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第19話 帰る場所

夕方。


今日の討伐を終えた三人は、ギルドへ戻っていた。


「お疲れさまです」


ユナが笑顔で迎える。


カウンターへ、ゴブリンの右耳と魔石を並べる。


「今日は七体ですね」


「うん!」


リナが元気よく頷いた。


「今日はいっぱい倒したよ!」


レナも軽く息を吐く。


「リーダーがいなかった分、楽だったわね」


ユナは帳簿へ記入していく。


その途中で、ふと顔を上げた。


「……あ」


「?」


セイルが首を傾げる。


ユナは少し微笑んだ。


「セイルさん、Eランクへの昇格条件を達成しています」


「え?」


リナが先に反応する。


「ほんと!?」


ユナは頷いた。


「はい。継続依頼達成数と討伐評価、どちらも基準を超えています」


そう言って、一枚のカードを取り出した。


ギルドカード。


そこへ、小さな魔法陣が浮かぶ。


淡い光。


そして——


「これで、Eランクです」


セイルは少しだけ目を見開いた。


「……もう?」


思わず呟く。


レナが苦笑した。


「ゴブリン結構倒してるからね」


「むしろ早い方だと思う」


リナが嬉しそうに笑う。


「おめでとー!」


ぱん、と背中を叩かれる。


セイルは少し照れながら笑った。


「ありがとう」


ユナも優しく笑う。


「これから受けられる依頼も増えますよ」


Eランク。


まだ上にはたくさんいる。


だが——


確かに、一歩進んだ。


そんな実感があった。



ギルドを出る頃には、街は夜の空気へ変わっていた。


「じゃあ、今日はここで!」


リナが手を振る。


「また明日ね!」


「うん」


セイルも頷く。


レナも軽く笑った。


「ちゃんと休みなさいよ」


「レナもね」


二人が去っていく。


その背中を見送りながら、セイルは小さく息を吐いた。


(……不思議だな)


少し前まで、一人だった。


だが今は、誰かと戦っている。


その感覚が、嫌ではなかった。



宿へ戻る。


扉を開けると、温かい匂いが迎えてくれた。


「あ、おかえり!」


ミアが笑顔で手を振る。


「今日は早いねー!」


「依頼が順調だったので」


「おっ、冒険者っぽい!」


ミアが楽しそうに笑う。


マルタはカウンターの奥で腕を組んでいた。


「ちゃんと飯は食べるんだよ」


「はい」


セイルは自然に頷いた。


気づけば、このやり取りにも慣れていた。


少し前なら、

宿なんて寝る場所でしかなかった。


だが——


今は違う。


ここへ帰ってくると、少し安心する。


「……」


セイルはふと考える。


レナたちの宿へ移ることも、できなくはない。


だが。


(まあ、まだいいか)


マルタも。


ミアも。


気づけば、かなり話すようになっていた。


今さら宿を変えるのも、少し違う気がした。



食事を終え、部屋へ戻る。


剣を壁へ立てかける。


ベッドへ腰を下ろす。


そして、小さく息を吐いた。


「……さて」


次のレシピ。


ウィンド。


今日は、それを試してみる。


セイルは静かに手を前へ出した。


「ウィンド」


その瞬間——


ボフッ!


「うわっ!?」


置いてあった布が吹き飛ぶ。


机の紙も舞い上がった。


「げほっ……!」


風だけが部屋中に広がる。


威力もない。


切れ味もない。


ただ散らかっただけだった。


「……いや、これはダメだろ」


思わず苦笑する。


宿の部屋でやる魔法ではない。


セイルは窓の外を見る。


「……外行くか」



宿の裏手。


夜風が静かに流れていた。


街の喧騒も少し遠い。


木が揺れる音だけが聞こえる。


セイルは周囲を確認する。


「サーチ」


ぼんやりと気配を探る。


近くに人はいない。


「よし」


小さく息を吐く。


そして、もう一度手を前へ向けた。


「ウィンド」


今度は、風の流れを意識する。


広げない。


集める。


細く。


鋭く。


ブワッ。


風が木の葉を揺らす。


だが、まだ散る。


「……難しいな」


ファイアーとは違う。


火は、一点へ集めればよかった。


だが風は、逃げる。


まとまらない。


「もっと細く……」


もう一度。


「ウィンド」


ヒュッ。


今度は細い風が走った。


木の葉が一枚だけ切れて、ひらりと落ちる。


「……!」


セイルの目がわずかに開く。


今のは違った。


ほんの少しだけ。


だが、“刃”になった。


「いける……」


セイルは小さく笑う。


少しずつ。


本当に少しずつ。


形になっていく。


夜風の中。


誰にも知られないまま、

セイルはまた一つ、新しい力へ手を伸ばしていた。

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