第32話 役割
その日の夜。
ボルトン家の食堂。
夕食を終えた後も、
三人はまだ席に残っていた。
「今日の素材は本当に素晴らしかったですぞぉ……」
ボルトンがまだ余韻に浸っている。
「鮮度!」
「肉質!」
「利益率!」
完全に商人だった。
リナが笑う。
「ボルトンさん、
ずっと嬉しそうだよね」
「当然ですとも!」
即答だった。
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そんな中。
レナが静かに口を開く。
「……今日ので分かった」
空気が少し変わる。
セイルが顔を上げた。
「レナ?」
レナは少し考えてから、
ゆっくり言葉を選ぶ。
「今のままじゃ、
この先は厳しい」
リナが首を傾げた。
「厳しい?」
「今日のオーク程度ならまだいい」
「でも、もっと強い敵が出たら——」
そこまで言って、
昼間傷を負った腕を見る。
今はもう、
綺麗に治っていた。
セイルのヒールのおかげだ。
「前衛をやるなら、
セイルの方が向いてる」
セイルがすぐに否定する。
「そんな事ないよ」
「ある」
レナは即答した。
「私はサーチで見えてる」
「敵の動きも、
セイルの動きも」
静かな声。
でも、
そこに迷いはなかった。
「正直、
私は捌ききれてない」
セイルが言葉に詰まる。
レナは少しだけ笑った。
「別に落ち込んでるわけじゃない」
「ただ、
役割を変えた方が強くなれる」
そして。
レナの視線が、
壁へ向く。
そこには、
ボルトン家へ飾られている弓。
細く美しい長弓。
「私、アーチャーになる」
静かだった。
でも、
ちゃんと決意のある声だった。
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「転職ですかな!?」
ボルトンが勢いよく反応した。
やはり商人だった。
「実は!」
「ラグナスには転職神殿がありますぞ!」
リナが驚く。
「本当に転職できるんだ!?」
「ええ!」
ボルトンが胸を張る。
「下級職なら金貨五枚!」
「適性があれば、
スキル取得率も変わりますぞ!」
レナが小さく頷く。
「サーチ持ちなら、
弓との相性は悪くないはず」
「後衛から支援して、
抜けた敵を止める」
「そっちの方が、
パーティとして安定すると思う」
合理的だった。
だからこそ、
セイルは何も言えない。
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「……少し足りないか」
セイルが小さく呟く。
今日の買取を計算していた。
すると。
ボルトンがニヤッと笑う。
「ならば」
嫌な予感しかしない。
「私が立て替えましょう!」
「えっ?」
セイルが固まる。
レナも目を見開いた。
ボルトンは胸を張る。
「信用貸しですぞ!」
「明日の素材分を先払いするだけです!」
リナがぽかんとしている。
「しんよう……?」
「未来への投資ですな!」
ボルトンが笑う。
「皆さんは有望ですぞ!」
そこで一拍置き——
「特に素材が!」
最後だけ本音だった。
レナが吹き出す。
「結局そこなのね」
「もちろんですとも!」
即答だった。
だが。
その空気のおかげで、
少しだけ重さが消える。
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セイルが頭を下げた。
「……ありがとうございます」
ボルトンは軽く手を振る。
「気にしなくて良いですぞ!」
「その代わり!」
目が光る。
「良い素材は優先的に!」
「はいはい」
レナが呆れながら笑った。
⸻
その後。
食堂を出た廊下。
セイルは、
壁に飾られた弓を見上げていた。
すると後ろから、
レナの声がする。
「……私、
弱くなりたいわけじゃない」
振り向く。
レナは真っ直ぐこちらを見ていた。
「守られるだけは嫌」
「ちゃんと隣で戦いたい」
静かな声。
だけど、
その目は強かった。
セイルは少しだけ驚き、
そして笑う。
「うん」
「一緒に強くなろう」
その言葉に、
レナは少しだけ目を細めた。
ラグナスの夜。
三人は少しずつ、
次の段階へ進み始めていた。




