この世界のこと
結局目覚めたのは次の日の朝だった。
部屋は綺麗に直されていて、
脇にはアステスさんが何食わぬ顔で立っていた。
「取り敢えず私は色々悪戯してくるから、康紀はアステスと地道な鍛錬と勉強をしておくようにね」
部屋から出て食堂へ行くと、
丁度侯爵がご飯を食べ終えたところだった。
首元に付けていた白いナフキンを外し、
口をちょちょっと拭いた後僕たちにそう告げて
ウキウキと鼻歌交じりに出て行った。
その後ろ姿を見た後、僕とアステスさんは小さく
溜息を一つ。顔を見合わせて苦笑いした後で
朝のトレーニングを始める。そして昼食をとり
午後はこの世界についての勉強する。
正直計算とか出てきたら出来る気がしなかったが、
基本的なこの世界の成り立ちを教えてくれた。
なんでも空気中に魔術粒子があり、
魔術を使うことが可能だと言う事。
そして人間は生物の頂点ではなく、
また二足歩行の生物は人間のほかにも種族が居り、
大きな都市では混ざり合って生活している。
この世界は中世くらいの文化レベルで、
機械の類は無いようでその代り魔術が
発達している。貨幣も存在していて
ダガー国はダガ、グラディウス国はグラ、
其々の国で金銀銅の三種類の貨幣がある。
同じ価値ではなく、やはり国の大きさによって
交換レートは変わるとの事。
「これは実際に体験してみるのが良いかと。今すぐ行動を起こす訳ではありませんので、今のうちにこの世界の事を肌で感じ学ぶ事が大事です」
「た、確かに。えっとアステスさんは僕がどういう感じか知ってるんですか?」
「分かりません」
「ですよね」
「ですがこの世界の人間ではないことは分かります。何しろお二人とも私たちから見れば……何と言うか飾り物みたいな綺麗さというか……。私たちは大なり小なり生きる為にそれなりの事をしています。そうでなければ自分が食われてしまいますので」
食われてしまう、という言葉に僕は
ゴブリンを刺した事を思い出し、
手が震える。そうだ、僕も生きる為に
命を奪った。その事実が急に重くのしかかってきた。
「戦うと言う事は奪う事。奪わないで済めば良いですが、それは難しい。割り切る事など難しいでしょうが、受け入れなければ生き残れない。綺麗事で生きたいと願うなら、国を手に入れるしかない。そして次代に託すしか可能性は無いかと」
そう。受け入れて尚生きる。
夢か幻かわからないけど、
僕は今ここに生きている。
何故ここに居るのか分からないけど、
生き残ってその意味を知りたいとは思い始めている。
この事にどんな意味があるのか。
何故国を作らなければならないのか。
「そうですね……。目的を達成するために生きなくちゃ」
「そういう事です」
その後この近辺の地理についても教わった。
ダガー国の首都アダガはここから北東に位置にあり、
山と荒野を超えて行く必要がある。
舗装された道はあるはあるものの、
道中で獲物を狙った怪物だけでなく山賊の類もいるようだ。
中には怪物を飼って商いとして
やっている者たちもいるとの事。
「この周辺はエイジンと呼ばれている地域になります。開拓地でもあり、半分が原生林。それ故に多くの生き物が生息しており、また遺跡や洞窟なども多く存在しています」
「そういうのを探索する人は多いんじゃないですか?」
「そうですね、一獲千金を狙うならそうかもしれませんが命がけです。それに必ず見合う物があるかどうかも分かりません。グラディウス国では冒険者を支援している為活発ですが、この国ではそうではありません。原住民が居る場合もありますので、難しいところです」
「侯爵はどうやってここを収めたんですか?」
「ああ見えて侯爵は実に上手いお方です。力でねじ伏せず敢えて相手に考えさせて調和を図る。本来ならそんな必要はないのですが」
「侯爵は強いんですか?」
僕の問いにアステスさんは首を傾げる。
暫くしてから首を振り授業の終わりを告げる。
晩のトレーニングの後夕食を頂き、眠りに就く。
そんな感じでこの世界の知識を得つつ、
トレーニングをして一週間が過ぎた。
侯爵は相変わらずで、ジャンさんは戻らず。
もどかしく思いながらも、
元が無いので今は貯金と思い鍛えている。
「今日は三人でおでかけしようか」
朝侯爵と久しぶりに朝食を共にした。
僕はその言葉に苦い顔をする。
「侯爵また運」
「アステスくん、運転を頼むよ」
「はい」
僕の言葉を遮り侯爵は咳ばらいをした後
アステスさんを見て行った。
アステスさんは侯爵をじっと見た後返事をする。
侯爵は食事に視線を落として逃げた。
やはり馬車は無事ではなく、
何か侯爵は細工をしたのだろう。
あんな運転で無事であるはずがない。
暫く侯爵をアステスさんと一緒に
見ていたが、侯爵はちらちらこちらを見ている。
「いや何も無いよ? 本当さ」
首を竦めてそう小さな声で自白したに等しいことを言う。
アステスさんは溜息を吐いて、準備してきますと告げ
席を外した。アステスさんも大変だなぁ。




