第13話 討伐の証
「……じゃあ、これで終わり?」
リナが倒れたゴブリンを見ながら言う。
レナは首を横に振った。
「まだ」
そう言って、腰のナイフを抜く。
セイルは少し目を瞬かせた。
「……?」
レナはゴブリンのそばにしゃがみ込む。
「討伐証明、取らないと」
「討伐証明?」
「うん」
レナは慣れた手つきで、ゴブリンの耳を持ち上げる。
「ゴブリンは右耳」
「これを持って帰れば、ちゃんと倒した証拠になるの」
「……なるほど」
セイルは小さく頷いた。
レナはそのままナイフを動かす。
「あと、魔石も」
「魔石?」
セイルが聞き返す。
「モンスターの中にある石だよ」
リナが説明する。
「売れるし、依頼で必要な時もあるの」
レナはゴブリンの胸元を軽く叩いた。
「心臓じゃなくて、少し右」
「この辺にある」
「へぇ……」
セイルは興味深そうに覗き込む。
レナは器用にナイフを入れた。
しばらくして、小さな濁った石を取り出す。
「これ」
「……それが魔石か」
「最初は取り忘れる新人、多いのよね」
レナが少し笑う。
「ちゃんと取った方がお得」
「覚えておくよ」
セイルもゴブリンの前にしゃがみ込む。
右耳。
そして、右胸。
見よう見まねでナイフを動かす。
「……っ」
まだ慣れない。
思ったより力が必要だった。
「そんな感じ」
レナが隣で教える。
「深く切りすぎない方が取りやすいよ」
「うん、ありがとう」
少しずつ。
ぎこちないながらも、セイルは右耳と魔石を取り出した。
「……できた」
「初めてなら十分上手いと思う」
レナが素直に言う。
リナも覗き込む。
「ほんとだ、きれいに取れてる」
セイルは少し照れたように笑った。
「ありがとう」
そのときだった。
レナが、ふと顔を上げる。
「……待って」
空気が変わる。
セイルは表情を引き締めた。
「どうしたの?」
レナは目を閉じる。
そして、小さく呟いた。
「サーチ」
その瞬間。
レナを中心に、わずかに空気が揺れた気がした。
「……二体」
レナが森の奥を見る。
「少し離れた場所にいる」
「こっちにはまだ気づいてない」
リナがほっと息を吐く。
「よかったぁ……」
セイルは、静かにレナを見る。
(今の……)
その瞬間。
『スキル“サーチ”を確認』
頭の中に、声が響く。
(……来た)
『サーチのレシピを取得しますか?』
セイルは表情を変えなかった。
(YES)
『サーチのレシピを取得しました』
『現在、条件不足のため習得できません』
(……やっぱり、すぐには無理か)
セイルは内心で小さく息を吐く。
だが、不思議と落胆はなかった。
むしろ——
(面白いな)
また、新しい道が増えた。
レナはまだ周囲を警戒している。
「少し移動しよう」
「ゴブリンって、近くに群れいること多いから」
「うん」
セイルは頷いた。
そして、そっと胸の内で考える。
(……夜、試してみるか)
誰にも見られない場所で。
一人で。
少しずつ。
セイルは立ち上がる。
右耳と魔石を袋にしまった。
冒険者としての経験が、また一つ増えていく。
そして——
まだ誰にも見せていない力も、静かに増え続けていた。




