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第26話 オーク素材

倒れたオークを前に、

しばらく誰も動かなかった。


「……勝ったぁ」


リナがその場へ座り込む。


レナも息を吐きながら、

短剣についた血を払った。


「初オークでこれは上出来ね」


セイルはオークを見下ろす。


大きい。


ゴブリンとはまるで違う。


筋肉も。


重さも。


そして——


「……これ、どうするんですか?」


セイルが呟く。


すると。


「ふっふっふ」


後ろから声がした。


ボルトンである。


いつの間にか、

目をキラキラさせていた。


「オーク素材は高級品ですぞ!」


「牙!」


「魔石!」


「そして肉!」


「全部お金になりますぞぉ!!」


「肉も!?」


リナが反応する。


「もちろんですとも!」


ボルトンは胸を張った。


「特にオーク肉は人気でしてな!」


「焼いて良し!」


「煮込んで良し!」


「保存すれば高値!」


完全に商人の顔だった。



「じゃあ、まずは解体ね」


レナが短剣を抜く。


「解体?」


セイルが聞き返す。


「素材回収」


「魔物討伐の基本よ」


そう言いながら、

レナはオークの牙を抜き取る。


手際が良い。


「次に魔石」


胸の右側へ刃を入れる。


「オークは右胸寄り」


ゴリッ。


赤黒い魔石が取り出された。


「おおー……」


リナが少し引いている。


「うわぁ……」


セイルも見つめる。


その瞬間。


『解体のレシピを確認』


(解体もスキルなのか……)


セイルは小さく息を吐いた。


この世界では、

生きる技術そのものが力になる。


改めて実感する。



レナはさらに肉を切り分けていく。


「この辺が食べやすいわね」


「脂少なめ」


「詳しいね」


セイルが感心すると、

レナは肩をすくめた。


「野営料理のスキル持ってるから」


「料理もスキルなんだ」


「当然でしょ」


レナは当たり前のように言った。


「食事って、戦闘より大事な時あるもの」


その言葉に、

セイルは少しだけ感心した。



解体が終わる頃には、

素材が綺麗に並べられていた。


牙。


魔石。


そして大量のオーク肉。


その瞬間。


ボルトンの目がキラッと光る。


「さて……!」


嫌な予感しかしない。


「そのオーク素材!」


「ぜひ私に売っていただけませんかな!?」


やはり商人だった。


リナが笑う。


「顔すごいよ?」


「商人ですからな!」


即答だった。


ボルトンは指を立てる。


「通常なら!」


「牙、魔石、肉込みで銀貨三枚ほど!」


「おおー……」


リナが感心する。


セイルも少し驚いた。


ゴブリンとは桁が違う。


するとボルトンは胸を張った。


「しかし!」


「今回は護衛中に助けていただいたお礼込みで!」


「銀貨四枚で買い取りますぞ!」


「四枚!?」


リナが目を丸くする。


レナも少し驚いていた。


「……かなり良い値段ね」


「でしょう!?」


ボルトンが嬉しそうに頷く。


「今、オーク素材は高騰中ですからなぁ!」


完全に目が商人だった。


セイルは苦笑する。


「じゃあ、お願いします」


「毎度ありですぞぉ!!」


ボルトンは本当に嬉しそうだった。



その後。


ボルトンが肉を見ながら言う。


「さて、これはすぐ保存せねば」


「三日もありますからな!」


セイルが首を傾げる。


「腐りません?」


「そこで!」


ボルトンが得意げに手を前へ出した。


「アイスボール!」


ぽわっ——


青白い光。


冷気が広がる。


切り分けた肉の周囲が、

一気に冷えていく。


「おおっ!?」


リナが目を輝かせた。


「すごい!」


レナも少し驚いている。


「……氷魔法?」


ボルトンは胸を張った。


「唯一使える魔法ですぞ!」


「商人は鮮度が命!」


「保存できなければ損ですからなぁ!」


その瞬間。


『アイスボールのレシピを確認』


(来た……!)


新しい魔法。


しかも戦闘だけではない。


生活にも役立つ力。


セイルは小さく息を飲む。



やがて。


簡易キャンプの準備が始まる。


火を起こし。


串を作り。


切り分けたオーク肉を焼く。


ジュゥゥ……


香ばしい匂いが広がった。


レナが肉へ塩を振る。


焼き加減を見ながら、

火の強さを細かく調整する。


「……そろそろ裏返す」


手際が良い。


しかも。


ただ焼いているだけではない。


肉から漂っていた独特の臭みが、

いつの間にか消えていた。


「えっ、美味しそう!」


リナが目を輝かせる。


セイルも少し驚いていた。


(……魔力?)


その瞬間。


『野営料理のレシピを確認』


文字が浮かぶ。


セイルは少しだけ止まった。


(……いや)


視線をレナへ向ける。


火加減を見て。


肉を焼いて。


自然にこの場を回している。


慣れている。


この役割は——


レナのものだ。


(これまで覚えたら)


(レナの役割まで無くなる気がする)


少しだけ迷い——


セイルは静かに視界を閉じた。


『野営料理のレシピ取得を見送りました』


『LUKが微増しました』


「……え?」


セイルがわずかに目を見開く。


初めてだった。


覚えない選択。


その結果、

何かが少しだけ変わった気がした。



「はい、焼けた」


レナが串を差し出す。


リナが即座に受け取った。


「あっつ!?」


「だから言ったでしょ」


レナが呆れる。


セイルは思わず笑った。


そして、

オーク肉を一口食べる。


「……美味しい」


想像より柔らかい。


香ばしい。


疲れた身体に、

じわっと力が戻る感じがした。


「おぉぉ……!」


ボルトンが感動したような顔をする。


「高級肉の香りですぞぉ……!」


「ボルトンさん、顔が商人です」


「商人ですからな!」


即答だった。


リナが吹き出す。


レナも少し笑っていた。


その空気を見ながら、

セイルは小さく息を吐く。


護衛依頼。


初オーク。


新しい街。


少し前までは、

知らなかった世界。


だが今は——


それが少しずつ、

自分の日常になり始めていた。

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