表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白花に刻まれた運命  作者: rara
第1章 その夜会で、私の世界は変わった

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/6

「レオ、今大丈夫?」


夕暮れが落ちかけた頃、レイはカリディア家の扉を軽く叩いた。


「レオも今日はお疲れ様でした。私、そろそろ帰るね」


部屋の中は静かだった。


書斎の奥。

書類の山の向こうで、レオは頬杖をついたまま固まっていた。


(……寝てる)


レイは小さく息をつき、そっとドアを閉めようとする。


「レイ!」


その声で、レオが跳ねるように顔を上げた。


「送っていく」


「寝てたのね」


「寝てない」


即答が少し遅い。


二人は顔を見合わせて、同時に笑った。


その笑い声だけが、やけに柔らかく部屋に残る。




カリディア家を出て、小さな森を抜ける。


夕暮れの影が長く伸びていた。


この道を歩く時間だけは、昔から変わらない。


ただ隣にいるだけで、少しだけ安心できる時間。


けれど今日は、なぜか少し違っていた。




「明日、レイの誕生日だな」


「……あれ?」


レイは歩を止めかけて、すぐに思い出そうとした。


(そういえば……)


仕事と準備に追われて、頭から抜け落ちていた。


「ようやく俺と同い年か」


「でも来月にはレオが19才になるわね」


「まぁな」


軽い会話。


いつも通りのはずなのに。


なぜか、少しだけ言葉の間が長い。




「誕生日、祝う時間あるかな」


その声は、少しだけ低かった。


レイは笑って首を振る。


「いいのよ。毎年来るものだもの」


そう言いながら、胸の奥に何かが小さく引っかかった。



森を抜けると、空が少しだけ明るくなっていた。


その境目で、レオは足を止めた。


レイも遅れて立ち止まる。


「……レイ」


呼ばれただけなのに、胸の奥が妙にざわついた。


レオはいつものレオじゃなかった。

ふざけた顔も、軽口もない。


ただ、まっすぐだった。



「今日さ」


少し間が空く。


「もしレイが、どこか遠くの誰かに連れていかれたらって……」


言葉が途中で止まる。


レイは小さく笑った。


「そんなの、ないわよ。アリセナ国の人との結婚なんて、法律で認められてないもの」


冗談のつもりだった。


でも次の瞬間。



レオの手が、レイの腕を掴んだ。


強く。


逃げられないくらいに。



気づいた時には、レイはレオの胸の中にいた。


心臓の音が、近すぎる。


どちらのものか分からないくらいに。


「……ずっと好きだった」


その声は、震えていた。


「出会った頃から。ずっと」


レイの呼吸が止まる。



「誰かに取られるくらいなら、俺が欲しい」




その言葉が落ちた瞬間、

世界の音が少しだけ遠くなった気がした。




レイは、知っていた。


気づかないふりをしていただけで。

この気持ちが、ただの幼なじみじゃないことを。




でも。


(これは……)


(私は……)




言葉が出てこない。


喉の奥で、何かが詰まる。




レオは一度だけ、息を吐いた。


そして少しだけ力を緩めた。


「……明日でいい」


「パーティが終わってからでいい」



その“逃げ道”が優しすぎて、

逆に胸が痛くなった。



気づけばレイは、小さく頷いていた。



「……うん」


その一言だけで、

何かが決まってしまった気がした。



レイが家に戻ると、いつもと同じ夕方の匂いがした。


「おかえりなさい、レイ」


母のナタリーが、花を片付けながら振り向く。


「ただいま」


その声が、少しだけ震えた。



「レオ様は?」


「……すぐ帰っちゃった」


自分でも驚くほど、自然に嘘が出た。


ナタリーは一瞬だけ動きを止めた。



「そう……」


その一言が、やけに静かだった。



レイは視線を逸らしたまま、花束を抱える母の横顔を見る。


(何も気づかないで)


そう思ったのに。



「レイ」


呼ばれて、肩が小さく跳ねる。


ナタリーは花を抱えたまま、少しだけ笑った。


「何か、あったのね」



その一言で、胸の奥が崩れそうになる。



言えなかった。


レオのことも。


自分の気持ちも。



「……なんでもない」


そう言うしかなかった。



ナタリーはそれ以上何も聞かなかった。


ただ、花を一輪だけ手に取ると、そっとレイの髪に挿した。



「レイは、ちゃんと笑っていればいいのよ」


「……うん」



その夜。


ナタリーはいつもより少し早く店を閉めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ