第30話 Eランクの実力
翌朝。
ラグナス冒険者ギルド。
「大きい……」
セイルが思わず呟く。
以前の街より、
明らかに広い。
冒険者の数も多い。
重装備の男。
大剣使い。
魔法使い。
空気そのものが違った。
「なんか強そうな人ばっかり……」
リナが少し緊張している。
レナは周囲を観察していた。
「オーク街って感じね」
⸻
受付カウンター。
そこにいたのは、
黒髪の女性だった。
眼鏡。
整った顔立ち。
そして、
無駄のない動き。
「次の方」
淡々とした声。
セイル達が近づく。
「依頼を受けたいんですが」
女性は視線を向けた。
そして、
わずかに眉が動く。
「……Eランク?」
少しだけ意外そうだった。
「はい」
セイルが頷く。
女性は書類を確認する。
「オーク討伐依頼ですね」
「はい」
「推奨ランクはDです」
淡々としている。
だが。
少しだけ、
“無理では?”
という空気が混じっていた。
「補助討伐なら許可可能です」
「討伐数制限付きで」
リナがむっとする。
「倒せるよ?」
女性は冷静だった。
「この街では毎年、
新人が無理をして怪我をします」
「慎重なのは悪い事ではありません」
正論だった。
その時。
レナが袋を置く。
ドサッ。
「……オーク右耳十」
「え?」
女性の目が止まる。
さらに。
ゴトッ。
魔石。
「昨日の討伐分です」
静かに言う。
周囲が少しざわついた。
「Eランクが?」
「マジかよ……」
受付嬢——シエラは、
ゆっくりセイル達を見る。
最初とは、
少し視線が変わっていた。
「……失礼しました」
眼鏡を軽く上げる。
「確認が取れました」
「オーク討伐依頼の受注を許可します」
リナが少し得意げだった。
「だから言ったのにー」
レナが小さく笑う。
セイルは苦笑した。
⸻
その日の討伐。
ラグナス周辺の森。
オーク二体。
以前なら緊張した。
だが今は違う。
「右!」
レナが動く。
短剣。
素早い。
だが——
「っ!?」
オークの棍棒。
重い。
完全には流しきれない。
バキッ!!
「レナ!」
腕をかすめる。
浅い。
だが血が滲む。
レナが距離を取った。
「大丈夫!」
そう言うが、
少し動きが鈍い。
セイルが前へ出る。
「強撃改!」
ドォン!!
オークがよろめく。
その隙に——
「双風刃!」
風が走る。
リナとの連携。
オークの身体が大きく裂けた。
「これで!」
セイルが踏み込む。
「強撃改!!」
ドガァッ!!
オークが倒れる。
静かになる。
⸻
「レナ!」
セイルが駆け寄る。
腕から血が流れていた。
「だから大丈夫って……」
レナが苦笑する。
だが。
セイルはすぐに手をかざした。
「ヒール」
淡い光。
傷口がゆっくり塞がっていく。
静かになった。
「……え?」
最初に声を漏らしたのは、
リナだった。
「えっ!?」
「な、何それ!?」
レナも目を見開いている。
「……今の」
セイルが固まった。
「あ」
しまった。
そんな顔だった。
リナがセイルを見る。
「回復魔法!?」
「セイル使えたの!?」
「え、いや、その……」
完全に動揺している。
レナが傷口を見る。
もう、
ほとんど塞がっていた。
「……ヒール?」
その声には、
驚きが混じっていた。
回復魔法。
しかも実用レベル。
普通なら、
それだけでパーティに歓迎される。
なのにセイルは——
前衛も出来る。
風魔法も使う。
索敵もする。
さらに回復まで。
「……何者なの、ほんと」
レナが小さく呟いた。
セイルは困ったように笑うしかない。
その瞬間。
『他者へのヒール成功を確認』
『ハイヒールのレシピを確認』
新しい文字が浮かぶ。
(また増えた……)
セイルは内心少し苦笑した。
⸻
「すごい……!」
リナは完全にキラキラしていた。
「何でも出来るじゃん!」
「いや、そんな事ないよ」
「あるよ!?」
即答だった。
レナは少しだけ黙る。
視線が、
セイルへ向く。
昨夜見た、
庭で努力する姿が頭をよぎった。
努力して。
強くなって。
さらに前へ進んでいく。
(……私も)
負けていられない。
その想いが、
少しずつ形になり始めていた。
⸻
「おぉー!」
リナが空気を変えるように笑う。
「今日も勝ったね!」
「うん」
セイルも笑った。
ラグナスでの日々。
オーク討伐。
成長。
そして——
少しずつ変わっていく、
三人の関係。
その物語は、
まだ始まったばかりだった。




