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外の子  作者: 山田太郎
16/27

一六

 金山正夫はキョロキョロとあたりを見まわしながら歩いていた。とても懐かしい気分だった。

 以前、彼がF工場で働いていたのは四年ほど前だった。それから今まで、色々なことがあったような気がした。

(あの頃の俺はまだ随分と若かったような気がする。たったの四年くらいしかたっていないんだけど、なんか十年以上も前のような気がする……)

 金山正夫はゆっくりとした足取りで歩きながら、当時の生活の事を思い出そうとしていた。

 F工場では確か一年半くらいの期間、働いていた。時給八百円の安い給料で、ギリギリの生活をしていた。

 そして仕事以外の時間は、夢の実現のために使っていた。

 その当時、金山は小説家になるために頑張っていた。たくさんの本を読んで、自分でも色々と書いてみた。そして書いたものを雑誌の新人賞などに送ったりもした。

 彼は昔、陸上競技短距離をしていた。

 それをやめてから、小説家になる夢を抱いた。

 そして色々な場所で住み込みの工場アルバイトをした。

 広島に行き、岡山に行き、愛知に行き、滋賀県に行った。そして滋賀県のプリンター工場の仕事を期間満了で終了して、そこから東京に出てきた。

 そしてホテル暮らしをしながらアパートを探した。

 アパートが決まって、失業保険の手続きをした。失業給付を貰い、受給期間が終わってもしばらく無職で過ごした。

 その時期はやはり彼は小説家を目指してたくさんの本を読んで、色々と小説を書いた。

 そしてやがて彼が滋賀県のプリンター工場で蓄えた金も尽きようとしていた。そこで蓄えた金は八十万円ほどだった。

 そして彼はF工場でのアルバイトを始めたわけであった。

 その当時、彼は自分が小説家になって、すぐに金持ちになることを、すぐに生活が安定することを、信じて疑わなかった。

 F工場に入って半年は、彼は活き活きとしていた。たくさんの友達を作ろうと張り切っていた。そして工場で知り合った人たちと一緒に酒を飲みに行ったりなど、活発にコミュニケーションを取った。

 しかしそんな知り合いとも、やがて疎遠になった。

 金山は彼らにうんざりした。だんだんと彼らが嫌いになった。

 そして彼は人間から離れていった。

 一人でいることを好むようになり、ほとんど誰とも口を利かなくなった。いつも怒っているような、むっつりとした顔つきで仕事をし始めた。

 そして彼はF工場を去った。

 もう二度とここでは働かないと心に決めていた。

 誰にでも出来る簡単な仕事。そんなものはしたくないと思った。

 専門的なスキルを習得し、専門的な仕事をしたいと思った。給料のいい仕事に就きたいと思った。

 彼は簿記の勉強をし、税理士を目指した。そして求職活動をしたが、うまくはいかなかった。

 そのおり、頻繁に「パソコンは扱えるか?」と問われた。

 当時彼はほとんどまったくパソコンは扱えなかった。パソコンを持ってもいなかった。

 パソコンが出来ないことが、彼が不採用になる大きな理由の一つなように思われた。

 そして彼は方向転換した。

 今度はパソコンの勉強を始めた。簿記の勉強をやめ、コンピューターの勉強をした。

 色々な工場のアルバイトを転々としながら、ひたすら勉強をし続けた。

 しかし、ITの仕事に就くことは出来なかった。

 そして今に至り、再びF工場にいるわけだった。

(振り出しに戻った……一周まわって同じところに来た気分だ。まあ仕方がないことだ。もう勉強はやりたくない……)

 彼はぼんやりと構内を歩き、昔いつも休んでいたベンチに座り込んだ。

 あの頃、彼はあんなにも友達を作ろうと一生懸命で、色々と考え、行動していたものであった。

 しかし今、孤独であった。友達が一人もいなくて、そして人間嫌いであった。

 小説も全然書いてない。小説家になる夢は消えたわけではないが、それでもはるか遠くに行ってしまったように思えた。

 今はただひたすら借金に困り、体調不良に困っていた。

 収入が全く期待できない小説作りなんかに時間を使う余裕は全くなかった。

(さて、じゃあそろそろ行こうか……)

 やがてベンチから立ち上がった金山は以前、毎日通っていた馴染みのある建物に入っていった。

 ゆっくりと階段を登り、休憩室の方へと歩いていった。


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