第31話 鮮度
「おぉぉぉぉ!!」
ボルトンの叫び声が、
商会中へ響いた。
セイルは少し困った顔をする。
「えっと……そんなにですか?」
「そんなにですぞぉ!!」
ボルトンが勢いよく机を叩く。
その上には、
今日討伐したオーク素材。
牙。
魔石。
そして——
肉。
問題はその肉だった。
⸻
ボルトンが震える手で触る。
「冷えている……」
「しかもこの鮮度……!」
「討伐直後レベルですぞ!?」
リナが笑う。
「すごいの?」
「すごいなんてもんじゃありませんぞ!!」
完全に商人モードだった。
「普通は帰る頃には臭みが出る!」
「色も落ちる!」
「ですがこれは!」
「高級店へ即出せるレベル!!」
興奮が止まらない。
⸻
セイルは少し視線を逸らした。
「まぁ……少しだけ」
「少しだけ!?」
ボルトンの目が細くなる。
「……セイルさん」
「はい」
「何かしましたな?」
レナとリナがセイルを見る。
セイルは少し困った顔をした。
そして——
小さく手を前へ出す。
「アイスボール」
ぽわっ——
冷気。
空気が少し白くなる。
リナが目を丸くした。
「えっ!?」
レナも固まる。
「……もう使えるの?」
セイルが苦笑する。
「昨日の夜、
少し練習してみた」
「少しで覚える!?」
リナがツッコむ。
ボルトンは、
しばらく固まっていた。
そして。
素材を見る。
セイルを見る。
もう一度素材を見る。
「……なるほど」
静かに頷いた。
「素晴らしいですぞ」
そこなのだった。
レナが吹き出す。
「気にしないのね」
「気にしますとも!」
ボルトンは即答した。
「ですが!」
「鮮度が良い!!」
結局そこだった。
⸻
ボルトンはオーク肉を持ち上げる。
「これは高く売れますぞぉ……」
完全に目が危ない。
「保存状態完璧!」
「肉質維持!」
「輸送可能!」
「利益が跳ねますぞ!!」
リナが笑う。
「ほんと商人だね」
「当然ですとも!」
胸を張る。
⸻
その時。
レナが静かにセイルを見る。
昨夜。
庭で練習していた。
そして今日。
もう実用レベル。
(やっぱり早い……)
少しだけ、
胸がざわつく。
だが。
同時に思う。
(だからこそ)
(私も変わらないと)
その視線の先。
壁に飾られた、
一本の弓。
レナは小さく目を細めた。
⸻
「さて!」
ボルトンが勢いよく立ち上がる。
「今日の買取ですが!」
「この鮮度込みで!」
「銀貨八枚!!」
「増えた!?」
リナが驚く。
ボルトンはドヤ顔だった。
「鮮度は価値ですぞ!」
「いやぁ〜!」
「これは今後楽しみですなぁ!」
完全に未来を見ていた。
⸻
セイルは苦笑しながら、
少しだけ安心していた。
自分の力は、
まだ隠しきれない。
でも。
少なくとも、
この商人は——
利益を優先してくれる。
それが今は、
少しありがたかった。




