第22話 信用
夜。
村の空は静かだった。
街よりも星が近い。
セイルは家の裏へ出る。
その先には——
父がいた。
薪を割っていた手を止める。
「……どうした」
低い声。
セイルは少しだけ迷った。
だが。
「相談がある」
父は何も言わない。
続きを待っていた。
⸻
「レナとリナのことなんだけど」
「……」
「この先も、一緒に行くと思う」
オーク。
次の街。
その先。
たぶん——
これからも。
父は静かに聞いている。
「でも」
セイルは少し視線を落とした。
「今まで、スキルのこと隠してた」
強撃。
ファイアー。
ヒール。
サーチ。
ウィンド。
短剣術。
そして——
レシピ。
本当の力は、何も話していない。
「……悪い人じゃない」
セイルは小さく言った。
「二人とも、信用できると思う」
風が吹く。
少しだけ沈黙が落ちた。
やがて——
父が口を開く。
「お前はどうしたい」
「え?」
「話したいのか」
セイルは少しだけ考えた。
そして、頷く。
「……うん」
一人で隠し続けるには、
もう限界が近かった。
戦闘も増える。
敵も強くなる。
連携も必要になる。
「この先も一緒に戦うなら」
「ちゃんと話した方がいい気がする」
父は静かに息を吐いた。
そして——
「なら、話せばいい」
セイルが顔を上げる。
父は真っ直ぐ見ていた。
「お前が心から信用できるならな」
短い言葉。
だが、
迷いはなかった。
「……いいのか?」
「全部隠して生きるのも、限界がある」
父はそう言った。
「特に仲間相手ならな」
セイルは小さく息を吐いた。
胸の奥が、
少し軽くなる。
「……ありがとう」
父は何も答えない。
だが、
少しだけ口元が緩んだ気がした。
⸻
翌朝。
村の外れ。
出発前。
レナとリナが荷物を整えていた。
「セイル遅ーい」
リナが笑う。
「寝坊?」
「違うよ」
セイルは苦笑する。
だが、その表情は少しだけ真剣だった。
「……二人に話したいことがある」
空気が少し変わる。
レナが気づいたように顔を上げた。
「どうしたの?」
セイルは少しだけ迷う。
だが。
決めた。
「今まで、黙っててごめん」
「?」
リナが首を傾げる。
セイルはゆっくり息を吸った。
「俺のスキル」
「普通じゃないんだ」
⸻
数分後。
沈黙。
「……え?」
最初に声を出したのはリナだった。
「見たスキルを……覚えられる?」
レナも珍しく言葉を失っている。
「それって……」
「はい」
セイルは頷く。
「正確には、“レシピ”が出る」
条件。
回数。
熟練。
それを満たすことで習得できる。
全部を話した。
隠していたことも。
サーチを持っていたことも。
「……ごめん」
セイルは頭を下げた。
「信用してなかったわけじゃない」
「でも、怖かったんだ」
利用されること。
狙われること。
変に見られること。
その全部が。
静かな空気が流れる。
やがて——
「いや、そりゃ黙るでしょ……」
リナがぽつりと言った。
「普通に危ないじゃん、それ」
セイルが顔を上げる。
レナも苦笑していた。
「むしろ今までよく隠し切れたわね」
怒っていない。
その事実に、
セイルは少しだけ力が抜けた。
「……怒らないの?」
「怒る理由ある?」
レナが肩をすくめる。
「誰だって隠したくなる」
リナも何度も頷いた。
「うんうん!」
「でも、話してくれてありがと!」
その言葉に、
セイルは少しだけ笑った。
「……ありがとう」
⸻
そして。
レナがふと思い出したように言う。
「そういえば、次の街」
「小規模レイドあるらしいわよ」
「レイド?」
セイルが聞き返す。
「オークの集落討伐」
レナが説明する。
「複数パーティ合同」
「Dランク以上限定だけど」
「Dランクか……」
セイルが小さく呟く。
今の自分たちは、まだEランク。
少し足りない。
リナは目を輝かせていた。
「すごそう……!」
「いっぱい冒険者来るんだよね!?」
「剣士とか!」
「魔法使いとか!」
「騎士とかもいるかも!」
セイルの胸が少し高鳴る。
色んなスキル。
見たことがない戦い方。
その可能性を考えるだけで、
鼓動が速くなる。
その時だった。
レナが小さく笑った。
「……なら」
二人を見る。
「頑張ってDランクになって、レイド参加しましょうか」
一瞬。
静かだった空気が変わる。
「やる!」
リナが即答した。
「絶対参加したい!」
セイルも自然と笑っていた。
「……うん」
次の街。
オーク。
Dランク。
そして、レイド。
目標が出来た。
一人ではなく。
今は——
三人で目指す未来だった。




