第15話 初めての仲間
街へ戻る頃には、空が赤く染まり始めていた。
森を抜け、石畳の道へ出る。
セイルは背中の袋を軽く持ち直した。
中には——
ゴブリンの右耳。
そして魔石。
思ったより、重い。
「今日は結構倒したねー!」
リナが明るく言う。
「疲れたけど……!」
「リーダーまでいたからね」
レナが苦笑する。
「でも、無事でよかった」
その言葉に、セイルも小さく頷いた。
「うん」
一人だった頃より、
疲れているはずなのに。
不思議と、気持ちは軽かった。
⸻
ギルドの扉を開ける。
夕方ということもあり、中はかなり賑わっていた。
冒険者たちの笑い声。
酒の匂い。
依頼帰りのざわめき。
その中を、三人でカウンターへ向かう。
「あ、おかえりなさい」
ユナが顔を上げる。
だが——
次の瞬間、少し目を丸くした。
「……あれ?」
セイルの後ろを見る。
「パーティ組んだんですか?」
リナが慌てて手を振った。
「ち、違います!」
「えっと、その……!」
レナが苦笑する。
「期間限定、みたいなものです」
「ゴブリンが危なかったから、一緒に動いてるだけ」
ユナは納得したように頷いた。
「なるほど」
だが、その表情は少し安心したようにも見えた。
「でも、よかったです」
「ソロは危険ですから」
セイルは少しだけ困ったように笑った。
「……そうみたいです」
ユナがくすっと笑う。
「それで、依頼達成ですね?」
「はい」
三人は袋をカウンターへ置いた。
右耳。
そして魔石。
ユナが確認していく。
「ゴブリン五体……」
「それに、リーダーまで」
少し驚いたように顔を上げた。
「初日でこれはすごいですね」
「初日じゃないよ?」
リナが言う。
「セイル、結構戦えるし!」
「リナ」
レナが軽く止める。
セイルは少し照れたように笑った。
「まだまだだよ」
ユナは右耳をまとめ、帳簿へ記入していく。
「通常ゴブリン五体」
「討伐報酬が、大銅貨二十五枚」
「魔石買取が、大銅貨十五枚」
さらに、少し大きい魔石を持ち上げる。
「そして——ゴブリンリーダー」
「討伐報酬、大銅貨八枚」
「リーダー魔石が、銀貨一枚になります」
リナが目を丸くした。
「ぎ、銀貨!?」
「そんなに高いの!?」
ユナが頷く。
「リーダー級の魔石は、魔力が強いので」
「素材価値が高いんです」
カウンターへ硬貨が並べられていく。
大銅貨。
そして、銀貨。
金属音が響く。
「合計で——」
「大銅貨四十八枚、銀貨一枚になります」
約五万八千円。
セイルは、しばらくその金額を見つめていた。
(……すごいな)
角うさぎとは比べ物にならない。
命懸けだ。
だが、その分だけ報酬も大きい。
「すごーい!」
リナが嬉しそうに声を上げる。
「今日はちょっといいご飯食べられるかも!」
レナも少し笑った。
「そうね」
ユナは硬貨を分けながら聞く。
「三人で分配しますか?」
レナは首を横に振った。
「討伐数的に、セイル多めでいいと思う」
「えっ?」
セイルが顔を上げる。
「でも……」
「いいの」
レナははっきり言った。
「今日、一番危なかったのリーダーだし」
「かなり助けられたから」
リナも何度も頷く。
「うんうん!」
セイルは少しだけ迷ってから、小さく頭を下げた。
「……ありがとう」
ユナはその様子を見て、少しだけ微笑んだ。
⸻
ギルドを出る頃には、空はすっかり暗くなっていた。
「じゃあ、今日はここまでかな」
レナが言う。
「私たち、予約してる宿あるし」
「セイルも来る?」
リナが聞く。
だが、レナがすぐに首を振った。
「あ、でも部屋空いてないかも」
「いつも混んでるし」
セイルは軽く笑う。
「大丈夫」
「俺も泊まってる宿あるから」
「そっか」
リナは少し残念そうだった。
だが、すぐに笑顔になる。
「じゃあ、また明日!」
「うん」
セイルは頷く。
レナも軽く手を振った。
「また明日」
二人が去っていく。
その背中を見送りながら、セイルは小さく息を吐いた。
そして——
そっと、自分の手を見る。
(……今なら)
頭の中には、いくつものレシピが残っている。
サーチ。
ウィンド。
短剣術。
強撃改。
誰にも見せていない力。
それを試せるのは——
夜、一人の時間だけだった。




