第36話 オークソルジャー
翌朝。
ラグナス西部森林地帯。
「ここから先です」
シエラから渡された地図。
その赤印付近まで、
三人は来ていた。
空気が違う。
静かだった。
「……普通のオークいないね」
リナが小声で言う。
レナが頷く。
「縄張り作ってる」
「つまり——」
「近い」
セイルが剣を握る。
⸻
レナが目を閉じた。
「サーチ」
視界が広がる。
森の奥。
大きな反応。
普通のオークより、
明らかに大きい。
そして。
「……武器持ってる」
レナが静かに呟く。
「こっちに気づいてる」
空気が張る。
⸻
ズシン。
ズシン。
重い足音。
木々の奥から、
巨大な影が現れた。
「……でか」
リナが息を呑む。
オークソルジャー。
通常個体より頭一つ大きい。
筋肉量も違う。
そして——
金属鎧。
右手には巨大な斧。
「グォォォ……」
低い唸り声。
赤い目が、
三人を見ていた。
⸻
「来る!」
レナが叫ぶ。
オークソルジャーが突進する。
速い。
巨体なのに。
「っ!」
セイルが前へ出る。
ドゴォン!!
斧と剣がぶつかる。
重い。
腕が痺れる。
「強っ……!」
以前のオークとは別物だった。
⸻
「レナ!」
「分かってる!」
ヒュンッ!!
矢が飛ぶ。
肩へ命中。
だが。
「浅い……!」
筋肉が硬い。
普通の矢では止まらない。
オークソルジャーが、
強引に前へ出る。
「リナ!」
「ウィンド!」
風。
オークの体勢が少し崩れる。
その隙に——
「強撃改!!」
ドガァッ!!
セイルが斬り込む。
だが。
浅い。
鎧が邪魔をする。
「硬っ……!」
⸻
オークソルジャーが笑う。
「グォ……!」
知性。
ただの魔物じゃない。
そして次の瞬間。
斧が横薙ぎに振られる。
「避けて!」
レナの声。
セイルが飛ぶ。
ドゴォォン!!
後ろの木がへし折れた。
三人の空気が変わる。
強い。
今までで一番。
⸻
「セイル!」
リナが叫ぶ。
「いける!?」
セイルが息を吐く。
「……いける」
剣を握り直す。
怖い。
でも。
負ける気はしなかった。
⸻
その時。
レナが静かに呟く。
「右脇腹」
「え?」
「解体した時と同じ」
「筋肉の繋ぎ目が薄い」
サーチ。
解体。
そして弓術。
全部が繋がる。
「そこなら通る!」
セイルの目が変わる。
「分かった!」
⸻
レナが矢を構える。
「リナ!」
「合わせて!」
リナが頷く。
「うん!」
レナの矢。
そこへ——
「ウィンド!」
風が重なる。
矢が加速する。
ヒュンッ!!
「グォッ!?」
脇腹へ突き刺さる。
オークソルジャーの動きが止まった。
「今!!」
セイルが踏み込む。
「強撃改!!」
ドガァァン!!
直撃。
オークソルジャーが膝をつく。
だが——
まだ倒れない。
「硬い……!」
その時。
セイルの頭に、
一つの考えが浮かぶ。
火。
風。
圧縮。
「リナ!」
「新しいのやるぞ!」
「えっ!?」
だがリナはすぐ笑った。
「分かった!」
信頼だった。
⸻
セイルが手を前へ出す。
「ファイアー!」
火球。
そこへ——
「ウィンド!!」
風が巻き込む。
火が回転する。
圧縮。
膨張。
不安定。
でも——
「いっけぇぇ!!」
セイルが撃ち出した。
火と風の塊。
爆ぜながら回転する。
ドゴォォォォン!!
爆発。
熱風。
衝撃。
オークソルジャーが吹き飛ぶ。
森が揺れた。
⸻
静かになる。
煙。
焦げた匂い。
そして——
オークソルジャーが、
ゆっくり倒れた。
ズゥゥン……
完全沈黙。
⸻
「……勝った?」
リナが呟く。
レナも息を吐いた。
「……倒した」
セイルはその場へ座り込む。
「つ、疲れた……」
魔力消費が重い。
だがその瞬間。
『ファイアーボールのレシピを確認』
『複合魔法系統レシピを確認』
文字が浮かぶ。
(また増えた……)
セイルは思わず苦笑した。
⸻
「ねぇねぇ!!」
リナが興奮した顔で振り向く。
「今の何!?」
「めっちゃかっこよかった!!」
セイルが苦笑する。
「いや……勢いでやったから」
「名前つけようよ!」
リナの目が輝く。
「ぐるぐるファイアー!」
「ダサい」
レナが即答した。
「えぇー!?」
リナが抗議する。
「じゃあ爆炎トルネード!」
「長い」
「むぅ〜……」
リナが唸る。
その横で。
レナが少し考え、
小さく呟いた。
「……爆風刃でいいんじゃない?」
セイルが目を瞬かせる。
「おぉ……」
リナも感心した顔になる。
「かっこいい……!」
レナは少し肩をすくめた。
「双風刃の火版って感じだし」
その言葉に、
セイルも小さく笑った。
オークソルジャー。
新しい敵。
そして——
新しい技。
フォーチュンスターは、
また一歩前へ進み始めていた。




