二二
「で、どうなんだいブランドン? 社会復帰は出来たのかい? なんか前に電話で社会復帰するから力になってくれとか言ってなかった? あれ? カナちゃんじゃなかった? 誰だっけ……」
岡本圭介は眉間にシワを寄せて考え込んでいた。
岡本は痩せていて、茶髪で、眉が濃かった。色白でやや頭が大きかった。顎は細めで、顔の形は逆三角形であった。その目の焦点は妙に合わず、やや白痴な印象を見る者に与えた。身長は百七十五センチであった。自分では絶世の美男子だと思っていたが、それは全くの勘違いであった。
「まあいいや別にどうだって。面倒くせえ」
やがて岡本はそう言って考える事をやめた。そしてじっと金山の姿を観察した。
その視線には遠慮のかけらもなかった。
彼は非常に図々しい男だった。そして非常に鈍感な男でもあった。繊細な心の機微など全く理解できない人間だった。他人の痛みや苦しみを全く読み取ることが出来ない男だった。
その無遠慮な視線は金山正夫をひどく安心させた。
相変わらず人の気持ちなんて何一つ分かっていない愚鈍な人間だ。金山は岡本の事をそう思って、力無く微笑んだ。
「久しぶりだねえ、岡本くん。元気だった?」
やや元気を取り戻した金山は、そう尋ねた。
「ああ、まあぼちぼちだね。あ、そうだ。話は変わるけど、俺たちってさあ、久しぶりに会ったよね。どう、俺って何か変わった? 成長した感じする?」
出し抜けに岡本はそう尋ねた。
「はは……」
金山の口から苦笑いが漏れた。
岡本は何一つ変わっていない。成長のカケラは微塵も見られなかった。
「どうだろう。分からないな。久しぶりに会ったばかりだから」
金山はそう答えた。
「そっかー、なるほどね。まあ何でもいいからさあ、おれの事、なんか前に比べて変わったなーとか思う事あったら何でもどんどん言って欲しいんよねー。多分色々とあると思うんよね。だってほら、俺たちって二年くらいは会ってないよね? やっぱお互い、色んな面で変化してる部分があるだろうと思うんよね」
「……そうだね。分かった」
実際は、二人は四年ぶりくらいの再会であった。
確かにあの頃の自分と今の自分とでは色々と変わったのかも知れない。
金山はそう考えた。
あの頃のように将来に対する絶対的な明るい見通しというものは、ほとんど無くなってしまったのかも知れない。
金山はその頃、小説家を目指していて、そして自分には絶大な才能があると信じていた。そしてその才能を開花させるためにはただ毎日、思いっきり遊んでいればいいのだと思っていた。遊ぶ事が一番の勉強なのだと思ったのだ。
やりたい事をやること。精一杯、毎日を楽しむこと。
そのパワー。元気。
それが一番だと思った。
文章のスキルなどは自動的に上がっていくものだと思っていたし、今はまだ書きたいことも書くべきことも全く分からなかったが、明日にでもそれがいきなり発生するかも知れないといつも思っていた。
そんな風に日々を送り続けた。単純作業のアルバイトばかりの生活だった。
三十代も間近になってから、実は自分はこのままずっと今のような単純作業以外の仕事は何も出来ないのではないかという考えが訪れた。
恐怖だった。今のような単純作業ばかりの日々で、自分の能力はどんどん退化していくのではないかと思った。
そして金山は、楽しむ事だけを考えていた日々をいつしかやめた。そして今度は勉強ばかりをやり始めた。
中学校の数学の参考書などを読んだ。国語の参考書を読んだ。
自分の学力の無さを痛感し、とにかく勉強しまくった。
簿記の勉強をして、税理士を目指した。
それに挫折してからは、今度はコンピューターの勉強をやり始めた……
金山はぼんやりとこの数年間の己の生活の事を考えながら、口を開けて岡本圭介の顔を眺めていた。




