注意しなさい。風に属する妖精で、基本悪戯を生きがいにしてるんだから。時には命を落とす事だってあるのよ?」
「そ、そんなにあくどいんですかこの子……」
「ちょ、ちょっと何てこというのよ!」
「事実じゃないの。シルフィード様の性格を良い事にやりたい放題。その内痛い目に遭うわよ?」
「シルフィード様……」
「この世界の風の神様よ。性格も風そのものって感じ。拘ったり縛られたり、捉われる事が無い」
「なるほど……だから自由なんですね」
「そういう事よ。全く性質が悪いったらありゃしない。大した事無い力なら良いんだけど、風って馬鹿にならないのよ」
「小さい風の流れから竜巻が起こったりしますよね」
「そうなのよ! それをこいつらは理解しないんだから」
僕の右手にあるシルフは僕の指を握りながら体を揺らし、
口笛を吹いている。呑気なもんだ。
「この子は特に生まれたてみたいだから仕方ないのよね。大きくなれば多少気も利くんだけど……」
「ふーんだ少なくともアンタたちよりは世間を知ってるわ」
「……まったく生意気な」
「世界をくるりと見て来たけど、貴方達みたいな閉じ籠りさんはあまり居なかったわよ?」
「アンタの見てきたのが世界の全ての国だと良いけどね」
「それをエルフは確かめる事が出来るのかしら?」
ローズルさんとシルフが睨みあう。
少し大人げないなぁと思いつつも、そのままにしておいた。
飛び火しそうだし。
「まぁ威勢が良いのはユグドラシルの木まででしょうね。アンタたちが風ならユグドラシルは大地。言わば反属性。相性最悪でしょうからね」
「ふーんだ関係ないもんね。私は風を呼んだだけだもん!」
「ひ、姫様!」
暫く進んでいくと、木の高さが段々高くなり
そして距離が離れていても大きく見える幹が現れる。
近付いて行くとその麓には建物があり、村があった。
入り口の門の前に、小さな背丈のエルフが居る。
「爺や、ただいま」
「ただいまではございません。一体どういう事なのです!?」
「どういう事なのですとは?」
「結界が破られ嵐の前触れのような風が起こったかと思えば、人間と風の妖精を連れて来てしまうとは!」
「その原因ですよこれが」
「ど、どういう事なのです!?」
ローズルさんは爺やさんにこれまでの事を
説明した。爺やさんは背丈は百三十センチくらいで
髪の毛は白髪でてっぺんで一纏めにして縛っている。
口と顎の長い髭は風に揺れ、独特の模様が
あしらわれた前掛けを着て、木の杖を右に持っていた。
「……事情は分かりましたが……」
「ユグドラシルに聞くしかありませんでしょう?」
「で、ですが……」
「この子を長く逗留させれば、侯爵が乗り出してくる。そうなると今まで割と良い感じだった関係にひびが入るのは明白。ここはさっさと済ませて帰すのが妥当でしょう」
「確かに。あの人物に目を付けられては危のうございますな……仕方ありません。お主も余計な事をせぬように」
「あ、はい。で、この子はどうしましょう。シルフ」
「当方には関わりない。事が済めばお主が処理するが良かろう」
僕とシルフは目が合う。するとウィンクをしてきた。
ホント子供なのなこの子。処理がどうとか言うけど憎めないし、
適当なところで解放しよう。
「了解しました、では宜しくお願いします。お世話になります爺やさん」
苦虫を噛み潰した顔というのを始めてみたかもしれない。
そんなに僕らのような余所者が嫌いなんだなぁ。




