第17話 強撃改
朝。
窓から差し込む光で、セイルは目を覚ました。
「……ん」
身体を起こす。
少しだけ重い。
昨日、サーチを習得した影響だろう。
頭の奥に、まだ微かな疲労感が残っていた。
「……難しいな」
小さく苦笑する。
強いスキルほど、
簡単には扱えない。
だが——
その分だけ、価値がある。
⸻
階段を降りる。
宿の中には、朝の匂いが広がっていた。
焼きたてのパン。
スープ。
少し焦げたベーコンの香り。
「おはよう!」
ミアが元気よく手を振る。
「おはよう」
セイルも笑って返した。
「今日は早いねー」
「昨日いっぱい寝たので」
「それ、冒険者っぽい返事!」
ミアが楽しそうに笑う。
マルタは呆れたように肩をすくめた。
「無茶するんじゃないよ」
「はい」
素直に頷く。
⸻
食事を終え、ギルドへ向かう。
朝の街は、まだ静かだった。
だが——
ギルドへ近づくにつれ、少しずつ人が増えていく。
冒険者たち。
商人。
荷運び。
活気がある。
その空気を感じながら、セイルは扉を開けた。
「あ」
先に気づいたのはリナだった。
「セイル!」
ぱっと笑顔になる。
レナも軽く手を上げた。
「おはよう」
「おはよう」
セイルも自然に笑う。
昨日より、少しだけ距離が近い。
「今日もゴブリン?」
リナが聞く。
「うん」
セイルは頷いた。
「まだ稼ぎやすいし」
レナも同意する。
「危険度と報酬のバランスは悪くないのよね」
「リーダーは怖いけど……」
リナが苦笑する。
ユナがカウンター越しに微笑んだ。
「今日も三人ですか?」
レナが軽く肩をすくめる。
「しばらくは、ですね」
「なるほど」
ユナは依頼書を取り出す。
「今日は西側の森です」
「最近、ゴブリンの群れが増えているので」
セイルは依頼書を受け取る。
その瞬間。
『サーチ』
頭の中に、自然と感覚が広がった。
「……っ」
昨日ほどの頭痛はない。
まだ不慣れだ。
だが、分かる。
ギルド内の人の位置。
動き。
気配。
「……便利だな」
小さく呟く。
「ん?」
リナが首を傾げた。
「なんでもない」
セイルは軽く笑った。
まだ言わない。
今はまだ。
⸻
森へ入る。
レナが目を閉じる。
「サーチ」
セイルも同じように意識を広げた。
(……いる)
前方。
三。
少し離れて二。
ぼんやりだが、分かる。
その瞬間。
『サーチによる感知を確認』
『サーチ改への進化条件を表示します』
セイルの目がわずかに動く。
『モンスターを100回感知してください』
『罠を10回察知してください』
『現在達成:7 / 100』
(……進化するのか)
サーチにも、その先がある。
セイルは静かに息を吐いた。
「右から来る」
「え?」
レナが目を開く。
次の瞬間。
茂みからゴブリンが飛び出した。
「ギャッ!」
「うわっ!?」
リナが驚く。
レナが目を見開いた。
「なんで分かったの?」
セイルは一瞬だけ止まる。
(しまった)
だが。
「……気配がしたから」
完全な嘘ではない。
レナは少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は聞かなかった。
「来る!」
ゴブリンが突っ込んでくる。
レナが前へ。
リナが後ろへ下がる。
「ウィンド!」
風が吹き抜ける。
ゴブリンの動きが止まった。
「今!」
セイルは踏み込む。
「強撃!」
ドンッ。
ゴブリンが吹き飛ぶ。
さらに——
もう一体。
「強撃!」
今までより、速い。
軽い。
剣が自然に振り抜ける。
(……違う)
身体が、馴染んでいる。
ゴブリンが距離を取ろうとする。
だが。
「強撃!」
三発目。
一歩速く届く。
深く入る。
ゴブリンが崩れ落ちた。
その瞬間。
『格上使用:10 / 10』
表示が浮かぶ。
さらに——
『強撃改の条件を達成しました』
『進化を開始します』
身体の奥が熱くなる。
握っている剣が、
少しだけ軽い。
力が流れる感覚。
今までより自然に、
鋭く振れる。
『強撃改を習得しました』
セイルは小さく息を吐いた。
(これが……)
見た目は変わらない。
派手な光もない。
だが、分かる。
威力。
速度。
どちらも上がっている。
「セイル!」
レナの声。
セイルはすぐ前を見る。
「大丈夫!」
返事をしながら剣を構える。
リナが風で動きを止める。
レナが隙を作る。
そこへ——
「強撃」
振り抜く。
速い。
だが、不自然ではない。
二人は気づかない。
ただ——
「今日は調子いいね!」
リナが笑った。
セイルも少し笑う。
「……かもね」
強撃改。
そして、サーチ改への道。
セイルの力は、
誰にも知られないまま、
静かに進化を続けていた。




