第110話 増えた穴
「……B級候補かぁ」
銀灯亭へ戻る途中。
リナがまだ少し嬉しそうに呟く。
「すごいよね!」
「まだ決まってねぇけどな」
バルトが笑う。
だが。
以前とは違った。
王都ギルド。
ギルド長。
周囲の冒険者達。
全員がフォーチュンスターを見始めている。
その実感だけはあった。
「でも次はちゃんと報告しようね……」
レナが疲れた顔で言う。
「忘れない」
セイルは即答した。
信用は半分くらいだった。
翌日。
フォーチュンスターは再び王都ダンジョンへ潜っていた。
目的はいつも通り。
第三層。
アースドラゴン。
素材と経験値。
王都生活は金がかかる。
しかも今は、
ガンドの鍛冶場準備まで始まっている。
稼げる時に稼ぐ。
それが今の方針だった。
第二層。
薄暗い通路を進む。
以前より余裕がある。
周囲の魔物も、
今ではそこまで脅威ではなかった。
そんな中。
セイルが急に止まった。
「……ん?」
全員止まる。
「どうした?」
バルトが盾へ手をかける。
セイルは目を閉じる。
サーチ改。
そして。
エリアサーチ。
頭の中へ広がる地形。
反応。
通路。
壁。
その中に。
「……変」
「なにが?」
リナが覗き込む。
セイルはゆっくり壁を見る。
「道がある」
沈黙。
「え?」
レナがすぐ地図を開く。
今まで記録してきた第二層マップ。
かなり正確なはずだった。
「そんな場所ないけど……」
セイルは壁際へ近づく。
そして。
岩陰の奥。
不自然に崩れた壁。
その先。
細い穴。
「……ほんとだ」
リリスが小さく呟く。
明らかにおかしい。
昨日まで無かった。
「隠し通路?」
バルトが眉をひそめる。
だがセイルは首を横へ振った。
「違う」
「新しい」
その言葉に、
少し空気が変わる。
レナも真顔になる。
「待って」
地図を確認する。
「ここ、
本当に何も無かった場所」
そして。
セイルがさらに目を閉じる。
エリアサーチ。
範囲拡大。
その瞬間。
少しだけ眉が動いた。
「……もう二つある」
「は?」
全員止まる。
「二つ?」
「穴」
「全部で三つ」
静寂。
第二層。
今まで存在しなかった穴。
しかも三箇所。
嫌な予感しかしなかった。
バルトが低く呟く。
「……なんか嫌だな」
レナも頷く。
「普通じゃない」
その時だった。
穴の奥。
カサッ。
小さな音。
全員の視線が向く。
暗闇。
そして。
赤い小さな目。
一つ。
二つ。
三つ。
いや。
もっと。
「……蟻?」
リナが小さく呟く。
だが。
セイルの顔は変わらなかった。
「違う」
「数が多い」
その瞬間。
穴の奥から、
一斉に無数の足音が響き始めた。




