街での話し合い
それから僕らはアステスさんの
丁寧な運転でこの間の街まで移動する。
侯爵は落ち着きなく足を何度も組み直したり、
指を右を上で組んだり左を上に組んだり
首を横に動かしたりと忙しい。
察するにとてもイライラしているんだと思う。
侯爵の運転に比べてゆっくりだ。
はっきり侯爵が言うならおっそい、
といった感じだろう。
「悪いけど誰か代表者を寄越してくれるかい?」
この間の二倍位時間をかけて
街に辿り着いた。侯爵は降りてもイライラが
隠しきれなかったようで、門兵たちは
侯爵の言葉を最後まで聞かずに中へ入っていった。
僕もこの顔の侯爵に真正面から向かい合ったら、
流石に怯える。
「侯爵、よくいらっしゃいました」
暫くして門兵と共に、ブラウンの短髪くせ毛で
口髭を生やし、ワイシャツにベスト、
スラックスを履いて
背筋をピッとした品のある小父さんが出てきた。
侯爵に一瞬近付こうとしたものの、
侯爵の雰囲気に足を止めた。
街の事で怒っている訳ではないと思うけど。
アステスさんを見ると素知らぬ顔で
目を瞑って立っている。
「で、回答を聞こうじゃないか」
「え、あ」
「何だ?」
「こ、侯爵落ち着いてください。話が進まない感じになってます」
怯える小父さんたちに凄んでいる侯爵。
僕は意を決して侯爵に言葉をかける。
うわ怖い顔してる……。
「なら仕方ない優しく聞いてやろう。言ってみたまえ」
顔が引きつりながらも笑顔を作る侯爵。
逆に怖くなっている気がするけど。
「あ、えーっと出来れば立ち話じゃない方が……。ちょっと失礼に当たるかと……」
僕は取り敢えず早く帰りたいので、
相手が怯えて忘れていそうな事を提案してみる。
「あ、そ、そうでした申し訳ありませんこちらへどうぞ」
一瞬舌打ちが聞こえたけど僕は敢えて保留した。
そして小父さんたちに僕が先についていく形で
街の中へと入る。街は侯爵と僕たちに対して
心配そうな顔をして見ていた。
まぁ当然だろうな……町長が急に変わったんだから、
何か起こってるのは分かるだろうし。
「で、早速聞こうじゃないか」
街の真ん中にある立派な洋館に入り、
広間に通されて向かい合い座ると
早速侯爵は切り出した。
「あー、えーと喉が渇いたので何か頂けますか?」
もうビビリ倒している相手に間を与えようと、
僕はそう告げる。小父さんはお茶をと言うと
付いていた兵士が一目散に部屋を出て行った。
その後を追うようにアステスさんも外へ出て行った。
侯爵は貧乏揺すりを続けていたし、
最初は品があった小父さんも額の汗を拭うのに
忙しい。正直僕も困っていた。
「あの、そう長い話でもないんで進めさせてもらいますが、前の町長は」
「あ、はい。前の町長は罪状を発表し更迭、罪人として収監しています」
「なるほど処罰対象となったんですね。それで貴方が変わりの町長と」
「そうです。私が今回町長として任されましたジョン・ジョウと申します」
「ジョンさん、怯えるのは分かるのですが、先ずは侯爵に御挨拶を……」
「あ!」
どうやら気付いたらしい。
侯爵が僕の方を見て余計な事をという顔をしたが、
僕は早く帰りたいので無視して先に進める事にする。
軽い挨拶が済んだ後、改めて懸案事項を口にした。
「で、前の町長がレイナさんとグルヴェイグさんを売った、そして侯爵をも売った件に関してですが」
「ち、違うんです。いや違わない。前の町長は我々に無断で」
違うとか言ってる時点でアウトである。
自分たちは悪くない関係ないと白を切っている証拠だ。
町長一人で全てをやっている独裁的な街には思えない。
こういう富裕層が組んで街を管理しているはず。
「無断かどうかはさておき、街が二人を売った事はどうも間違えようがありません。それは認めて頂かないと」
「……け、結果的にはそうなっただけで」
「そうなった”だけ”?」
これはアウトだ。僕は言葉を交わしたことがある程度だけど、
侯爵の口振りからしてそれ以上ではあると思う。
「あ、いや」
「ジョンさん。はっきり言っておきます。私は貴方の為に仲立ちをしているんです。これ以上侯爵を怒らせたいとお思いならもう話す事はありませんから帰らせて頂きたいんですけど」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「もう言い訳は聞きたくないし、建設的な話が出来ないようなら御終いです」
「そ、それは……」
あわあわしている、というのを
僕が間近で見るのは初めてかもしれない
などと思いつつ、侯爵を見る。
侯爵は目を瞑りじっとしていた。
だが気配というかなんというかは
怒り爆発寸前の溜めている状態に感じる。
「侯爵の提案を拒否せず受け入れた、と言う事で済む話ではないでしょう? 侯爵とグルヴェイグさんによって付近の安全が確保されていた。グルヴェイグさんはこちらに付いています」
「ま、まさか!?」
「まさかも何も自分の娘を売る連中を頼るとお思いか? ……謝罪して済む問題ではない事は分かっているはず。もし分かっていないのであれば話にならない。如何か?」
押し黙る新町長。
仲間内で密談してやり過ごそうと、
やり手なのか押し付けられたのか
この人になったんだろう。
決定権も無いと思う。
こりゃ話にならないな……。
「というわけで侯爵。ご破算です」
「宜しい。ならば帰るとしよう」
侯爵はすんなりそう言って立ち上がる。
僕は慌てて立ち上がった。
新町長は溜息を吐いてテーブルに肘を乗せ
掌で顔を覆っていた。
「終わりましたか?」
外に出るとアステスさんが仁王立ちしていた。
その前には兵士たちが並んでいる。
「ほほう。そういう事か。実にいいじゃないか……」
侯爵は心底恐ろしい顔をして微笑んでいる。
ああ……これはまずい……。
「如何されますか?」
「んーそうだねぇ。丁度在庫が少なくて補充しようかと思ってたところだ。君は?」
「私は結構です」
何の会話をしているかさっぱり分からないけど、
知らなくて良いこともあるような気がする……。
「そっか、なら頂くとしよう」
ニマァっと笑う侯爵。
左掌を突出し右手で持っていたステッキで地面をたたく。
すると地面は真っ黒に染まり、
広間より少し狭いくらいの通路にひしめいていた
兵士たちにその真っ黒な地面から手が伸びて
引きずり込んでいく。阿鼻叫喚というのをこれまた初めて見る。
助けを請う兵士たちに僕は手を合わせて祈る。
僕は考えうる限り全く無敵ではないので、
無謀に逆らう事は出来ませんごめんなさい。
「さ、帰ろうか。私の機嫌はとても良くなったよ康紀」
肩を叩かれビクッとした後目を開け侯爵を見る。
子供のように、あはっと手書き台詞で書き足される感じの
ご機嫌な笑顔で僕を見ていた。
僕は愛想笑いをしたが怖すぎる。
「はーい」
僕は間抜けを装うように返事をした。
侯爵とアステスさんに続いて洋館をでて街を出る。
新町長がこの後どうするか恐らくある程度
猶予を与えるのだろう。
それに国も何かしてくるだろうし。
僕に交渉力があればもう少し事態を良く出来たかも。
思い上がりかもしれないけど。




