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外の子  作者: 山田太郎
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二四

 金山正夫は手に持った岡本の携帯電話をじっと眺めていた。

 妙にぐったりとした気分だった。

 しかし岡本と会って話をして、多少は気分が晴れた。

 しかし、非常に疲れを覚えた。

 何一つかみ合わない会話。分かり合えない心。癒されない不安感。孤独感。

 携帯電話を渡されてしまったことが重荷のようにも感じられた。

 ありがた迷惑であった。

 借りてしまったものは返さないといけない。今すぐ家に帰る自由を奪われた気分だ。

 気に入らないことばかりであった。がっくりで、うんざりであった。頬や首まわりの疼きにも、またうんざりであった。

(しかし稼がなければならない。働かなければ。とにかく冷静になることだ。徹底的に冷静になることだ。とにかく内田さんよりも丈さんの方が都合がいい。話しやすい。相談しやすい。……でもホント頭が痛い。家に帰って眠りたい……)

 金山は頭を抱え込んだ。そしてやがて顔を上げ、大きなため息をついた。

 つらそうな顔つきである。

(とにかく気に入らないことばっかりだ。しかしそれはしょうがない事だ。現実のありのままの姿。それが気に入らないのはしょうがない。どいつもこいつも気に入らない。うんざりだ。……だからって、自分は他人と合わないんだと決めつけないことだ。冷静に冷静に。とにかく体調が悪いからこんな風に悪いふうにばかり考えてしまうんだ。おそらく、悪循環にはまっているのだろう。とにかくここは一発、冷静だ。冷静の極地だ。冷静さがすべてだ。とにかく、大統領だ。大統領。そう、気に入らないものがあるなら。変えていくのだ。世の中のすべてが気にいらないなら、世の中のすべてを自分の気にいるように変えていくのだ。そしてそう、誰もが大統領になる必要があるのだ。全世界の六十億人が、全員が大統領になったつもりで、自分たちおのおのの、好みに合った世の中にどんどん変えていく活動をするべきなのだ。そのために、みんなもっと勉強をするべきなのだ。物事を知るべきだ。大統領としてふさわしい判断をするために勉強をするべきなのだ。とにかく、そういう世の中になればいいと思う。今みたいに一握りのエリートだけが大きな仕事をして、圧倒的多数の凡人は、機械か操り人形みたいな単純作業しか出来ないような世の中は哀し過ぎる。そしてそんな機械のような仕事を、仕事だと思って、諦めて、適応しようとしている人間。その適応の過程でおそらく人間はちっぽけで、情けない者に変わっていってしまうんだ。疲れ果てた日々の末、酒やギャンブルや女遊びだけが楽しみで生きていく。そんな心の貧しい人間になってしまうんだ。哀し過ぎる話だ。そんな現実、認めたくない……)

 金山正夫は虚ろな目つきでブツブツと独り言を続けていた。だんだんと自分の世界に浸りこんでしまって、周りを全然気にしなくなった。

 通りがかる人たちは薄気味悪そうな顔つきをして、そんな金山をチラチラ見ていた。

 ふいに金山はかたく目を閉じて、両手で顔をごしごしとこすり、再びがっくりとうなだれた。

(また全然関係のないことばかり考えてる。そもそもこんな風にどうでもいいことばかり考えているから、いつまでたっても仕事をしないんだ。もう考えることはやめた方がいい。とにかく働くことだ)

 やがて金山はそう考えて、岡本の携帯電話のアドレス帳を見た。

 片岡丈の名はどこにも無かった。

 着信履歴、発信履歴を見た。

 矢吹という名前の人への発着信が多かった。

(なるほどね。片岡丈さんは矢吹で登録されているのだな。矢吹丈。「あしたのジョー」のつもりなのだな。本当に馬鹿な男だ。幼稚だ。なんの説明もせずに携帯を放り投げたりなんかして、ほんとだらしない男だ。がさつで、どうしようもない。本当にくだらない奴だ。説明もたらないし。俺が「あしたのジョー」を知らなかったら、どうするつもりだったのだろうか? 本当に馬鹿だ。本物の馬鹿だ)

 金山正夫はそうブツブツと悪態をつきながら矢吹という名のところにカーソルを合わせ、発信しようとした。

(……でも本当にこれで合ってるのだろうか? ……間違ってたら謝って切ればいいか……)

 金山正夫は恐る恐る、発信ボタンを押した。


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