第42話 坑道の主
暗い坑道。
湿った空気。
シルクスパイダーの死骸が、
足元へ転がっている。
だが——
レナの表情は険しいままだった。
「……まだ来る」
奥。
重い反応。
セイルのサーチ改も、
同じものを捉えていた。
大きい。
しかも速い。
「右通路から来る!」
セイルが叫ぶ。
次の瞬間。
ドゴォッ!!
壁を削りながら、
巨大な影が飛び出した。
「うわっ!?」
リナが息を呑む。
灰色の毛。
大きな牙。
赤い目。
「洞窟ウルフ……!」
しかも。
デカい。
普通個体より、
明らかに大きかった。
⸻
「ギルルルル……」
低い唸り声。
そして次の瞬間。
速い。
「っ!」
セイルが剣を構える。
ガギィン!!
爪がぶつかる。
重い。
しかも鋭い。
「強っ……!」
オークと違う。
スピード型。
坑道との相性も最悪だった。
⸻
「左からも!」
レナが叫ぶ。
さらに二体。
群れだった。
「囲まれる!」
リナが風を集める。
だが狭い。
セイルも近い。
大技は撃ちにくい。
⸻
その瞬間。
一体が壁を蹴る。
天井。
横壁。
三次元的に飛ぶ。
「うそっ!?」
リナが反応遅れる。
洞窟用に進化している。
普通の狼じゃない。
⸻
ヒュンッ!!
レナの矢。
ウルフの肩へ刺さる。
だが止まらない。
「硬い!」
「なら——!」
セイルが踏み込む。
強撃改。
ドガァッ!!
正面のウルフを吹き飛ばす。
だがその瞬間。
横からもう一体。
牙。
首狙い。
避けきれない。
⸻
「セイル!!」
リナが叫ぶ。
風が爆発した。
「ハイウィンド!!」
ドゴォォォッ!!
暴風が坑道を駆け抜ける。
横から来たウルフが吹き飛ぶ。
さらに後方の蜘蛛糸まで巻き込み、
まとめて壁へ叩きつけた。
セイルが目を見開く。
「今の制御……!」
リナ自身も驚いていた。
「で、出来た……!」
前より明らかに強い。
しかも。
狭い坑道だからこそ、
風圧が逃げず威力が増していた。
⸻
だが。
奥。
さらに大きな反応。
セイルの顔が変わる。
「……まだいる」
レナも気づく。
「群れのボス」
重い足音。
ズシッ。
ズシッ。
暗闇から現れた。
通常個体より、
さらに一回り大きい洞窟ウルフ。
片目に古傷。
牙も長い。
「グルゥゥ……」
空気が変わる。
完全に、
群れの主だった。
⸻
「ちょっと待って」
リナが小声になる。
「これ、
強くない……?」
「強い」
レナが即答した。
セイルが剣を握り直す。
だが。
逃げる気はない。
ここで負ければ、
囲まれる。
ダンジョンでは、
逃げ場が少ない。
だからこそ——
前へ出るしかない。
⸻
その時。
セイルのサーチ改が、
別の情報を拾う。
後方。
シルクスパイダーの素材。
洞窟ウルフの素材。
そして——
荷物限界。
(……持ち帰れない)
こんな状況なのに、
そんな事まで見えてしまう。
思わず苦笑した。
⸻
「セイル?」
リナが不思議そうに見る。
セイルは剣を構えたまま言った。
「……勝った後、
荷物どうするか考えよう」
レナが一瞬止まり、
小さく笑う。
「こんな時に?」
「大事でしょ」
その瞬間。
洞窟ウルフの主が吠えた。
「ガァァァァァッ!!」
坑道が揺れる。
フォーチュンスターは、
ダンジョンの洗礼を受け始めていた。




